三学期
――それから、一週間ほど経過して。
自室にて、今日の分の勉強を終えぐっと身体を伸ばす僕。さて、本日は12月31日――即ち、大晦日を迎えていて。なので、数時間前には歌番組を見ながら年越しそばを家族で食べていたわけで。……さて、あともう少しで今年も――
――トゥルルルル。
ふと、机の上で響く電子音。発信源たるスマホを手に取り画面を見ると、そこには目にするだけで心癒やされる大好きなお名前。ご実家でのお休みを邪魔しては申し訳ないと思い、こちらからは電話をしづらかったんだけども……でも、もしかしたらどこかで掛けてくださるかなあ、なんて、烏滸がましくも期待をしてしまっていた自分もいて。ともあれ、ドキドキしつつ応答ボタンに指を添え――
『――あっ、遥くん。久しぶり〜』
直後、明るい声が心地好く鼓膜を揺らす。鮮やかな山吹色の髪を纏うクラスメイトの美少女、更科唯菜さんのお声が。
『それで、遥くんはどんなふうに過ごしてたの?』
「そうですね、とりわけお話しするほどのことでもないかなと。勉強したりアルバイトしたり、更科さんと会いたいなあって思ったり」
『……うん、なんか最近、ちょくちょくあたしの心を乱してくるよね、遥くん。あの時も、ほんとは意識があったんじゃないかって疑いたくなっちゃうよ』
「…………?」
その後も、ほのぼのと会話を交わす。……うん、やっぱり楽しいなあ。ここ最近はお話もできていなかったため、いっそう心が弾んでしまっている自分がいて。……でも、申し訳なくも最後の部分が全く理解できていなくて。……あの時、とは? ほんとは意識があった、というのはいったい――
……あっ、ひょっとしてあの時のこと? あの素敵なおそば屋さんでの、急にグラグラしだしたあの時の……いえ、ほんとになかったですよ? 意識。実際、全く覚えていないですし。
さて、あの時のことだけど……なんと、僕のいただいた中華そばに、ブランデーがたっぷり入っていたとのことで。もちろん僕が注文したはずもなく、他のお客さまにお出しするはずの料理を間違って僕に、とのことだけれど……うん、びっくりだよね。まさか、そんな奇抜なメニューがあったなんて。
ところで、僕が酔ってしまっていた間になにがあったのか聞いたのだけど……うん、どうしても教えていただけなくて。全く覚えていないけれど、僕が多大なるご迷惑をおかけしたことだけはほぼ確信をしているので、きちんと内容も知った上で改めて謝罪をしたかったのだけれど……でも、お相手が言いたくないのなら、僕の方から無理に聞き出すわけにもいかなくて。
『……ねえ、そろそろだね、遥くん』
ややあって、そう口にする更科さん。そろそろ、とは何のこと……なんて、流石に確認するまでもなくて。そして――
『あけましておめでとう、遥くん』
「あけましておめでとうございます、更科さん」
そう、ほとんど同時に口にする。そして、お互いに可笑しそうな声がこぼれる。うん、今年もよろしくお願いします、更科さん。……そして、願わくばその先もずっと――
――それから、元旦の夜のこと。
――トゥルルルル。
勉強の最中、ふと机の上から響く電子音。鉛筆を置きスマホを見ると、画面にはクラスメイトの美少女のお名前が。……もしかして、新年の挨拶のために掛けてくれたのかな? ともあれ、応答ボタンを押しスマホを耳へ添え――
『――あっ、遥くん。あけましておめでとう〜。それでね、さっそくなんだけど……実は、ちょっとびっくりすることを友達から聞いちゃって――』
『………………え』
――それから、一週間ほどが経過して。
冷たい風の中、ゆっくりと通学路を歩いていく。今日から、三学期――これまでの期間とはまた違った、少し寂しさを感じる時期でもあって。もう少しで卒業だったり、クラスが変わったりするからかな? でも、だからこそ今の時間を一番大切に思える時期でもあるかもしれない。
だけど、今の僕にそんな感慨はまるでない。僕の心を占めているのは、今はもう隣にいない大好きな女の子のことだけで。そして、隣にいないその理由は――
「――ふふっ、なんだか新鮮だね。こうして二人で登校するなんて」
「……はい、そうですね……里中さん」
隣から、笑顔で話す黒髪の美少女。お化け屋敷の時みたく、ご自身の腕を僕の腕に絡めながら。一年E組のクラスメイト――そして、一週間ほど前からお付き合いを始めた女の子、里中弥湖さんで。




