第29話 かわいいの魔法
わたしとルナリアは、メミニがコーディネートした『この街に溶け込めるファッション』に身を包み、再び大通りへと足を踏み入れた。
「これが人の街なんですね~。キラキラしていてすごいです!」
少し先を走っていくルナリアを見つめる。
ルナリアは、ドレスともローブとも違う、薄い生地の服を身に纏っている。肩には袖がなく、膝から下の素肌が見えていて、子どもらしいと言えば子どもらしいのだけれど、さすがに肌を出し過ぎじゃないかしら? まあ、わたしの服も同じなのだけれど……。
【でもほら、周りを見て。若い女性はみんな肌を出して歩いているでしょう?】
メミニに促されて、周囲を行きかう人々を観察してみる。
「たしかにそうね……。周りと見比べて、この服装なら違和感はないわ」
ただ着慣れていないから、少し気恥ずかしさがあるだけなのよね……。
でもね、メミニ。それはそれとして置いておくとしても、この服には何の加護もかかっていないから防御性能に不安が残るわね。
【リアンナ、人族の服に防御性能はいらないんだよ……。魔法がない世界だからね。兵士たちが装着する鎧も物理攻撃を防ぐためのものだね】
「そうだったわね。失念していたわ。この世界には魔法がないのだったわ……」
こうしてその現実を見せつけられると、少し淋しい気持ちになるわね。
【防御を気にしなくて良いから、かわいさだけを考えれば良いんだよ。その点で言えば、リアンナとルナリアは元が良いから本当によく似合っているよ。おいらの見立て通りだ!】
「またすぐにお世辞を言うんだから。そういうのはいらないって、ずっと言い続けているのに、あなたも学習しないわね……」
いくらわたしの容姿を褒めても、何もご褒美なんてあげないわよ。
【おいらはとっても正直者なのに……。ほら、見てよ。またルナリアが男の人に声をかけられているじゃない。服装は街に溶け込めていても、美人過ぎて人の目を引いてしまうんだろうね。……やっぱり耳を隠すために帽子を買わないとダメかな】
「ルナリアに集る虫をちょっと追い払ってくるわ」
わたしの大切な娘に手を掛けようなんて5,000年早いのよ!
【あ、ちょっとリアンナ! 魔法は絶対ダメだからね!】
「わかってるわよ。人族の1人や2人くらい、素手でも殺せるわ」
エルフ族の身体能力を舐めないことね。
【ダメダメ! たとえ向こうから絡んできた人だったとしても、殺すのもケガをさせるのもダメだから! 騒ぎになっちゃうからね! これで今日、同じ注意をするのは3回目だよ!】
「……わかったわよ。騒ぎになると街を見学できなくなるんでしょ。覚えているわ……」
一瞬で気絶させてどこかに捨てれば良いのよね。ちゃんとわかっているわよ。
「ちょっとあなたたち! わたしの娘に何か用事かしら⁉」
ルナリア、震えていないでこっちにいらっしゃい。
怖かったわね。だからもう1人で先に行かないの。わたしかメミニの傍を離れちゃダメよ。
「今度はわたし? 節操がないわね……。母親に見えない? どこからどう見てもこの子の母親でしょう! ちゃんと血だって繋がっているのよ!」
血が繋がっているのだし、母親代わりなのだから、何も間違っていないわ。
【若干、願望とウソで事実が捻じ曲げられているけれどね】
うるさいわね。
今処理するから待っていなさい。
【できれば穏便にね……】
わかっているわよ!
「あなたたち、こっちに来なさい! わたしとルナリアがどれほど深い家族の絆で結ばれているか教えてあげるわ!」
そう、こっちよ。
人気のない路地に来なさい! 何もしないわよ?
「さあ、これでもう安心よ。街の見学の続きをしましょう。でも今度こそ、わたしとメミニから離れないこと。良いわね?」
「あの人たちは……あのままで大丈夫なのでしょうか……」
ルナリアがさっきの路地を気にして、チラチラと後ろを振り返っている。
「大丈夫よ。記憶は消しておいたし、半日は目覚めないように眠らせておいたから」
【だから魔法は使わないでってあれほど……】
「人前では使っていないのだから問題ないでしょう?」
それに殺してもいないし、ケガもさせていないわ。何か問題でも?
【誰かに魔法を使っているところを見られたりしたらすごく面倒なことになるかもしれないでしょう?】
「そんなの路地に入った瞬間に人払いの補助魔法をかけているに決まっているでしょ! わたしを何だと思っているのよ!」
昨日今日魔法を使い始めた赤ちゃんじゃないのよ?
「人払いの補助魔法というのがあるのですか?」
「あるわよ。わたしが考えたオリジナルの魔法なの」
「オリジナルですか⁉ すごいです……」
あらあら。尊敬の対象になってしまったわね♡
母と呼ばれる日も近いかしら。
「ルナリアは、人払いの魔法に興味があるの?」
「さっきからなぜかずっと声をかけられっぱなしなので……とても便利そうだなと思いました」
【ルナリアはかわいいから仕方ないよ。街中を1人で歩いていたら、お近づきになりたいなと思って声をかけてくるんだよ】
「かわいい……お父さんたちがルナのことを『かわいいかわいい』と言って育ててくれたので……もしかしたら、あれが魔法だったのでしょうか⁉」
もう! なんてかわいいのかしら!
「り、リアンナさん⁉ くるしいです……」
「わたしもあなたのお父さんと同じ気持ちよ。ルナリアがかわいすぎて仕方がないから、かわいいの魔法を掛け続けるのよ。ギュッギュッとね♡」
まさか名前も知らない姉さんのパーティー仲間たちと同じ想いを共有することになるとはね……。でも、ルナリアは本当にかわいいわ。一緒にいるだけで守ってあげたくなるもの。
なぜ、こんなにもかわいい子を残して、あなたたちは死んでしまったの……。
【リアンナ……】
そんな顔しないで。
わたしにだってわかっているわよ。
人族の一生はとても短いものね。
いつかはルナリアも……わたしを残していなくなってしまうのよね……。




