第21話 魔法行使のための基礎訓練
「ルナリア、そんなに緊張しないでちょうだい。わたしたちのことは意識しなくて良いわ」
あなたガチガチじゃないの。
そんなに肩に力を入れていたら、魔力がうまく練れないわよ。
「あくまで普段使っている魔法を普段通りの威力でお願いね。その辺りにいる魔物に向けて気軽に撃つつもりで――」
あの黒くて小さな生き物を狙いなさい。
「は、はい! いつも通りいつも通りいつも通り……」
【あのさ……おいらを魔物扱いしないでほしいんだけど……】
メミニの消極的な抗議の声を無視。
黒いし魔族なんだし、似たようなものなんだから、静かにしていてちょうだい。
ルナリアが両手を前に突き出して構える。
緊張しながらも少しずつ魔力の錬成が始まったようね。体内を巡る魔力が体の中心に集まっていっているのを感じるわ。
でも……魔法発動までがとてもゆっくりね。魔力の正しい練り方は知らないみたい。感覚的にはわかっているみたいなのだけれどね。基本がなっていないのに、なんとなく形になってきている。不思議なものだわ。
10秒……20秒……30秒……。
集中しているのね。ルナリアがまったく動かなくなったわ。
40秒……50秒……60秒……。
魔物というのは、普段こんなに待ってくれるものなのかしら。
メミニがさっきからずっと口をパクパクさせて……。「まだ?」と聞いてこないだけ気を遣っているようね。きっとあと少しだから待ちなさい。
「い、いきます!」
脳の血管が切れそうなほど顔を真っ赤にして、ルナリアが魔法を放った。
両手から伸びる灰色の2本の影。
影の手が対象物を捕える魔法ね。
「驚いたわ。まさか闇魔法とはね」
ルナリアは普段、影縫を使うのね。
たしかに魔物を捕えるには有効な魔法ね。
倒さずに捕らえることができるし、平和的で良い魔法だわ。
【これは避けても良いのかな?】
「もちろんよ。あまり遠くに行くのは困るけれど、全力で避けてちょうだい」
簡単に捕まったら実力を見ることができないものね。
【わかったよ。おいらはすばしっこいんだ。簡単には捕まらないよ】
闇の手が迫るも、メミニは軽々とそれをかわしていく。
けれど、ルナリアも諦めてはいないようね。
汗を垂らしながら闇の手を操作して、再びメミニに――今度は左手の影だけ。ほんの少し右手を遅らせて、メミニが避けたところを捕える作戦らしい。失敗。
続いて真上から。
闇の手を広げ、2本くっつけた状態で巨大な手を振り下ろす。これも失敗。
さらに真横から。
両手を平行に大きく広げ、地面を這わすように――パチン。文字通り両側から挟み込んで捕える作戦。失敗。
ルナリアはずいぶん長い時間、魔法を行使し続けられるのね。
影縫は術者とつながって操作し続けることを要求されるから、その性質上、放出し続ける魔力の量が非常に多いのよ。これだけ長い時間を掛けてターゲットを追いかけまわすような魔法ではないはずなのだけれど。
「そこまで。2人ともいったん休憩よ」
わたしの「やめ」の合図でルナリアが練り込んでいた魔力が霧散した。
驚いたことに、疲労が目立つのはメミニのほうね。ルナリアはすぐにでも2回戦に臨むことも可能なように見えるわ。
「独学でよくぞそこまで、魔法が使えるようになったわね」
魔法に関して非凡な才能があることは、疑いようもないわね。
まだ幼いのに魔力の総量もかなり多い。
基礎さえ叩き込んで日々鍛えていけば、いつかはわたしを超える魔法使いになるかもしれないわ。
「わたしはあまり闇魔法が得意ではないのだけれど――」
と、前置きをしてから、瞬時に影縫の魔法を行使する。
ルナリアよりも小さく、闇の手は1本だ。
けれど――。
【ちょっと、リアンナ! 休憩中にいきなり捕まえてくるなんてひどいよ】
ね、簡単に捕まえられたでしょう。
「リアンナさんすごいです……」
それほどでもないわよ。
基礎的な力の向上を図るだけで、あなたにもこれくらいのことは簡単にできるようになるわ。
「魔法の威力や成功率を上げたければ、魔力に関する基礎を覚えること。それから自分の得意な属性魔法をさらに突き詰めていく。魔法を使う上で重要なことは、たった2つなのよ」
「たった2つですか……」
ルナリアが深く頷く。
とても真剣そうな表情だ。
「ルナは何をすれば良いのでしょうか」
「まずは基礎となる魔力の練り方よ。スピーディーに正確に。体内にこぶし大の魔力の球を錬成するのよ。最初は時間を掛けて良いから、できるだけ歪みのない球体を目指してごらんなさい」
「はい! やってみます!」
それを何度も作っては壊し、作っては壊し。
少しずつ錬成のスピードを上げて。
スピードを上げても正確性は失わないように。
何度も何度も繰り返す。
「体内にある魔力をすべて使いきるつもりでやりなさい。ここは大気中の魔力が豊富だから、体内の魔力を使い切って気絶したとしても、そのまま魔力切れで死ぬことはないわ」
むしろ使い切ることで魔力の総量を増やしていくのよ。
【リアンナが言っていることは、ちょっと乱暴だけど理にかなっているからね。おいらはおいしい食事を作って待っているから、2人は訓練がんばって】
さすがわたしの使い魔ね。
基礎編第2弾の時には、メミニに死ぬギリギリまで動く的になってもらうことにしましょう。
【リアンナ、怖いよ……】
メミニなら大丈夫よ。
優秀な使い魔さん。
* * *
「そうよ。次はまったく同じ大きさの2つの魔力の球を錬成するのよ。同時に2つね」
複数のタスクを同時にこなせるようになると、格段に戦闘のバリエーションが増えるのよ。それと、合成魔法を使うのには必ず必要になるわ。基礎の内に学んでおくのよ。
* * *
「次は2つ、大きさの違う魔力の球を同時に錬成よ」
「ここまで出来たら次は4つで同じことをしましょう」
「4つの球を1つに融合させて。すぐに4つに分割して――」
「できるだけ小さな球を作って――」
「これ以上できないと思うほど大きな球を作って――」
こうして10年間に及ぶ基礎訓練の結果、ルナリアは優秀な魔法使いとして生まれ変わったのよ。




