体育祭を終えて
「――遅くなったけどお疲れ、遥くん! いや〜ほんと疲れたねえ。でも、やっぱり楽しかった!」
「お疲れさまです、更科さん。そうですね、とても疲れましたが、僕も楽しかったです」
それから、数時間後。
黄昏に染まる帰り道を、和やかな雰囲気で歩いていく僕ら。ところで、体育祭自体はもっと早くに終わっていたのだけど、帰りがこの時間になった理由は、それぞれお菓子やジュースなどを持ち寄り、教室で軽い打ち上げみたいなことが行われていたためで。……うん、やっぱりいいよね、こういうの。僕自身はあんまり話してないけど、それでも和気藹藹としたあの雰囲気の中にいるだけでも楽しかったし。
「それにしても、ほんと色んな子から聞かれたよ? 借り物競走のお題は何だったのかって」
「……その、すみません。それで、更科さんは何とお答えに……」
「うん、分かんないって答えた。まあ、ほんとに知らないしね」
そう、少し悪戯っぽく告げる更科さん。……まあ、そう答えるしかないよね。結局、お題はお伝えしていないわけだし。……その、ご迷惑をおかけして申し訳ないです。
「……ねえ、遥くん。なんか、ちょっと元気ない?」
ふと、そう問いかける更科さん。どうして、急にそのような……なんて、とぼけても仕方がない。きっと、僕のどこか――表情や口調、あるいは雰囲気そのものなどに出てしまっていたのだろう。それでも――
「……いえ、そんなことは……」
「ううん、元気ないよ。あたしの知る限りでは、リレーが終わった辺りから。もしかして、なにかあった?」
ぎこちなく否定をしようとするも、確信を持ったご様子でお話しになる更科さん。……うん、これはもうごまかせない。なので――
「……その、リレーで颯爽に走る更科さんのお姿、とてもカッコよかったです。本当に、我を忘れるほどに見蕩れてしまいました。……なのに、古里くん、竹内くんとバトンを繋ぐ光景に……こう、どうしてか、モヤモヤした気持ちになってしまっている自分がいて……」
そう、俯きつつ口にする。……本当に、自分でも自分が嫌になる。言わずもがな、誰もなにも悪くない。どころか、青春の1ページに刻まれるようなとても素敵な光景だった。……なのに、なんで僕はこんな気持ちに――
「……ふふっ」
「……へっ?」
「いや、この前のプールの時もそうだったけど、意外とヤキモチ妬きだよね〜、遥くん」
「……あっ、いえ……その、すみません」
自己嫌悪の最中、不意に鼓膜を揺らす笑い声。驚きつつ隣を見ると、からかうような笑顔で僕を見つめる更科さんが。そして、さっと僕の手を取り……へっ?
「……バトンは繋いだけど、手は繋いでない。あたしが手を繋ぐのは、遥くんだけだよ。これからも、ずっと」
「……更科さん」
戸惑う僕に、ニコッと笑いそう口にする更科さん。そんな彼女はどうしてか本当に嬉しそうで、未だ戸惑いつつも心が熱を帯びていく。……うん、ありがとうございます、更科さん。
その後も、手を繋ぎながら黄昏に染まる空の下をゆっくりと歩いていく。その間、お互いに何の言葉もなかったけれど、気まずさなんてまるでない。陽だまりのような静寂が、柔らかに僕らを包みこんでくれている。この幸せな時間が、どうかずっと続いてほし――
「あっ、そうそう。今日のことで、ずっと言いたかったことがあるんだけど――」
「…………ん?」
「――今日は何だか、いつも以上にすっご〜く仲が良さそうだったね? 里中さんと」
ふと、ニコッとそう口にする更科さん。だけど、先ほどまでとはまるで違う、何とも冷え冷えとした笑顔でして……あれ、急に寒くなった?




