第22話 思い出を語り継ぐ存在
今日はいよいよルナリアの基礎魔法学の卒業試験の日ね。
といっても、わたしが開いた個人的な塾のようなものだけれど。でも、みっちり10年に及ぶカリキュラムを消化したわけだし、立派に『学校』と言っても良いわよね。
「メミニさん捕まえました~」
【はぁはぁはぁ……もうギブアップだよ。今のおいらには、ルナリアの闇魔法の手から10秒間も逃げ続けるのは無理だ……】
そう言って泣きべそを掻いているメミニ。ルナリアの影縫によって生み出された100本を超える闇の手によってがんじがらめになって身動きが取れなくなっている。
「威力もスピードも魔力の量の調整も、すべて合格よ。ルナリア、ここまでよく成長したわね」
きっともう、ルナリアに捕まえられないものはないわ。
「リアンナさん、ありがとうございます!」
「リアンナさん、ね……。いつになったら『お母さん』と呼んでくれるのかしら。感動の卒業シーンだったのだし、今がちょうど良いタイミングだったと思ったのだけれど?」
「えっとその……」
それなりの時間一緒にいるはずなのに、距離が縮まっている気がしないわ。
どちらかというと、母娘というよりも師弟関係の色合いが濃いような……。
【どちらかも何も、100%師弟関係でしかないと思うよ】
「ウソよ。わたし、毎日ルナリアの髪も梳かしてあげているし、服も繕ってあげているのよ?」
立派なお母さんでしょう?
【それを言うなら、おいらだって毎日ご飯を作ってあげて、2人の胃袋を掴んでいるし、『お母さん』の資格があると思わない?】
「思わないわ!」
これっぽっちも思わないわ!
【なんでなの。おいらはご飯が作れるほうがお母さんっぽいと思うんだけどな】
「メミニは黒いし、ルナリアより背が低いじゃないの。あと黒いし」
お母さんは大きくてふわふわ包み込むようなやさしさがあるものよ。
【偏見がすごい……。きっと外の世界には、黒くて小さいお母さんもいっぱいいると思うんだよね……】
「ルナリア、人族のお母さんは黒くて小さい方もいるのかしら?」
「ルナは……お母さんを見たことがないので……わかりません……」
そうだったわね。
答えづらい質問をしてしまってごめんなさい。
「でもお父さんは知っています。温かくて大きくて強いのがお父さんです!」
あらあら、ルナリアはお父さんっ子だったのね。
「わたしの父は……大きかったかしら……。あまり会ったことがないからわからないわ」
「そうなんですか?」
「エルフ族の族長は母だったのよ。ちょうど姉さんに座を譲り渡すところだったのよね。父は裏方というのかしら。天幕に入って常に祈りを捧げていたから、家族として会話をする機会はあまりなかったのよ」
表に出るのは族長の母、そして次期族長の姉さん。
わたしはその後ろに控えている存在。
そんな感じだったかしらね。なぜだかぼんやりとしか思い出せないのだけれど。
「ルナのお父さんとはずいぶん違うんですね。ルナのお父さんは、いつもタンクの■■■さんよりも前に出て、長剣を振り回して魔物を一撃で葬っていました」
【タンクより前に出ちゃうアタッカーって……。よほど腕に自信があったのかな】
「いいえ、そんなのはただのバカね」
【リアンナ……さすがにそれは言い過ぎじゃないかな……】
「アタッカーがフォーメーションを無視して勝手に前に出てしまったら、タンクが敵を集めている意味がなくなるじゃないの。力自慢の脳筋野郎は、ソロで勝手に野垂れ死ねば良いのよ。何なのアイツ。いつもいつもわたしの戦略を無視して勝手に行動して、挙句の果ての決めゼリフが『俺の剣は一撃必殺。いつかお前のハートも一撃で仕留めてやる』よ。ナルシスト野郎は死ね死ね死ね!」
「リアンナさん……?」
【リアンナ……? 今のはいったい……?】
ふぅ、すっきりしたわ。
ルナリアとメミニが揃って口をポカンと開けて――いったいどうしたのかしら?
【いや……リアンナって、これまでに誰かとパーティーを組んだことがあるの? すごくその……実感が篭っているというか、もはや怨念に近い……】
「いいえ、一度もないわよ? でもいつも姉さんに付き従っていたから、姉さんとペアを組んでいた、というのが正確なのかしらね」
おかしなメミニね。
今さらどうしてそんなことを確認するのよ。
【でも今、力自慢の脳筋野郎って……】
「わたし、そんなこと言ったかしら?」
おかしなメミニね。
わたしが男とパーティーなんて組むわけないでしょう。
「でもたしかに……いいえ、ルナの気のせいだったかもしれません……」
ルナリアは何かを考えこむように押し黙ってしまった。
「わたしのことは良いのよ。ルナリア、あなたのお父さんの話を聞かせてくれない?」
「先ほど少しお話ししたことと重なってくるのですが大丈夫でしょうか……」
なんでちょっと怖がっているのよ。
急に怒鳴り出したりしないから安心なさい。
「あなたの家族の話が知りたいのよ。わたしもあなたも、もう肉親はいないのだから、誰かにその思い出を語っておかないと、いつの間にか消えてしまうのよ」
「消えてしまう、ですか……」
「そうよ。あなたも年老いていつか死ぬの。その時に、あなたの生きた証としてあなたやあなたの思い出を誰かが語り継いでいかないと、あなたという人物がこの世界にいたのかいなかったのかわからなくなってしまうのよ」
思い出は人から人へ語り継ぐのよ。
そうして誰かの心の中に残り続けることで命は繋がっていくのよ。
「もしかしたらわたしたちの時代の人たちのことを語り継げるのは、ここにいる3人だけなのかもしれないの。わたしたちの中にある思い出を、新人類たちに語って聞かせなければ何もなくなってしまうのよ」
【魔法のない世界に、おいらたち魔法が使える種族がいたことを覚えておいてもらわないとだね】
「メミニの言うとおりよ。わたしたちのことも、ルナリアを育てたお父さんやパーティーの仲間たちのことも、しっかりと語り継いでいきましょう」
わたしたちが忘れなければ、あなたのお父さんは決して消えない。わたしたちの中で、あなたの思い出とともにずっと生き続けるのよ。




