食堂にて
「……うわぁ、ここが噂の……」
「……いや、どこの噂? 聞いたことないけど、食堂の噂なんて」
それから、数分経て。
思わず、感嘆の声が。すると、隣から呆れたように尋ねる里中さん。……うん、ご尤なご反応で。ただ、前を通ったことはあるけど、こうしてお昼時の食堂は初めて見るので何とも新鮮でして。
ともあれ、少しの緊張を抱えつつ食堂の中へ。外部から見えていたように、内部では数多の生徒で賑わっていて。……あっ、先生方もいる。
「あっ、藤谷くん。あそこにしない?」
「あっ、はい里中さ……あっ、いや……その、あちらにしませんか?」
「……えっと、別にいいけど……でも、ちょっと混んでない? あっちの方が空いてると思うけど」
「あっ、はい、確かにそうなんですけど……ほら、空いてるところが苦手じゃないですか。僕」
「空いてるところが苦手!? あと、ほらも何も思っきり初耳なんだけど!! ……いや、ほんとびっくりだよ。藤谷くんって、人が多いところとか苦手なイメージあったから」
少し狼狽えつつ発した僕の言葉に、驚愕もあらわな里中さん。……うん、そうなるよね。そして、ご想像の通り人の多いところは苦手です。……それにしても、結構ツッコんでくれるなあ、里中さん。僕としてもちょっと意外でした。
さて、前述の通り人の多いところが苦手な僕が、それでも混んでいる方を選択せざるを得なかったのは……その、空いている方の比較的近くに、先ほどの六人のクラスメイト――正確には、更科さんがいるからで。……いや、だからと言ってなにか問題があるわけでもないんだけど……まあ、やっぱりちょっと……いや、かなり気まずいわけでして。
「ところでさ、藤谷くんっていつもお弁当だよね? いいなぁ、お弁当作ってもらえて」
「……へっ? あっ、はい。その、ですが……その、一応、自分で作っていまして」
「……へっ? あっ、ごめん! その、男の子だからってわけじゃなくて、同い年の子で自分でお弁当を作ってるってすごいなって思って!」
「ふふっ、ご心配なさらないでください。そのような誤解はしていませんので」
「……そ、そっか」
それから、10分ほど経て。
隅の方の空いていたテーブルにて、隣合わせでそんなやり取りを交わす僕ら。ちなみに、里中さんが注文したのは豚の生姜焼き定食で……うん、美味しそう。いつもはお弁当だけど、僕も今度食べてみようかな。
……ところで、実のところ向かい合わせでも座れるスペースはあったんだけど、里中さん自身のご希望にて隣合わせになっていて……うん、ちょっと恥ずかしい。いや、もちろん嫌ではないし、そもそも座る場所は僕の意見を汲んでもらったのだから文句を言える立場でもないんだけども。
その後も、他愛もないお話に花を咲かせる僕ら。とはいっても、地味で陰キャラでコミュ障の僕から話せることなどほとんどなく、基本的に彼女の方から色々と話してくださって……うん、ほんと助かります。そして、お昼休みも終わりに近づいた頃――
「……ねえ、藤谷くん。私、普段は友達と一緒に食べてるから、今日みたいな機会はあんまりないと思うんだけど……でも、またいつか一緒に食べよ? あっ、社交辞令じゃないからね?」
「……里中さん」
そう、窺うような表情で尋ねる里中さん。今言っていた友達というのは、今日は欠席している女子生徒、藤本さんのことで間違いないだろう。そんなに知ってるわけじゃないけど、二人で仲良さそうに話しているところとか、お昼休みに一緒に教室を出ていくところとかも見たことあるし。なので、普段は藤本さんと二人で食堂で食べているのだろう。ともあれ、お返事だけども――
「……その、もしも機会があれば……」
そう、躊躇いつつ答える。……うん、もちろん嫌なわけではない。わけではない、けれど……ちらと、少し遠くへと視線を移す。人が多くてはっきりとは見えないけれど、クラスメイトの男女生徒六人のいる方――正確には、更科さんの方へと。……いや、問題があるわけじゃない。わけじゃない、けれど……うん、やっぱりちょっと気まずいといいますか。




