声音
「――おっはよ〜、唯菜」
「おっす、唯菜」
「うん、おはよ佳子、翔」
それから、二週間ほど経て。
教室の開いた扉の前で、一組の男女生徒に迎えられ笑顔を見せる可憐な少女。だけど、彼女――更科さんのその笑顔は、二学期までこの状況で見せていた笑顔とはまるで違って――
「ねえ、遥くん。ここって、これで合ってる?」
「……あっ、えっと……はい、合ってると思います」
「そっか、よかった!」
ふと、正面からお声が。ボブカットの黒髪を纏う美少女、里中さんが昨日の宿題について僕にお尋ねになっていて。それから少しの雑談の後、笑顔で手を振りご自身の席へとお戻りになる里中さん。こういったことは数ヶ月も前から何度もあって、みんなにとっても別段珍しい光景でもないと思う。……だけど、ここ最近――二週間ほど前から、それまでにはなかった視線を日々感じていて。
――それから、数時間が経過して。
「……あの、里中さん。その、流石に少し恥ずかしいのですが……」
「え〜? こんぐらいいいじゃん。だって……私達、付き合ってるんだから」
「……それは、そうなのですが……」
おずおずと言葉を口にする僕へと、あっけらかんとお答えになる里中さん。今はお昼休みで、里中さん達と食堂に来ているのだけど……こう、ほぼ密着と言って差し支えのないくらいに距離が近いわけでして……うん、恥ずかしい。……だけど、問題は恥ずかしいということ以上に――
「ふふっ、以前よりもいっそう仲が良いですね、お二人とも」
「ふふっ、まあね」
里中さんの正面の席から、何とも楽しそうな笑顔を見せる清麗な少女。里中さんの親友たるクラスメイトの女の子、宮野舞香さんで。……まあ、宮野さんはそうなるよね。里中さんと僕が結ばれてほしいと、文化祭の時に僕に仰っていたし。……だけど、
「……どうかした? 藤谷」
「……あ、その……」
盗み見るような視線に気がついたのだろう、僕の正面から仄かな微笑で尋ねる端整な少年。マッシュヘアの茶髪を纏うクラスメイトの男の子、古里優李くんで。
実は、里中さんとお付き合いを始めてからも、こうして四人で昼食を取る日が――それも、お付き合いの以前よりも増えている気がしていて。そして、この状況においても里中さんはこんな感じの距離感で。……うん、分かる。責められているわけじゃない。それでも、古里くんの視線に耐えきれず思わずさっと目を逸ら――
「…………あ」
直後、再びさっと目を逸らす。というのも……視線を向けた少し遠くに、クラスメイトの男女生徒達が腰掛けているのだけど……その中の、山吹色の髪の可憐な少女と目が合ったためで――
「……ねえ、遥くん。分かってると思うけど……遥くんの彼女は、私なんだよ?」
「……はい、もちろん分かっています、里中さん」
ふと、すぐ隣から小さな声が。声音には、穏やかながらも圧のようなものが含まれていて。……うん、分かってる。僕は、里中さんの彼氏――決して、彼女の機嫌を損ねるわけにはいかないことも。




