第14話 ミミックの塩茹でとハーフエルフの少女
「このダンジョンの中は魔力が濃くて助かるわね。火魔法も使い放題だし、キノコと木の実のスープが一瞬で温まるわ」
本当においしいわ。
空間魔法の中にしまっておくと、時間が止まるから出来立てと変わらないのね。でもやっぱり直前に火を入れ直すとおいしい……。高火力で煮ることができるのって最高よね。
【ほら、良い香りでしょう。キミも食べなよ。味も最高だから。おいしいよ】
メミニがハーフエルフの少女に木の器とスプーンを差し出す。
でも少女はそれを受取ろうとしない。
ずいぶんと警戒しているようね……。
やっぱりいきなり攻撃したせいかしら。
でもスープから目を離せずにいるのが少しかわいいわね。そんなに物欲しそうにしていないで、意地を張らずに食べたら良いじゃない。変な子ね。
「まあ良いわ。食べないなら無理には勧めないわよ。もったいないし。わたしの分が減るじゃない」
【リアンナの分はその1杯で終わりだからね】
「なんでよ! ケチケチしないで全部寄越しなさいよ!」
【ダ~メ~。キノコも木の実もダンジョンの中では手に入らないんだから。魔力から生きるためのエネルギーを作り出せる種族のリアンナは、少し自重してもらわないと困るよ】
「何よ、種族差別しないで」
そんなことを言ったら、ハーフエルフだって魔力からエネルギーを作り出せる種族のはずよ。つまり、その子がスープを飲んでもわたしがスープを飲んでも同じなのよ。
【今の話じゃなくてね、もしそうじゃない種族の人が行き倒れていたりしたら困るからってことなんだよ。おいらたちの食事は娯楽だけど、そうじゃない種族もいるってことを忘れないでほしいんだ】
「忘れてなんかいないわ……」
【このダンジョンを脱出するまでの間は、残りのスープはとても貴重なものなんだ。わかってくれた?】
それはわかったけれど……。
「そうだわ。宝箱からキノコと木の実を出せば良いのよ!」
我ながら名案ね。
「そういえばあなた……さっきの宝箱がミミックだって知っていたわよね?」
【そうなの?】
ハーフエルフの少女の目が泳いだ。
その反応、間違いないわね。
「メミニが宝箱を開けようとした時、止めようか迷ったのでしょう? 一瞬だけあなたの魔力漏れ出してきたら、それで存在がわかったのよ」
【だったらその時に言っておくれよ~。おいら罠にはまってヌルヌルになっちゃったじゃないか~】
メミニは荒々しく空の器を床に置いて、その不満をあらわにしてきた。
「わたしに言わないでよ。罠だったのは結果論で、あの時のわたしにはわからなかったわよ。でも後から考えると、この子が止めに入ろうとしてくれていたというのが想像できただけよ」
【そっか~。それなら仕方ないね】
まあもう1つわかったことがあるのだけれどね。
「それにあなた、定期的にあそこのミミックを狩っているわね? それは食料として? それとも別の目的があるのかしら?」
唾を飲み込んだわね。
またわかりやすい反応だわ。そう、ミミックの中身は食べられるのね。
「メミニ、再出現した宝箱を持ってきてくれない? それと空の大きな鍋があればそれもお願い」
【おいらまたヌルヌルになるのは嫌だよ……】
「大丈夫よ。ミミックだとわかって開ければたいしたことないわ。宝箱の隙間に杖を差し込んで、すぐに魔力を吸い取るだけよ」
【それならまあ……】
よろしくね。気をつけて。
* * *
首尾よくメミニがミミックを狩ってきてくれたので、わたしたちはミミック鍋パーティーを開催中だ。
と言っても、鍋いっぱいのお湯にとっておきの塩を入れて、ミミックの足を湯がいただけのシンプルな料理よ。
でも今回のパーティーには、スペシャルゲストにハーフエルフの少女も参加しているわ。餌付け成功ね。
「あら、ミミックって意外とおいしいのね。身があっさりしていて塩茹ででもいけるわ。ねぇ、あなたもそう思うでしょう?」
さっきから目を輝かせながら一心不乱に食べているけれど、おいしいなら「おいしい」って言いなさいよね。
「おいしい……。いつもそのまま食べていた……」
「なんだ、ちゃんとしゃべれるんじゃない。言葉が通じないのかと思って心配したわ」
なんてね。
わたしの言葉に反応していた時点で、言葉が通じているのはわかっていたわ。
【お野菜や木の実がもっとあればね。塩茹でよりも気の利いた料理を出せるんだけどな。あ、そうだ。ほら、せっかくだからキノコと木の実のスープもお食べよ】
メミニが再び空間魔法の中から自慢のスープを取り出して、少女の前に差し出した。
「あり……がと……」
遠慮がちに受け取ると、スプーンに少量掬って口に運んだ。
「おいしい……」
少女は一言呟くと、器に直接口をつけて、一気にスープを平らげてしまった。
よほどおいしかったようね。
まあもうおかわりはないのだけれど。
【良い飲みっぷりだね。もう一杯どう?】
「いただきます……」
メミニが注いだおかわりのスープも一気に平らげる。
「ちょっと貴重なんじゃなかったの⁉」
わたしはおかわり禁止で、この子だけOKなのはずるいわ!
【まあまあ、お近づきになった印だよ。そうだ、改めて自己紹介するよ。おいらの名前はメミニ。もとは魔族で、今はリアンナの使い魔だよ。こっちがリアンナ。エルフ族の生き残りで、仲間を探しているんだ】
「リアンナよ。わたしは姉さんを探しているの……」
もし知っていたら教えてほしいわ。
「ルナリア……です」
少女が消え入りそうな声で囁いた。
ようやく名前を教えてもらえたわ。ミミックの塩茹でとキノコと木の実のスープで警戒心が解けたようね。
「ルナリア。良い名ね。よろしく」
【おいらたちは2人旅なんだけど、ルナリアは1人なの?】
「1人……です」
そうなのね。
それはとても残念だわ。
【ルナリアは、家族と一緒じゃないの?】
「父さんは……死に……ました」
父の死を告げるルナリアの姿には、とくに悲しげな様子は感じられなかった。
ハーフエルフなのだから、父か母、そのどちらかがエルフ族であるはず。
父親が死んだのなら、父親のほうが人族である可能性が高いわね。つまり――。
「お母様はどうされたのかしら?」
どこにいるのかしら。
「いません……」
期待とは違う答えだったわね。
「いないというのはどういうことか詳しく訊いても良いかしら?」




