第26話 82回目の空間魔法
40……何回目だったかしらね?
「リアンナさん、82回目です」
「あら、もうそんなに?」
【だから~! ランダムだから街の近くに行けるかどうかは運――あそこに見えるのは街かな? 2人とも、出てきてごらんよ! ねぇねぇ!】
先に空間の歪みから出て行ったメミニが大声を上げ始めた。
少しテンションが上がっていていつもより幼く感じるわね。そっちのほうが生意気さが薄れてかわいいわよ。
「本当ですね! たくさんの建物が見えます! あれが街なのですね!」
続いて出て行ったルナリアのテンションも上がっていた。
ルナリアは街を見るのは初めてになるのかしら。それなら気持ちが高ぶってもおかしくないわね。
【リアンナ早くきてよ!】
「リアンナさん!」
わかったわよ。
82回目にして当たりを引いたのね。
どんな街並みかしら。
メミニが作った空間の歪みから出て、わたしも自分の目でその光景を確かめ――。
「これは……」
おそらく街の規模ではないわね。
山の中腹にそびえる巨大な城が見えるもの。
「王城かしらね」
あれだけ立派な城を持っているということは、人族の王か、それに匹敵するほどの権力を持つ者に違いないわ。ほかの種族の王はああいった華美な城は持たないし、人族の街で決まりのようね。城の下に立ち並ぶ家も立派なものばかりだわ。
【まさかこんなに大きな街を引き当てることができるなんて、おいらの運も相当なもんだね】
メミニが「へへ」と笑う。
81回も連続で外しておいてよく言うわね。わたしだったら1回でここに辿り着いているわよ。
「あの街に行けば、たくさんの人がいるのでしょうか……?」
ルナリアがわたしのローブの袖を引いてくる。
もしかしたら、人が怖いのかしらね。
「ルナリアは自分がハーフエルフだから、迫害されるかもしれないと心配しているのよね。でも大丈夫よ。純血種たるわたしがそばにいるのよ。エルフ族の庇護の下にあることを、しっかりと宣言してあげるわ」
ハーフエルフはエルフ族なのか人族なのか、その狭間で揺れていたと文献に書かれていたわ。本来的に言えばエルフ族は純血至上主義だから、人族の血が混じった者を仲間に迎え入れることはないの。でも、わたしは違うわ。姉さんの子を同胞として認めているから安心なさい。
「えっと、あの……」
目が泳いでいるわね。どうしたのかしら?
【リアンナ、そういうことではなくて……】
そういうことではない? だったらどういうことなのよ?
【ルナリアはずっと忘れじの塔の中で過ごしていたから、特定の人としか触れ合ったことがないんだよ。どれくらいの人数の人族が暮らしているかわからない巨大な街に行くのに漠然とした不安を抱えている、それだけのことだよ】
そうなの? それだけ?
ああ、そうだったのね。迫害される心配をしていたわけではないの。
「そう。ルナリアは何人までの人族なら許容できるのかしら?」
「ルナは……お父さんと賢者の■■■さんとタンクの■■■さんと……あとはリアンナさんとメミニさんしか知らないので……」
つまり5人ね。
わかったわ。
「メミニ、先に行って5人以下に減らしておいてちょうだい」
【えっ⁉ リアンナは何を言っているの……?】
「人族が多すぎるとルナリアが怖がるから、先に行って減らしておいてと言っているのよ」
何を驚いているのかしら?
変なメミニね。
【いやいやいや、変なのはリアンナだよ! そんな理由で人族に手を掛けたらダメでしょ!】
「なぜ?」
【なぜって……。おいらたちと同じ“人”だよ⁉】
「同じではないわ。違う種族よ」
【それは……違う種族ではあるかもしれないけれど……。そんなことを言ったら、おいらもルナリアもエルフ族ではないし……】
「メミニはわたしの使い魔で、ルナリアのことはわたしの庇護下に置くと決めたのよ。それ以外はわたしに関係ないわ」
【これがエルフの排他主義か……。冗談を言っているのではなくて、本気でそう思っていそうなところが恐ろしいね……】
何が恐ろしいのよ?
同胞か、そうでないか。それだけのことなのに、何を深刻そうな顔しているのかしら。
「人族の街を見て回るのは好きよ。でも、ルナリアが怖がっているなら、減らしてから見て回れば良いでしょう?」
「減らすだなんて……。ルナはそういうつもりで言ったのではないです……」
あら、こんなに震えてしまって……。大勢の人族が怖いのね。
【むしろ怖いのはリアンナのほうじゃないかな?】
「何よ。メミニはそうやっていつも、わたしのことをからかって!」
本当に失礼よ。
「る、ルナは大丈夫なので! たくさんの人がいても……リアンナさんが一緒なら怖くないので!」
「ルナリアぁ♡」
なんてかわいい子なのかしら♡
わたしがあなたのことを守ってあげるわ!
「リアンナさん……苦しいです……」
【ちょっとリアンナ! またその胸で窒息させちゃうから!】
もうー、ずっと抱きしめていたいのに、ハーフエルフは弱くて困るわね。でもそこが良いのかもしれないわ。弱いからこそ守ってあげたくなるのよね。大切に大切に育てましょう。わたしの大事な子よ♡
【リアンナの子ではないんだけど……】
「いちいちうるさいわねー。族長の姉さんの子なら、エルフ族の子なの。エルフ族の想いは1つなの。つまりはわたしの子も同然ということよ」
【何段階か話が飛躍しているね。ねぇ、ルナリア。迷惑なら迷惑と早めに行っておかないとダメだよ? そのうちリアンナが飽きると思ったら大間違いだから。今訂正しておかないと、この先ずっとこの調子でいかれるからね?】
「ルナは……そんなに嫌じゃない……ですよ?」
「ルナリアぁ♡」
そうよね! わたしの愛が嫌なわけないじゃない。
おかしなメミニ。ルナリアのことはわたしがずっと世話をするわ!
「リアンナさん……ちょっと苦しいです……。できればそれは……やさしめに……」




