あらぬ疑い?
――その後も、カラオケを楽しむこと一時間ほど。そしていったん休憩ということで、マイクを所定の位置に直し閑談に花を咲かせる僕ら。……うん、やっぱり更科さんといると心が安ら――
「あっ、そう言えばさ。実はこの前、古里くんと会ったんだよね、ここで」
「ふぇ!?」
「ふぇ?」
刹那、心が乱れる僕。一方、何とも不思議そうに首を傾げる更科さん。……うん、めっちゃ可愛い。でも、今は見蕩れてる場合ではなく――
「……ふぇ、ふぇ〜、しょ、しょうなんでしゅね〜、うわあ、びっきゅり〜」
「……えっと、急にどしたの? なんか、ちょっと……いや、すっごく変だけど」
「ふぇ!? あっ、いえ僕はいつもすっごく変ですよ!」
「すっごく反応に困るんだけど!? さっきから急にどうし…………ねえ、遥くん。もしかして、なにか隠してない?」
「なっ、なにも隠しておりませんよ? ほら、僕が更科さんになにかを隠したことがありますか?」
「借り物競走のお題とか?」
「うっ」
怪訝に見つめつつお話しなさる更科さんに、最後には口を一文字に結ぶ僕。……うん、こうなってはもうお話ししないわけにもいかない。なので――
「……その、実はですね……その時、僕も古里くん達と一緒に行っていまして」
「……へえ、そうだったんだ。でも、全然隠すようなことじゃなくない? いいことじゃん、友達と一緒にカラオケなんて……ん、古里くん《《達》》?」
「……はい」
「……もしかして、他にもいたとか? 例えば……里中さんとか」
「…………はい」
最後に、ひときわじっと見つめ尋ねる更科さん。……うん、やっぱりすごいね。里中さんのお名前は、一度も出していないのに。……まあ、僕が分かりやすく変だったことからも察せられたのかもしれないけども。
「……まあ、何となく事情は察せられるし、二人っきりじゃないから文句もないけどね。それじゃあ、そろそろ再開しよっか」
「あっ、はい!」
「ねえ、次はデュエットでいこうよ」
「……あっ、はい」
「ん? なんか反応悪いけど……もしかして、嫌?」
「あっ、いえ滅相もありません! めっちゃデュエットしたいです、更科さんと!」
「……そ、そっか。うん、そう言ってくれるのは嬉しいけど……でも、だったらなんでそんな気まずそうに……あっ」
すると、照れたご様子から一転、なにかに気がついたご様子の更科さん。……うん、嫌な予感しかしない。
「そっか、里中さんとはしたんだ? デュエット」
「……はい」
「里中さんとはシたんだ?」
「あれ、ニュアンス変わりました?」
果たして、満面の笑顔でお尋ねになる更科さん。例のごとく、全く以て笑っているように思えない満面の笑顔で。……うん、やっぱりバレちゃってまして。
「……それじゃあ、歌おっか。遥くん」
「……へっ? あっ、はい!」
すると、ややあってそう口にしリモコンを手にする更科さん。……ん、許してくれた? うん、だとしたらとてもありがた――
「……あの、更科さん。もしかして、この曲は――」
「ん? もちろん、二人で歌うんだよ? 遥くんとあたしの二人で」
安堵したのも束の間、おずおずと尋ねる僕に満面の笑顔でお答えになる更科さん。ついさっき見たような、あの満面の笑顔で。そして、更科さんが選んだ曲なのだけども……うん、いい曲だと思いますよ? 最近、ごく一部の間で大変人気と評判ですし。ですが……こう、歌うには歌詞がちょっと……いや、大変恥ずかしいと評判の曲でもあると言いますか。
「さて、このとっても素敵なラブソングだけど――ちゃんとあたしの瞳を見つめながら、ちゃんとあたしへの想いを込めて歌ってね? じゃないと、何度でもやり直しだから」
「…………はい」
だけど、僕の逡巡を余所にそのままの笑顔でマイクを手渡す更科さん。一方、ぎこちないと見ずとも分かる笑顔でおずおずとマイクを受け取る僕。そして、心の準備もままならぬまま、軽快なリズムのイントロが室内に鳴り響き……うん、まだよかったよね。他に人いないし。




