遭遇?
「ふぅ、結構歌ったねえ。もう、喉がカラッカラ」
「そうですね、更科さん。これから二ヶ月くらい声出ませんよ、僕」
「そこまでは歌ってないでしょ」
それから、一時間ほど経て。
再び休憩に入り、ほのぼのと会話を交わす僕ら。最初のデュエットを三回目でどうにかクリア(?)し、その後は和やかな雰囲気でカラオケを楽しんでいて。……うん、そこまでは歌ってないね。まあ、ともあれ――
「――それでは、飲み物を入れてきますね。更科さんは何がいいですか?」
「あっ、それじゃあたしも行くよ」
そういうわけで、それぞれグラスを手にドリンクバーへと向かう僕ら。そして、ぶつからないよう気をつけつつ最初の角を――
「――っ!!」
「ん? どしたの、遥くん」
「……えっと、その……」
ふと、立ち止まる僕。そして、すぐ後方から疑問のお声が。だけど、返事らしい返事がないためか、ご自身で前方に出る更科さん。そして――
「……ああ」
そう、納得したようなお声を零す。そんな彼女と僕の視線の先には、同世代の一組の男女――クラスメイトであり更科さんのご友人たる、田中さんと竹内くんのお姿があって。
少しの間、ひっそりと息を潜める僕ら。歩いていく方向、そしてお二人ともグラスを手にしているところを見るに、お二人もドリンクバーに向かっているようで。幸い、僕らの方からは遠ざかっていくので今見つかる心配は皆無と言っていい。なので――
「……どうしましょう、更科さん。やはり、ここはいったんお部屋へ……へっ?」
ふと、言葉が止まる僕。というのも……卒然、更科さんが僕の手を取りお二人の方へと向かったからで。そして――
「――あれ、佳子、翔。奇遇だね?」
「あっ、唯菜! うん、奇遇だ……へっ?」
すると、パッと笑顔になり、だけどほどなく目を丸くする田中さん。そして、それは彼女のお隣に立つ竹内くんも同様で。……うん、そうなるよね。あの借り物競走の時を除けば、僕ら二人でお話ししているところさえご覧になったことがないはずだし。……でも、どうして更科さんは――
「……そっか、そういうことか」
「まあ、何となく察してはいたけどな」
「……その、ごめんね? 今まで、隠してて」
すると、ややあってそう口になさる田中さんと竹内くん。お二人ともそのご表情は穏やかで、驚きつつもこの光景――更科さんと僕が二人でいて、更には手を繋いでいるという衝撃的なこの光景を受け入れてくれているのが伝わって。……えっと、ほんとに?
「……まあ、隠してた理由も何となく分かるけどね。可愛くてモテそうだしね、藤谷くん。実際、私の周りでもこっそり人気あったりするし」
「にっ、人気あるの!?」
どこか楽しそうに微笑む田中さんのお言葉に、驚愕のお声を上げる更科さん。……うん、そうなるよね。僕も相当にびっくりですし。でも、きっと気を遣って言ってくださっているのだろう。
「でも、せめて私達には言ってほしかったなあ。ずっと一緒の幼馴染みなんだから」
「……うん、そうだよね。ごめんね、佳子、翔」
田中さんのお言葉に、少し後ろめたいご様子でお答えになる更科さん。だけど、お二人とも責めているというご様子はなくホッと安堵を覚える僕。隣を見ると、同じく更科さんも少しホッとしたお表情をなさっていて。
その後、四人でドリンクバーへ。そして、それぞれ飲み物を入れドリンクバーを後に。それから少し歩いていき、お部屋の方向が分かれる角でお二人と別れる更科さんと僕。だけど、少し進んだ辺りで田中さんから名前を呼ばれる。振り向くと、角の辺りで手招きをなさっていて。……僕? いったい、何のご用で……あっ、やっぱり僕ではご納得がいかない、とか? うん、それはそうだよね。付き合っている、とまで思われているかは分からないけど……いずれにせよ、大切なご友人の隣にいるのが事もあろうに僕だなんてご納得できるはずが――
「――唯菜をよろしくね、藤谷くん」
「……へっ? ……あっ、はい!」
だけど、近づいた僕に田中さんから届いたのは思いも寄らぬお言葉で。そして、ポカンとしたり慌てたりの僕に少し可笑しそうに微笑むお二方。それから、挨拶と共に僕へ手を振りご自身の部屋へと戻っていった。
「――いや〜、めっちゃ歌ったね遥くん。明日、ちゃんと声出るかちょっと不安かも」
「ご心配なく、更科さん。僕がしっかり手話でご対応しますから」
「手話できるの!?」
それから、二時間ほどが経過して。
黄昏色の帰り道を、和気藹藹と二人で歩いていく。うん、確かにめっちゃ歌った。もちろん休憩も挟みながらではあるけれど、それでも二人で四時間もいたら結構な歌唱量になるよね。
ところで、それはそうと……さて、どうしよう。僕としては、無理に切り出す必要もないのだけども……心做しか、更科さんの方が《《あの件》》について話したそうな雰囲気を感じていて。なので――
「……幼馴染み、だったのですね。お二人と」
「……うん。小学校から中学校、そして高校とずっと一緒だったの」
そう言うと、仄かな微笑でお答えになる更科さん。尤も、意外かと問われればそうでもないけれど。更科さんが学校でよく一緒にいるあのグループの中でも、あのお二人とはとりわけ仲の良い印象がずっとあったし。
「……ねえ、遥くん。やっぱり、嫌かな? あたし達のことを、みんなに隠してるの」
ややあって、躊躇いがちに僕を見つめそう問いかける更科さん。きっと、これを訊きたかったんだと思う。そして、僕の返事は――
「……いえ、更科さん。以前にも申したかもしれませんが、僕は誰に知ってほしいとも思いません。更科さんと一緒にいられるだけで、僕は本当に幸せなのですから」
「……そっか、ありがと。でも、いつか必ずみんなに話すから」
「まあ、訊かれてもいないのに、突然こちらから言い出すのも少し可笑しな話ではありますが」
「ふふっ、それは確かに」
そんなやり取りの後、閑談に花を咲かせながら黄昏の道を歩いていく。いつか、みんなに……うん、そんな日も来るのかもしれない。……でも、正直どちらでもいいんだけどね。誰に知られなくても、更科さんと一緒にいられるだけで――この気持ちは、今も全く以て変わっていないから。




