文化祭を終えて
「――さて、改めてだけどお疲れさま、遥くん。いや〜大変だったけど、でもすっごく楽しかった」
「お疲れさまです、更科さん。はい、僕もすっごく楽しかったです。」
それから、数時間後。
黄昏に染まる空の下を、ほのぼのと会話を交わしつつ歩いていく。更科さんの言うように、とても大変だったけれど……それでも、彼女の言うようにすっごく楽しくて。体育祭の時もそうだけど、みんなが一丸となって一つのことを頑張るのはとても充実した時間で。……そして、何より――
「――それにしても、大活躍だったね遥くん。キッチンでもそうだけど、ホールの時もいきなりなのに誰よりもテキパキとお仕事してたし。みんなもすごくびっくりしてたし……それに、あたしも嬉しかった」
「……そこまで褒めていただけると、大変恐縮ではありますが……まあ、一応はアルバイトでホールを担当していますから」
ニコッと話す更科さんのお言葉に、大いに照れつつたどたどしく答える僕。そこまで褒めていただけると、大変恐縮だけれども……それでも、少しでもお役に立てていたのなら何よりで。……あっ、ちなみにお手洗いには行きました。ほら、アイドルだって本当は……うん、ごめんなさい。
「……でも、ちょっと困ったことにもなっちゃって」
「……困ったこと、ですか?」
「うん。ほら、今日――と言うか、準備期間から今日までで遥くん、良い意味ですっごく目立っちゃったじゃない? だから……うん、ちょっと困ったなぁって」
ややあって、ふとそう話す更科さん。……うん、確かに。僕にしては、だいぶ――それこそ、これまで生きてきた中で最も目立っていたと言っても過言ではないかもしれなくて。……まあ、そうは言っても――
「……ですが、そのご心配は杞憂かと。この文化祭の期間は、たまたま僕の取り柄のようなものが発揮できる機会に恵まれただけですから。明日からはまた、地味で陰キャラでコミュ障の僕に戻ります」
「……いや、元々そんな感じじゃないんだけどね、遥くん」
そう言うと、少し呆れたように微笑む更科さん。僕が目立ってしまうことで、更科さんがお困りになる理由は分からないのだけども……でも、何にせよそのご心配は杞憂で。なにせ、明日からはまたいつもの僕に――
「……あの、更科さん?」
「ん、ダメ?」
「あっ、いえそんなことは! ……その、嬉しいです」
「ふふっ、素直でよろしい」
ふと思考が途切れ、そして大いに慌てる僕。というのも……ふと、更科さんがご自身の腕を僕の腕に絡めたからで。そして、これまた理由は分からないけれど……でも、理由なんて何でもいい。こうして彼女の感触を、温度を直に感じられる――それがとても嬉しくて、あまりにも幸せなのだから。
その後も、腕を絡めたままゆっくりと黄昏の下を歩いていく。……どうか、この時間がずっと――
「……あっ、ところでさ。この状態で、ふと思い出したんだけど――」
「……ん?」
「――今日は、いつも以上にすっご〜〜く仲が良さそうだったね? 里中さんと」
感慨の最中、満面の笑顔でお尋ねになる更科さん。例のごとく、まるで笑っているとは思えない方の満面の笑顔で。……うん、なんでだろうね。今まさに、彼女の温もりを直に感じているはずなのに……心做しか、背筋がとても寒くなっている気がするのは。




