第19話 託された選択
「結局、あの水龍はわたしに何を伝えたかったのかしらね……」
メミニとルナリアに水龍とのやり取りを話して聞かせてみたけれど、やっぱり何もわからないわ。
なぜか生き残ったことを詰められて、何かの決断を迫られただけ。
【その水龍が、本当にルナリアの持つ蒼月珠のペンダントから現れたとすると、ただの精神攻撃と断定するのは早計だと思うよ】
それくらいはわたしにだってわかっているわよ。
【もしかしたら、最初からそのペンダントに仕掛けられていたのかも……】
「仕掛けられていた? 何をよ?」
【リアンナにメッセージを伝えるための仕掛けだよ】
「わたしに?」
蒼月珠のペンダントを見つめてから、ルナリアの顔を観察した。
「わたしがここに来たのは偶然だし、ルナリアと出会ったのも偶然よね。初対面のルナリアに、わたし宛のメッセージを伝える役を任せることなんて……。無事届けられる可能性が低すぎるわ」
仮説にしたってもうちょっと現実味のあるものを検証しましょう。
【それが偶然ではないとしたら?】
「どういうことかしら……?」
この流れ……まさかメミニが黒幕⁉
わたしを巧妙に誘導してここに連れてきたというの?
そうだわ。
この忘れじの塔を探してきたのはメミニだったわね。すべてはわたしをこの塔に誘導し、封印を解かせ、中に入って閉じ込めるため……。
「覚悟しなさい!」
【リアンナは想像力が豊か過ぎるよ……】
なんでため息を吐くのよ。
メミニがわたしの敵なんでしょう⁉ 今度は水流では済まさないわ。焼いて、捻じって、細切れにして、土に混ぜてやるわ。
【ちょっと待ってよ。おいらはリアンナの正式な使い魔なんだよ。使い魔が主人を裏切ることなんてできないよ。おいらが忘れじの塔を見つけてきたのは偶然だし、たくさんの候補のうちの1つだってだけだよ。それに、ここに入る判断をしたのはリアンナだよね。あの入り口のメッセージを見たからでしょう】
そうだったわね。
メミニが1,000年前のわたしから預かったという言葉と同じ――。
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我らの役目は終わりを告げる。
この封印を解くことができた者にすべてを託す。
気持ちは言葉に、想いは態度に。
今度は決して後悔しないように。
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水龍の言った言葉。
『その目で確かめ、正しき選択をするのだ』
わたしは何の選択を求められているのかしらね……。
その直前に投げられた二択。
『再生か死か』ということ?
「■■■さんが酔っ払って言っていたことがあります」
ルナリアが蒼月珠を握り締めながら足を一歩前に踏む出す。
「『お前の母さんは誇り高きエルフだ。どんな強敵を前にしても決して一歩も引かず、立ち向かう。どんなに絶望的な状況だったとしても、決して諦めを仄めかすことすらしなかった。■■■が弱音を吐いた時には、いつもケツを杖でぶっ叩いていたっけな』と」
そうね、姉さんはそういう人だわ。とても強いもの。
どんな困難な状況でも、笑顔で立ち向かって解決してしまうのよ。だから、みんなの信頼が厚かったわね。
でも、いつも穏やかな姉さんが人のことを叩いたりなんて……わたし、そんな一面は見たことがなかったわ。
【つまりルナリアが言いたいのは、その役割がリアンナに期待されているんじゃないかということだね?】
メミニの問いに、ルナリアがこくりと首を縦に振って肯定した。
「わたしが姉さんの代わりを?」
さすがにそれは荷が重すぎるわよ。
格が違い過ぎるもの。でもメミニのお尻ならいつでも叩くわよ?
【でもね、お姉さんはもういないんだよね。そうなったら、エルフ族の族長はリアンナが務めないといけないんじゃないかな?】
「え……」
わたしが族長だなんて……。
「魔力の質も量も並みで、特別に魔法制御の力に秀でているわけでもないし、わたしくらいのエルフはほかにもたくさん――」
あっ。
【気づいた? もういないんだ。たぶんね……】
「わたしが最後のエルフ……なの……」
【おいらだってそうさ。最後の魔族かもしれない。でももしかしたらまだ探せば、世界のどこかには生き残りがいるかもしれない。でもそれまでは最後の1人なんだよ】
最後の1人。
とても重い言葉ね……。
【幸いにもおいらたちには時間だけはある。だから、そのペンダントの持ち主――たぶんリアンナのお姉さんがリアンナに託したことを理解し、何かの選択をするというのはどうだろう?】
「わたしが姉さんの託した選択を――」
【そうだよ。そしてここに遺されたルナリアも一緒にね】
メミニがルナリアの背中をポンと叩く。
ルナリアがバランスを崩してよろめき、わたしにもたれかかってきた。
「すみません……」
すぐに体を離そうとしたルナリアを引き寄せて抱きしめる。
「姉さんの子……」
ルナリアのことを至近距離でマジマジと見つめてみた。
顔つきも、耳の大きさも、自信がなさそうにおどおどしている姿も……やっぱりどこも姉さんには似ていなくて……でもなんだかそれが妙に愛おしく感じるわね。
「大丈夫よ。あなたのことはわたしが守るわ」
「リアンナさん……」
ルナリアが瞳を潤ませる。
この子は、父親とその冒険者仲間が亡くなってから、ずっと1人でやってきたのよね。たとえエルフの血が半分だったとしても、この子はわたしの同胞に間違いないわ。そして姉さんの子――。
「水臭いわね。わたしのことは『お母さん』って呼んで良いわよ」
「えっと……それはちょっと……」
なんで目を逸らすのよ!
【リアンナ、それは距離を詰め過ぎだよ。いきなりお母さんって! リアンナは本当に不器用でおもしろいね】
「うるさいわね……。姉さんの子ならわたしの子も同然でしょ」
だからなんで2人ともちょっと引き気味なのよ!
ムキー!




