即戦力の新人さん
「――いらっしゃいませ、お客さま。こちらのお席へどうぞ」
「あれ、新人さん? うわぁ、可愛い」
「えへへっ、ありがとうございます」
それから、二時間ほど経て。
扉の前で、朗らかな笑顔でお客さまをお迎えする可憐な少女。本日、ここ琴乃音の仲間になってくれたクラスメイトで友達の美少女、更科唯菜さんで。
さて、更科さんだけど、もうお仕事をほとんど覚え実行にまで移してしまっていて。更には可憐な容姿、そして太陽のような明るい笑顔で対応なさる彼女は、もう既にたくさんのお客さま方から好かれていて。ちょっと複雑な気持ちがないとは言えないけれど、それでもやっぱり嬉しい気持ちの方が大きくて。……ただ、一つだけ言いたいことがあるとすれば――
「すみません、更科さん。3番テーブルのお客さまのご対応をお願いします」
「はい、かしこまりました遥センパイ!」
そう言うと、ビシッと敬礼のポーズと共に楽しそうに答えてくださる更科さん。……いや、自然なのかもしれない。一応、琴乃音では僕が先輩なのでこれが自然なのかもしれないけども……その、できればいつも通りに話していただけたらなあと。
――それから、数時間が経過して。
「お疲れさまです、更科さん。まだ初日なのに、もう既に戦力になっていてみんな助かって……あっ、すみません! 僕なんかが、こんな偉そうな物言いに――」
「ふふっ、なんで謝るの? 遥くんは職場の先輩なんだから、仕事で後輩を評価するのなんて普通じゃん。ありがと、遥くん」
「……更科さん」
「でも、みんなの――特に、遥くんのお陰だよ。遥くん達が優しく丁寧に教えてくれたり、あたしが失敗する度にフォローしてくれたから」
「……いえ、僕は大したことは……ですが、ありがとうございます、更科さん」
茜に染まる空の下、閑散とした住宅街をほのぼのと歩いていく。……本当にお疲れさまです、更科さん。そして……うん、楽しかった。いや、いつも楽しいんだけども……でも、更科さんと一緒だといっそう楽しくて。
「……ところで、更科さん。どうして、こちらでアルバイトを?」
「……うーん、何ていうか、前々から考えてはいたんだよね、琴乃音でバイトしよっかなあって。お客さんとして来てた時からすっごくいいなぁって思ってたし……何より、遥くんがいるし。
……でも、不安だった。あたしに、お仕事なんて務まるかなあって。社会で働いた経験なんて、今日まで一度もなかったし。それに引き換え、遥くんは早くから……それも、こんなにしっかり働いててすごいなあってずっと思ってて」
「……そう、だったのですね」
「……でもね、文化祭で初めて接客をしてみて、自分でも結構できるんだなあって思って。だから、意を決してやってみようって思えたの」
「……更科さん」
更科さんのお言葉に、沁み沁みと心が温まる。僕なんかより、更科さんの方がよっぽどすごい。だけど……彼女が琴乃音で働きたいと思った理由に、少しでも僕が含まれていたことが本当に嬉しくて。……うん、どうかこれからも――
「だから、これからもよろしくね、遥センパイ?」
「……あの、その……はい、よろしくお願い致します」
感慨の最中、少しからかうようにそう口にする更科さん。……あの、できればその呼び方は控えていただけますと……。




