第18話 蒼月珠の輝き
【リアンナ! リアンナ無事⁉】
後ろからメミニの声が聞こえてきたことで、意識が覚醒する。
ああ、今わたし、ぼんやりしていたわね。さっきのは何だったのかしら。
まだ少し思考が鈍ったままの頭を何度か振ってから、ゆっくりと後ろを向く。
そこには心配そうな表情で駆け寄ってくるメミニ、そしてルナリアの姿があった。
「わたし……」
なんて説明したら良いのかしらね。
【やっぱり敵の攻撃を受けていたの? 突然リアンナの存在が消えたから、おいら、もうどうしたら良いかって……】
「わたし、消えたの?」
「はい。通路の角を曲がられた瞬間に反応が消失してしまわれて……」
そう、なのね。
やはりあの水龍の結界に囚われていたんだわ。
「油断したわ。心配を掛けてごめんなさいね」
このダンジョンに出現する魔物は幻影。
だから魔力量自体も少ないのかもしれないわね。魔力量で魔物の強さを見極めようとするのはやめないといけないわね。覚えておきましょう。
【リアンナ、ここで何があったのか教えてよ?】
メミニがわたしのローブを軽く引っ張ってくる。
「大したことではないわ。大丈夫よ、今度はいなくなったりしない」
メミニの背中を少しだけ撫でてあげると、安心したようにローブから手を放した。
「やはりルナのせい、でしょうか……」
ルナリアが胸元の蒼月珠のペンダントを握り締めている。
声も体も震えていた。
「どうしてそう思うの? あれはあなたが嗾けたとでも言うのかしら?」
それならそれで話が早いのだけれど。
水龍の幻影が言っていたことはひどく抽象的だったから、その真意は理解できなかったし、もう一度具体的に説明してほしいわ。
「さっきこれに、魔力を注ぎ込んでくださったので……」
と、蒼月珠のペンダントを持ち上げて見せてくる。
「それがどうかしたの? あら? 魔力の残量がずいぶん減っているわね……」
さっき軽く20%ほどは回復させておいたと思ったのだけれど、こんなにすぐにほとんど空になるかしら? ついさっきまで蒼月珠の使い方もわからなかったはずのルナリアにどうこうできるとは思えないわね。
「声を……掛けようと……思ったんです」
ルナリアの声がさらに震える。
「リアンナさんがこっちに向かって歩いていった時に、ペンダントが熱くなって……光が漏れ出して……」
蒼月珠が勝手に魔力を開放した?
そんなこと聞いたことがないわ。
「メミニはそれを確認したのかしら?」
【いいや、おいらは再出現しているはずの宝箱を取りに行こうと思っていて――】
「食べ物に夢中で、主人のピンチを見逃したわね?」
【ごめん……おいらこそ油断していたよ】
縮こまるメミニ。
「冗談よ。今のは少し意地悪だったわね。宝箱のことはわたしが頼んだのだし」
あなたがあまりに真面目な態度を取るから、少しからかってやろうと思っただけよ。気分はどう? いつもわたしがやられている時にはそういう気持ちになっているのよ。
【リアンナの愛を感じたね】
「あなたの認知、歪んでいるわね」
どうなったらそういうふうに捉えられるのよ。
【へへへ。おいらは特別製だからね】
もう知らないわ。好きになさい。
話を戻すわ。
「ルナリアは蒼月珠から魔力が放出されるのを感じた。そういうことね?」
「はい、そうなのだと思います……」
蒼月珠の魔力操作は、管理者にしか感知できないものだから、それを感知できたのだとしたら、やはりルナリアが正式な蒼月珠の管理者ということになるわね。
わたしには魔力は注入できても、それを使用することはできないはず。そして、使用されたとしても感知できないはず。
だから、わたしのすぐ後ろで蒼月珠が莫大な魔力を消費していたとしても、それを感じることができずに水龍の幻影に捕らえられてしまったのね。
「さっきの水龍は、蒼月珠が創り出した幻影ということになるわね。でもなぜそんなものが創り出されたのかしら? ルナリアにはその自覚がなかったわけよね……」
「はい。ルナはその水龍というものを知りません」
姉さんはルナリアを産んですぐにいなくなってしまったから、使い魔を見せてはいなかったということなのかしら。常に傍にいる存在なのに不思議な……。
【単純に当時のルナリアが小さすぎて、水龍の記憶に残っていないだけじゃないかな?】
「なるほど。それは思い当たらなかったわ。言われてみればそうかもしれないわね」
ハーフエルフは記憶力があまり良くないのかもしれないわ。
純粋なエルフであれば、生まれた瞬間からすべての記憶が鮮明に残っているはずだもの。常にすべての記憶を思い出すわけではないけれど、しっかりと整理されていて、必要な時に必要な記憶を取り出せる。それがエルフ族の長所だものね。
「ルナリアの中にある無意識の記憶が使われたと仮定しても、まだわからないことがあるわね。なぜ蒼月珠の管理者であるルナリアの意思とは無関係に水龍が創り出されたのかしら。そんなことはありえないはずなのよね」
わたしが横から魔力を注入したせいで、誤作動を起こしたのかもしれないわね。もしくは1,000年の間にどこか壊れてしまったのかしら?
「でも1つだけわかっていることは、さっきの“あれ”は、確実にわたしをターゲットにしていたということよ」
【やっぱり何かされたの? 肉体的な欠損はなさそうだけれど……】
「どちらかというと精神攻撃かしらね。いいえ、正確に言えば攻撃ではなかったと思うけれど」
という前置きをしてから、わたしは2人に、白い空間での水龍とのやり取りを話して聞かせた。




