第23話 街を探して。思い出を胸に
ルナリアに魔法の基礎を一通り叩き込んだ後、わたしたち3人は忘れじの塔の外に出た。
わたしとメミニは塔の最上階まで行って塔の管理者を倒さないと出られないのかと思っていたのだけれど、ルナリアが1階に下りれば緊急脱出用の魔法陣があることを教えてくれたの。本当に助かったわ。わたしとメミニだけだったら、塔攻略のために少なくとも数十年は無駄な時間を過ごさなければいけないところだったわね。
【ふ~、ひさしぶりに外の世界に出たね。相変わらず魔力がとっても薄いや。10年経ってもあまり回復していないとなると、この先もこの大気が魔力で満ちる期待はできないかな。嫌だな~。早くも塔の中に戻りたくなってきたよ】
まったく、メミニは愚痴ばっかりね。
ひさしぶりに土の上を歩いたら、フカフカしていて気持ち良いじゃない。塔の中にも緑はあるけれど、床はタイル張りになっている場所がほとんどだし、土を踏んで歩くという感覚はないものね。
それに空を見なさいよ。どこまでも高くて遠くて、やっぱり屋外の気持ち良さは格別ね。ああ、魔導図書館ね。魔導図書館は疑似庭園が用意されていたから、塔とは違ってそこで外の空気を感じることができたのよ。
「魔力が薄いのはもう仕方のないことなのだから、この環境にうまく適応していくことを考えるべきじゃないかしら?」
【リアンナは不思議と前向きだよね。おいらに対しては文句ばっかり言うのに、環境には適応しようって、そればっかり……】
そんなの当たり前じゃない。
悩んでも仕方のないことはたくさんあるわ。
「あなたは叩けば改善するけれど、大気は叩いても何も変わらないわ。変わらないなら受け入れるしかないじゃないの。変なメミニね」
【叩けば改善って……おいらのことをそんなふうに思っていたの……? 叩かなくても口で言ってくれれば改善できるよ。おいらには高度な知能があるからね】
「どうかしらね。だったらもう二度と、大気の魔力が少ない話はしないでちょうだい。わたし、意味のない会話をするのは嫌いなの。ねぇ、ルナリア。あなたもそう思うわよね?」
メミニの愚痴ばかり聞いていたら、こっちまで気が滅入ってしまうわ。
「えとあのその……改善は良いことだと思います! 現状を受け入れるのも良いことだと思います! どっちも素敵な考えだなと思うので……仲良く……」
ルナリアの言葉が尻すぼみになっていく。もしかしたら、わたしたちの間の空気が悪くなったと思ったのかしらね? わたしたちにとってはこんなの普通よ。主人と使い魔の関係だと、どうせお互いに心の中を覗けるのだし、駆け引きなしで思ったことを相手にぶつけるようにしているだけよ。
【ほら、またルナリアのことを困らせている。ルナリアはリアンナの自己肯定感を増すための道具じゃないんだから、変な質問をして困らせないであげてよ】
「わたし、そんなふうに思っていないわよ。ねぇ、ルナリア。おかしなメミニは置いて、2人で歩きましょう」
「えっ、あ、はい!」
さあ、手を繋いで母娘仲良く行きましょう。
こうして手を繋いで並んで歩いていたら、きっと周りの人から見たら母娘に見えるわよー。誰かいないかしらね。この辺りに新人類は住み着いていないのかしら。
「ルナリア、どっちが街かわかるかしら?」
「え、いえ……ルナは赤ちゃんの時に塔に入って、それから外に出たのは今が初めてなので……」
「あら、そうだったのね。でも大丈夫よ。これから一緒にいろいろな街を見て回りましょう。そうすればこの世界の地理や新人類について詳しくなれるわ」
わたしが一緒にいれば怖いものなんて何もないわ。
安心してついてきなさい。
まずはどっちに行こうかしらね……。
あっちの山に向かって歩きましょう。山があれば森があって川があるものよ。木と水があれば人も集まるでしょう。
【まったく……。リアンナ! 歩くと言ってもどこに向かっているの? 次の目的地に当てでもあるなら教えてくれないかな~?】
ずいぶん後ろからメミニの声が聞こえてくるわね。
食べ物でも探していて遅れているのかしら?
「メミニ、何をしているの? さっさとこっちに来て、道案内をしなさい!」
食材探しはあとにしてちょうだい。
そもそもその辺の森で探さなくても、街で買えば良いのだわ。
【リアンナたちが2人で行くって言ったんじゃないか。それなのになんでおいらに道案内をさせようとするの?】
「変なメミニね。使い魔なんだから、あなたが道案内をするのは当然の責務でしょう」
わたしのその言葉を聞いて、メミニが一度大きく目を見開いてから、小さく首を振った。
何よ、そのリアクションは。
【おいらが悪かったよ……。道案内させていただきます……】
何を勿体つけているのかしら。早くしてちょうだい。
「忘れじの塔のような場所があればとても良いのだけれど、まずは一度街に行ってルナリアと一緒に新人類の文化を学びたいわ」
ずいぶん前――まだこの大地が魔力で満ち溢れていた時に、一度だけエルフの森を出て、ドワーフの街を訪れたことがあったのよね。そこかしこで金属を叩く音がしていたわ。昼間からお酒を飲んで騒いでいるドワーフも多かったのよね。塔の中はずっと静かな環境だったし、ああいう騒がしい異文化をルナリアにも経験させたいわ。
「街ですか! ルナは街というものを見たことがありませんが、知識だけならあります! 人がたくさんいて、食べ物もたくさんあって、キラキラしていてピカピカしていて、王様からお金をたくさんもらえる場所だとお父さんが言っていました!」
わたしの知っている街とはずいぶん違うわね……。
新しい時代では、街に入るだけでお金がもらえるのね。とても良い環境だわ。
【いや~、おいらは1人でいろいろ調査している時に、いろいろな街を何度も出入りしているけれど、ルナリアが言っているようなことは一度もなかったよ。人や食べ物がたくさんの街もあれば、そうではない街もある。それぞれがそれぞれの事情を抱えながら必死に生きているという雰囲気だったかな】
「そうなのね。ところで、ドワーフの街はどこかしら? とても楽しかった思い出があるから、もう一度行ってみたいのよ」
【リアンナ……ドワーフ族ももう……】
メミニが悲しそうに首を振る。
「そうなの……。彼らなら炭鉱に潜ったりしていて生き延びているかと思ったのだけれど……残念ね」
あの騒がしくて活気のある街並みは、わたしの中にしかなくなってしまったのね……。




