第13話 忘れじの塔ダンジョン5階
【やった! 宝箱だ!】
「そうね、メミニ、お手柄だわ」
ダンジョンというものに入ったのも初めてでワクワクしたけれど、宝箱を前にしたら、こうも気持ちが高揚するのね。とても貴重な経験だわ。
【さっそく開けてみようよ!】
メミニがしゃがみ込んで宝箱に手を掛けた。
その時――。
背後から人の気配がした。
「誰かいるのかしら?」
【えっ? リアンナどうかしたの?】
気配が消えたわね。
気のせい……ということはないと思うのだけれど。
「なんでもないわ」
少し泳がせて様子を見ましょう。
微量な魔力反応だったし、わたしたちの脅威となるような『敵』ではないと思うし。
【そう? じゃあさっそく宝箱を♪】
あ、その宝箱ね――。
わたしが注意する前に、メミニは木箱のふたを開けてしまった。
【うぎゃ~! わ、罠だ~~~~!】
宝の入った箱ではなくて、魔物の入った箱。
文献によると『ミミック』という宝箱に擬態する魔物ね。
あらあら。
あっという間にメミニの体が半分も飲み込まれてしまったわ。
「中にお宝はありそうかしら?」
【そういうのは良いからすぐに助けて!】
何よ、ちょっとした冗談じゃない。
大して強くもない魔物相手に何をやっているんだか。
杖の先で木箱をコツンと叩く。
同時に、ミミックの魔力を強制的に抜き取って無力化してやる。
「もう自力で出られるでしょう?」
ミミックは魔力が切れて動かなくなっているはずだもの。
格下相手にはこれが一番スマートな戦い方よね。
相手の魔力を吸い取ることで一瞬にして無力化し、逆にその魔力を取り込むことで自身を強化。格下であることをトラウマのように植えつけて戦意も喪失させられる。
無抵抗になったミミックの中から、メミニが這い出てきた。
【リアンナのその戦い方ね、いつ見ても怖いよ……。相手に同情してしまいそうになる……】
粘液でベトベトね。
わたしのローブにくっついたら嫌だから、しばらく近寄らないでくれるかしら。
【え~、このまま放置? 水魔法で洗ってよ】
「嫌よ。こんなところで水魔法を使ったら、わたしまで濡れるじゃない」
【水除けの魔法があるでしょ……】
「あら、そうだったわね。面倒だけれど、そんなに頭を下げてこられたら助けてあげないわけにもいかないわね。水流。これできれいになったかしら? あら、メミニがいないわ。また遊びに行ってしまったのね」
水流に乗って流れていくなんて、ちょっと楽しそうじゃない。
あら? また人の気配。
位置把握。
二度目はないわよ。
「捕獲」
水魔法と風魔法の合成魔法を発動させる。
地面を凍らせて足止めし、風の渦の中にターゲットを閉じ込める魔法。
相手が単独でも複数でも使用が可能な便利な合成魔法よ。わたしが図書館にいる時に考えたの。館内を走り回る子どもがいた時に、風の檻にそっと閉じ込めて静かにさせようと思ったのだけれど、結局使う機会は訪れなかったわね。初めて使えて良かったわ。
「さて、あなたは誰?」
風の檻を解くと、中から現れたのは――。
「子ども?」
メミニよりもさらに身長の低い女の子だったわ。
「あなた迷子? 名前は?」
黒いローブ姿の少女は、足が凍りついたまま涙目でわたしのことを睨んでいている。
「抵抗しないなら足のほうも解除するわ」
コクコクと首を縦に振ってきたので、足元の氷魔法も解除してやる。
少女は抵抗することなくその場にへたり込んだ。
「良い子ね。それで、あなたはどこから来たの? 保護者は?」
不機嫌そうな表情を浮かべてわたしから視線を外す。
腰までありそうな薄茶色の長い髪。
それを左右非対称な三つ編みにして――隙間から覗いている耳。
「あなた……エルフなの?」
少女に近づき、三つ編みを避けて、その耳を確認してみる。
「小さい……それにその顔つき……まさかハーフエルフかしら?」
否定しないわね。
これがハーフエルフ……初めて見たわ。
幻想種たるエルフ族が、稀に人族と子を生すことがあるらしいということは聞いたことがあったけれど、実際に存在するのね。
ハーフエルフはエルフ族と人族の特徴を併せ持っていると言われているけれど、どちらの特徴も中途半端に受け継ぐので、とても生きるのが大変だと聞いたことがあるわ……。
体内に保有できる魔力はエルフ並み、けれど行使できる魔法には偏りがあって、そもそも魔法自体をまったく使えないハーフエルフもいるとか。
顔立ちは人族の特徴を色濃く残すものの、エルフの象徴的な耳の形は受け継ぐことが多いという。寿命は人族よりも長いけれど、エルフ族のように悠久の時を生きることはなく、平均寿命は2,000年ほど。
「わたしはエルフ族の生き残りよ。安心なさい」
自分の髪をかき分け、少女に耳を見せてやる。
ハーフエルフの少女は、目を見開いて驚きをあらわにしていた。
「このダンジョンにいるということは、あなたは空間消滅を生き延びたのよね? わたしも同じなの。仲間のところに案内してちょうだい」
ハーフエルフの少女は言葉を発することなく俯いてしまった。
「わたしはこのダンジョンに入ってきたばかりなのよ。今までは別の施設にいたから、ここの事情に詳しくはないのよ。だから話のできる大人のところに案内してほしいの。害意はないわ。同じエルフの血を引くものならそれはわかるでしょう?」
それでも動かない。
いきなり捕獲の魔法なんて使ってしまったから警戒されたのかしら……。
どうしたものかしらね……。
【ちょっとリアンナ! いきなり特大の水流をぶっ放すなんて酷いじゃないか! ずっと先まで流れて行って……宝箱を3つも発見しちゃっ――人⁉】
「あら、メミニおかえりなさい」
【どうしたの⁉ 人じゃないか! 本当にこのダンジョンに人がいたんだね!】
「ええそうなの。どうやらハーフエルフらしいわ」
ほら、この小さな耳を見て。
【本当だね。なんて珍しいんだろう! ねぇ、キミ。ほかの人はどこ? おいらたちは空間消滅を免れた人を探して旅をしているんだ!】
そんなにまくし立てても無駄よ。
警戒されてしまっているもの。
【リアンナ……何か酷いことをしたの?】
疑いの目を向けてくる。
「してないわ。そんなことをする理由がないもの」
ちょっと捕獲の魔法を使って、足を氷で固めて風の檻に閉じ込めただけよ。
【酷過ぎる……。つらかったね。うちのご主人様が酷いことをしてごめんよ】
わたしが悪いわけじゃないわ。
【リアンナは少し黙っていて】
はい……。
【そうだ、お近づきのしるしに、お食事でもどうかな? おいらね、これでも料理人を目指しているから、料理の腕はけっこうなものなんだよ】
と、メミニは得意げに笑うと、空間魔法を展開して、中から小さな鍋を取り出してきた。
料理人になりたいというのは本気だったのね。
冗談かと思っていたわ。
【キノコと木の実のスープだよ。リアンナもお気に入りの特別メニューさ】
空間魔法の中にストックしていたのね。
わたしにもさっさと寄越しなさい。




