お化け屋敷
「美味しかったね、遥くん」
「はい、里中さん。とっても美味しかったですね」
「でも、ほんとによかった? 遥くんは二回目だったわけだし」
「はい、もちろんです。むしろ、僕ももう一度食べたいと思っていましたし、里中さんが食べてみたいと言ってくれてよかったです」
それから、数十分ほど経過して。
色彩豊かな廊下にて、和やかにお話ししながら歩いていく僕ら。美味しかったとは、二年B組の屋台のタイ焼きのことで。一回目の自由時間に古里くん、宮野さんと一緒に行っていたあのタイ焼き屋さんで、とても美味しかったと里中さんにお伝えしたら、それなら食べてみたいとのお答えが返ってきたので、次は里中さんと再びお伺いしたわけでして。
「……ふふっ」
「……どうかしましたか? 里中さん」
「ううん、ただ……遥くん、あっという間に食べちゃってたじゃない? だから、よっぽどお腹空いてたんだなあって、改めて思っちゃって」
「……えっと、その……まあ、そうですね」
里中さんのお言葉に、少し言葉に詰まる僕。あっと言う間、と言うほどではないかもしれないけれど……それでも、彼女の言うように、二回目のタイ焼きはそれなりに急いで食べてしまって。というのも……古里くんが宮野さんからタイ焼きの交換を求められていたように、僕も里中さんから交換を求められるかもしれない、と考えてしまったからで。
とは言っても、決して交換自体に抵抗があるわけじゃない。例えば……そう、タコ焼きみたいに一つ一つ交換できるものなら何の問題もないわけでして。ただ、タイ焼きのようなものは……その、古里くんと宮野さんの時のように、間接キスみたいになるかもしれなくて。そして、そうなったら、こう、なかなかに恥ずかしいといいますか……いや、うん、我ながら自意識過剰だとは思うけども。そもそも、里中さんが交換を僕に求めるとは思えないし。
「ねえ、遥くん。あれなんてどうかな?」
「あっ、はいもちろ……へっ?」
ややあって、立ち止まり尋ねる里中さん。一方、答えようとした言葉がふと止まる僕。というのも、彼女が指差したのは、真っ黒なカーテンに包まれた三年F組の教室――文化祭の定番ともいえようホラー系の代表的アトラクション、お化け屋敷だったからで。
「……うわぁ、思ったより本格的だね」
「……そう、ですね、里中さん」
「あれ、遥くん。もしかして、怖いの?」
「……い、いえ……その、ちょっとだけ……」
「ふふっ、相変わらず可愛いなあ、遥くん」
外観通りほぼ真っ暗な空間を、微かな灯りだけを頼りにゆっくりと進んでいく僕ら。……うん、ほんとに本格的で……うん、ほんとに怖い。……ところで、それはそれとして――
「……あの、里中さん。その……少々、恥ずかしいのですが……」
「……でも、私も怖いし……ダメ?」
「……いえ、ダメというわけでは……」
たどたどしくお話しする僕に、控え目な口調で答え尋ねる里中さん。だけど、心做しかその声音はどこか嬉しそうで……うん、これはあれかな? 怖いけど、だからこそ逆に楽しいみたいな、あの定番のパターンだったりするのかな?
さて、今の状況なのだけども……その、里中さんがご自身の腕を、なんと僕の腕に絡めているという状況でして……うん、分かるよ。怖いですよね。僕も、ほんとに怖いです。……だけど、流石にこの状況は――
「――っ!!」
刹那、背筋が凍る。見ると、腰辺りまで伸びる黒髪を纏った白装束の女性がバッと僕らの前へと現れて……雪女、かな? そして、お顔にはめっちゃ怖めのメイクが施されていて……あれ、こういう感じだったかな? 雪女って。こう、怖いかもしれないけど、それよりも綺麗なイメージがあったんだけど……うん、きっと怖さに全振りしたんだろうね。お化け屋敷だし。
ともあれ、その後もたくさんの個性豊かな妖怪達がご登場。だけど、最初の雪女のインパクトが強かったためか、他の妖怪達はそこまで怖くは感じなくて。……だけど、そうは言うものの――
「……ねえ、遥くん。なんか、ちょっと寒くない?」
「……はい、僕もそう思います、里中さん」
そう、少し震えつつ口にする里中さん。……うん、寒いよね。雪女は最初だったし、もうとっくに見られていないはずなんだけど……どうしてか、ずっと背中が寒いんだよね。それも、僕自身は何度も覚えのある種の寒さでして……うん、怖い。




