素敵なお婿さん?
「……うわぁ、めっちゃ美味しい」
「ああ、マジで美味い」
「……あ、ありがとうございます」
それから、数日経た放課後のこと。
家庭科室にて、次々にご感想をくださるクラスメイトの皆さん。何に対してかというと、僕の作ったクレープに関してでして……うん、ありがとうございます、皆さん。
ちなみに、今は家庭科の授業中――ではなく、前述の通り放課後で。文化祭における、僕ら一年E組の出し物である和風喫茶のメニューの一つとして、それはもうたいそうおずおずと僕がクレープを提案し、実際にいくつか作り皆さんに試食をしていただいたわけでして。……うん、ほんと緊張した。地味で陰キャラでコミュ障の僕が、よもや自分から希望を口にするだなんてきっと誰も想定していなかっただろうし。だけど――
ちらと視線を移すと、一瞬ながら嬉しそうにこちらに微笑んでくれる山吹色の髪の可憐な少女。僕がたいそうおずおずと希望を口にした後、真っ先に賛同の声を上げてくださったのが更科さんで。そしてほどなく田中さんと竹内くん、里中さんと古里くん、宮野さんが続いてくださり、その後も教室の至るところから次々と賛同の声が……うん、ありがとうございます、皆さん……ありがとうございます、更科さん。
「ねえ、藤谷くんっていつもこういうの作ってんの?」
「あっ、いえ、いつもというわけではないのですが……その、時々」
「すげえな、藤谷。俺にも教えてくれよ」
「あっ、はいもちろんです!」
その後も、 温かな笑顔で僕に話しかけてくださるクラスメイトの方々。……うん、何ともありがたい。……それにしても、僕の周りにこんなにも人がいるとは……うん、満員電車以来かな?
「ふふっ、すごいね遥くん。これはもう、将来はとっても素敵なお婿さんになれるね」
「へっ? そっ、それがしがお婿さんなど……」
「それがし?」
ややあって、周囲に人が少なくなった辺りで僕のところへ来たのはボブカットの黒髪を纏う可愛らしい女子生徒。僕にとって数少ない友人たる女の子、里中弥湖さんで。……ところで、友達って言ってもいいよね?
……ところで、それはともあれ……お婿さん、か。うん、僕なんかと結婚したいと思ってくださる神さまのような御方がこの世に存在するとは思えないけども……それでも、万が一にも……いや、臆が……いや、兆が一にもそのような御方がいるのであれば、願わくば――
「いや〜ほんと大好評だったね! まあ、分かってたけどね。ほんと美味しいし、遥くんのクレープ」
「……ありがとうございます、更科さん。これも、更科さんのお陰です」
「いやいや、作ったの遥くんじゃん」
それから、しばし経過して。
満面の笑顔で褒めてくださる更科さんと共に、穏やかな夕暮れの帰り道を歩いていく。……あっ、ちなみにですが、本当の満面の笑顔の方で……うん、本当のってなに? まあ、それはともあれ……うん、皆さんのお気に召して本当によかった。そして、本当にありがとうございます、更科さん。
「……うーん、でもちょっと複雑だなぁ。遥くんが褒めてもらえるのは嬉しいけど……でも、遥くんの手料理を他の人に取られちゃうと思うと」
「……更科さん」
すると、お言葉の通り複雑そうなお表情でそう口にする更科さん。だけど、申し訳ないけども嬉しい。更科さんがそのように思ってくれているのが、僕としてはすごく嬉しい。そして――
「……ご安心ください、というのは自分でも可笑しいかと思いますが……それでも、これだけは言わせてください。何を作るにせよ、僕が最も心を込めるお相手はこれからもずっと更科さんだけで……あっ、その、すみません!」
最後の方で、慌てて言葉を止め謝罪をする僕。……うん、しまった。僕なんかがこんなことを言ったら、気持ち悪いことこの上ない。これじゃあまるで、僕がずっと付き纏ってるみたいで――
「……そっ、そっか……うん、ありがと」
すると、懸念に反し目を逸らしつつそう口にする更科さん。夕陽のためか、その綺麗な頬が染まっているように見えるけれど……ともあれ、嫌がっているようには見受けられず……ふぅ、よかった。




