二人でカラオケ?
「――よしっ、久しぶりにめっちゃ歌おう! ねえ遥くん?」
「はっ、はい! 僕も、めっちゃマラカスを振らせていただきます!」
「いや、歌ってよ。いらないよ、マラカス担当」
それから、数日経た休日のこと。
大きなスクリーンを正面に、パッとお表情を輝かせ声をかけてくださる可憐な少女。山吹色の髪の纏う友人の女の子、更科唯菜さんで。……ところで、三週間くらい前に田中さん達といらしていたと思うけれど……それでも、更科さんにとっては久しぶりなのかな?
ともあれ、今いるのはカラオケの一室。三週間ほど前のあの日以来――古里くん、里中さん、宮野さんと四人で訪れたあの日以来の来店でして。
「さて、どっちから歌う?」
「……へっ、ほんとに僕も歌うんですか?」
「いや当たり前でしょ。一緒に来てるのにあたし一人で歌うとかきつすぎるでしょ、色んな意味で」
更科さんの問いに、思わず尋ね返してしまう僕。……まあ、それもそうか。うん、そういうことなら――
「……それでは、敢えての僕からでもよろしいでしょうか?」
「……いや、敢えてのってあんまり自分からは言わないと思うけど……でも、確かに意外だね。絶対、あたしからになると思ってたのに」
僕の言葉に、楽しそうに微笑みリモコンを手渡してくださる更科さん。……うん、意外だよね。僕自身、自分で言っておいて相当にドキドキだし。
……でも、だからこそ敢えての僕からを選ばせていただいたわけでして。というのも、今のこの心境では折角の更科さんのご歌唱をちゃんと聴けるか定かでない。なので、先に歌って少しでもリラックスした状態で更科さんのご歌唱を聴かせていただきたく……うん、言ってて我ながら情けなくなるね。
「……へえ、それで来るんだ。さてさて、遥くんはどんな美声を披露してくれるのかな〜」
ともあれ、少し悩んだ後に曲を送信。すると、少し驚いたお表情を――その後、何とも楽しそうな笑顔でそんなことを言う更科さん。なるべく、最近の若い人達に人気の曲を選択したつもりだけれど……でも、確かに意外かもね、僕が歌うとなれば。
まあ、それはともあれ……うん、もう逃げたくなってきたね。でも、もちろんそういうわけにもいかないので仕方なく覚悟を決める。そして、ゆったりとしたイントロに合わせ、震える口から第一声を――
「…………ふぅ」
それから、五分ほどが経過して。
歌唱を終え、深く呼吸を整える。……ふぅ、めっちゃドキドキした。うん、自分としては上出来だった気がするけれど……果たして、更科さんのご反応は――
「……えっと、その……すごいね、遥くん。めっちゃ上手いし、感動した」
「……へっ? あ、その……きょ、恐縮でありんす」
「ありんす?」
すると、届いたのは思いも寄らないご称賛。……えっと、ほんと? 確かに、自分としては上出来だと思ったけど……でも、そこまで仰っていただけるなんて当然のこと全く以て予期していなくて。でも、お気を遣ってくださっている、という感じでもなく、本心から言ってくださっているように思えて……その、恐縮でありんす。
「……全くもう、遥くんがあまりに見せつけてくれるからすっごいハードル上がっちゃったよ。……ふぅ、更にドキドキしてきた」
ややあって、曲を送信した後ゆっくりと立ち上がる更科さん。彼女が選択したのは、平成に大ヒットした女性アイドルグループの定番曲。……うん、流石に僕でも分かる。もしかして、気を遣ってくれたのかな? だとしたら……うん、申し訳ないです。
「…………ふぅ」
一度、呼吸を整える更科さん。そして、リズミカルなイントロに軽く身体を揺らしつつ第一声を――
「…………ふぅ」
それから、五分ほどが経過して。
僕と同じく、歌唱を終え呼吸を整える更科さん。それから、僕の方へと少し躊躇いがちに視線を移す。その仕草からも、僕の感想を待っているであろうことが察せられて。なので――
「……その、何と言いますか……その、すっごくお上手で、すっごく可愛かったです。ずっと見蕩れて、ずっと聞き蕩れていました」
「……そっ、そっか、ありがと」
そう言うと、少し目を逸らしつつお答えになる更科さん。聞き蕩れる、なんて言葉があるのかどうかは知らないけども……ともあれ、いずれも本心で。そして、まだ一曲目――つまりは、こっからもまだまだ歌ってくださるわけで……うん、保つかな? 僕の心臓。
「それじゃ、どんどん歌お! あっ、ちなみにだけどあたしに気とか遣わなくていいからね? それよしも、遥くんがほんと歌いたい曲をあたしも聴きたいし」
「……更科さん……はい、ありがとうございます」
ほどなく、僕に視線を戻しお話しになる更科さん。気を遣っていた、というほどでもないけども……でも、正直のところありがたい。最近の若い人達に人気の曲をそれほど知っているわけでもないし、何よりそのお気持ちが……うん、ありがとうございます、更科さん。




