懸念
……ところで、折角なので、というのも変かもしれないけども……それでも、昨日のあの話が出たこの流れで聞いておきたいことがあって――
「……あの、更科さん。本当に、僕はこうして……こうして、貴女と一緒にいていいのでしょうか?」
「……ん? どゆこと?」
「……それは、なんと言いますか……こう、この手の話題を避けておいて、こちらから切り出すのも我ながら矛盾しているとは思うのですが……あの時、更科さんは満足なさっていなかったと、どうしてもそう思えてならなくて……」
そう、躊躇いつつ口にする。その手の経験など皆無な僕が、最初の一回目で更科さんを満足させられるなんて烏滸がましいことは当然ながら思っていない。……それでも、どうしても気にはなっていて――
「……そっか、やっぱり分かってたんだ」
すると、柔らかに微笑みお答えになる更科さん。表情に驚きの色はなく、いつか僕からこのようなことを言われるのをきっと察していたのだろう。そして――
「……まあ、満足してたかって聞かれると……うん、ごめんだけどそうでもないかな」
「……そう、ですよね。その、申し訳――」
「……でも、そんなの遥くんのせいじゃないし。そもそも、あたしが確認したかったのは身体の相性で、その時点でのセックスに満足できるかどうかじゃないし。
でも、今こうして一緒にいることからも分かると思うけど、決して嫌だったわけじゃない。行為の間も、あたしのことを大切にしてくれてるのがすっごく伝わって嬉しかったし。……まあ、全く不満がないとまでは言えないけど……でも、さっきも言った通りそれは遥くんのせいじゃないし、これから何度も重ね合って満足できるようになればいいんじゃん。あたしも……そして、遥くんも」
「……更科さん」
その微笑のまま紡ぐ更科さんの言葉に、沁み沁みと胸が熱くなる。……そっか、更科さんはそんなふうに思ってくれていて――
「……それから、一つ言っておきたいんだけど……昨日も言った通り、あたしは恋愛において身体の相性を大事にしてるし、だから付き合う前に確認しておきたいんだけど……でも、告白された時点で、ああ、この人のことは好きになれないかな、って思ったらその時点で普通に断ってきた。だから……その、だから……決して、誰でもいいってわけじゃないから」
「……ふふっ」
「……っ!? ちょっと、なんで笑うの!?」
「……いえ、すみません更科さん。ですが、流石に僕でも分かっていますよ。更科さんの仰りたいこと」
「……それなら、いいけど……」
続く更科さんの言葉を聞き終え、思わず笑いの声をこぼしてしまう。いや、申し訳ないとは思うけども……でも、僕みたいに、って言ったら大変失礼だけども、いつも堂々としてる彼女が少しおどおどした様子で話しているのが可愛くてつい……いや、もちろんいつも可愛いんだけどね。
その後、しばらく無言のままクレープを食べ終え帰り道を歩いていく僕ら。だけど、気まずいというわけでもなく、どころか不思議と心地が好いくらいで――
「――あっ、そうだ遥くん。お昼くらいから、ずっと言いたいことがあったんだけど――」
「……ん?」
「――なんだか、随分と楽しそうだったね? 里中さんと」
「…………」
ややあって、花のような笑顔でそう口になさる更科さん。……でも、どうしてだろう。こんなにも素敵な笑顔なのに、全く以て笑っている気がしないのは。




