第27話 交渉事の向き不向き
「驚いたわ。ここは本当に大きな街なのね……」
高い城壁ね。
ここまで近づくと、遠くからは見えていた立派な城がもう見えないわ。
ところで、どこから街に入れば良いのかしら?
【リアンナ、ここに並ぶんだよ】
メミニが旅人らしき人々を指さしている。
人も、家畜が引く乗り物も、街に入るのにわざわざ列を作って並ぶのね。
何かの風習かしら?
【城壁がある街ではよくあることだよ。一部の門からしか街の中に入れないようにしているんだ】
「なぜ?」
【城壁で囲われた街は、1,000年前にもあったはずだから、リアンナも知っているよね? もしかして見たことがなかったのかな? 人族はね、自分たちの領地を守るために、不審な人を中に入れないように門のところでチェックしているんだよ】
そんな街……あったかしらね。人族の街には立ち寄ったことがなかったからわからないわ。
でもなぜわざわざ時間を掛けてチェックするのかしら。
わたしたちは不審ではないのだから、早く中に入りたいわ。
「顔を見れば、何か良からぬことを企んでいるかどうかはすぐにわかるじゃない?」
【それは……おいらにはわからないや】
「簡単よ。見分け方は、エルフか、そうではないか。ただそれだけよ」
あとは感覚よね。
エルフ族の中でも、仲良くなれそうかは一目見て決めるしかないもの。気が合いそうなら交流を持てば良いのよ。
【リアンナはリアンナだったね……。真面目に取り合おうとしたおいらが悪かったよ……。ああ、次がおいらたちの番だね。リアンナ、おいらが対応するから、何があっても黙って見守っていてくれる?】
「なに? わたしがしゃべると何か不都合でも?」
【この間の村の時みたいに、門番とケンカでもしてしまったら、この街に入れなくなるからね……】
「あれは向こうがケンカ腰で来たのよ。わたしは悪くないわ」
村ごと消滅させなかっただけでもガマンしたのよ。わたしもすっかり大人になったわね。
【その認識の甘さが怖いんだよね……。今後、交渉事はおいらが担当するから、リアンナは後ろでニコニコしていてくれればそれで良いからね】
「嫌よ。知らない相手に見せる笑顔なんてないわ。ねぇ、ルナリア」
好意があると勘違いされて、迫って来られたら面倒だもの。
「ルナは……知らない人と話す自信はないです」
ルナリアは消え入りそうな声でそう呟くと、わたしのローブの裾を掴んで俯いてしまった。
ただ街を見学に来ただけなのだし、無理に話す必要はないのよ。
「メミニが全部やってくれるらしいから、わたしたちは後ろで待っていましょう」
【じゃあいよいよ、おいらたちの番だ。本当にそこから一歩も動かないでよね。すぐに戻るから、良いね?】
メミニが険しい表情でわたしたちことを見つめた後、その表情を崩すことなく門の中に入っていった。
「人族の街に入るって面倒なのね……。わたしが顔を見せればすぐ済むはずなのに」
「そうなんですか?」
「正確に言えばわたしと、ルナリアの持っている蒼月珠のペンダントがあれば、かしらね。わたしのはほら、蒼月珠のピアスだし」
蒼月珠のピアスでも、族長に連なる者である証は立てられるのだけれど、それで弱い場合は、族長の証――蒼月珠のペンダントを見せればさすがに一発よね。
「これはそんなに重要なものだったんですね……」
ルナリアが自身の首に掛かっている革紐を引っ張って、胸元から蒼月珠のペンダントを取り出した。
「一族に伝わる宝珠よ。族長に代々受け継がれてきているのよ。エルフ族に訪れた危機を何度も救ってきたらしいわ」
あまり過去のことには興味はないのだけれど。
「すごいです……。そんな大切なものをルナが保管していて良いのでしょうか……。やはりリアンナさんが持っていたほうが安心かもしれないです……」
革紐を外してわたしに蒼月珠のペンダントを渡そうとしてくる。
「ダメよ。姉さんはルナリアを選んだの。その遺志を引き継いで、あなたが持っているべきよ。でもね、あなたが成長するまではわたしが族長代理を務めるわ。だから心配しないでちょうだい」
「でも……」
「大丈夫よ。姉さんがそれを譲り渡したということは、ルナリアにはそれを使う資格があるということなのよ。その宝珠は大きな可能性を秘めているの。その中に蓄積した魔力を開放することで、複雑な魔法術式の即時展開も可能にするのよ。使い方によっては、世界の常識を書き換えるくらいのことはできるかもしれないわね」
どう使うかはあなた次第よ。
それにしてもメミニはぜんぜん帰って来ないわね。もうずいぶん経つわよ……。
「ちょっと様子を見に行きましょうか」
何かトラブルに巻き込まれたのかもしれないわ。
「で、でも! メミニさんにここを一歩も動くなと念を押されましたし……」
「そうね。確かに言われたわ。でも、もう時効じゃないかしら? その場で待っていろと言うには、遅すぎるもの」
渋るルナリアの手を引いて、門の横にある小部屋のドアに手を掛ける。
この中からメミニの声がするわ。
【だから~、おいらたちは怪しい者ではなくて、旅をしている途中にここに寄っただけで――】
やっぱり不審者扱いされているのね。
メミニは黒いし小さいから、見た目が怪しいのよ。だからわたしが行ったほうが早いと言ったのに。
勢いよくドアを開け、中に入る。
「メミニ、わたしが来たからにはもう安心よ」
【リアンナ⁉ なんで来ちゃったの⁉ あと少しで――】
メミニが勢いよく立ち上がり、イスが後ろにバタンと倒れる。
「はい……それでは臨時通行許可証の発行を……はっ⁉ だから、通行許可証のないものを通すわけにはいかん! 帰れ帰れ!」
あら? もしかして今、催眠状態だったのかしら?
【そうだよ! なかなか催眠にかかりにくい人だったから、時間がかかっていただけ! あと少しだったのに、空間が乱れて展開した魔法陣が全部崩れちゃったよ! どうしてくれるの⁉】
「あらあら、ごめんなさい。でも、わたしが来たからにはそんな面倒なことをしなくても大丈夫よ」
見ていなさい。
「人族の子よ、わたしたちをさっさと通しなさい。……通行許可証? そんなものないわ」
ちょっと、何で無言で追い出そうとしてくるの⁉
わたしの顔を見てわからないのかしら⁉
「エルフ族の族長代理のリアンナよ。この子に街を見学させたいの。わかったらさっさと通しなさい」
ちょっと!
だからわたしはエルフ族の族長代理だって言っているでしょ!
ルナリアが蒼月珠のペンダントを取り出して見せても、まったく取り合ってもらえず、わたしたち3人は門兵の詰所から放り出されてしまった。
「なんでわたしたち追い出されたの⁉」
【リアンナたちが邪魔しに来たせいだよ……。あと少しで催眠状態になって、臨時通行許可証を発行してもらえるところだったのに……】
もしかして……わたしのことがわからないほどの田舎者なの⁉




