借り物競走
「…………ふぅ」
それから、20分ほど経過して。
入場口の近くにて、ゆっくりと呼吸を整える。僕の出場する競技、借り物競走がほどなく行われるためで……ふぅ、リラックスリラッ……うん、やめよ。なんか、余計に緊張してきたし。
ともあれ、我ながらぎこちない動きで入場を終え競技へと。幸い、一年生が最初なので緊張の時間は比較的に短くて済んで。
スタートラインにて、少し遠くへと視線を移す。そこには、全学年のE組の皆さん――その中の主に一年生のいるエリアに古里くん、里中さん、そして更科さんのお姿が。更科さんに対しては、あんまりじっと見てるわけにはいかないのでさっと目を逸らしたけれど……それでも、目が合った瞬間、頑張れ、って言ってくれていた気がして……うん、頑張ろう!
――パンッ!
合図と共に、一斉に走者がスタート。まずは、7人中3位……うん、僕としては上出来で。幸いそのまま順位をキープし、正方形の箱が置かれたテーブルの前へ。そして、ドキドキしつつ四つ折りのメモ用紙を一枚取り出し――
「…………へっ?」
ふと、ポカンとする僕。というのも、そこに記されていたお題が……えっ、どうすんの? こんなの、該当するのは一人しか……いや、でもそれは……いや、でもこのお題で他の人に来てもらうわけにも……うん、申し訳ないけど仕方がない。
そういうわけで、メモ用紙をポケットに入れ一直線に駆けていく。到着したのは、我らがE組のエリア。そして――
「……その、申し訳ありません。ですが、もしよければ一緒に来ていただけませんか……更科さん」
「…………へっ?」
突然の僕の申し出に、ポカンと口を開く更科さん。そして、彼女だけではなく、クラスメイトのほとんどみんなが同様のお表情を……まあ、そうなるよね。僕が更科さんに話しかけるところなんて、きっと誰も見たことないだろうし。
「……う、うん、分かった……」
それでも、戸惑いつつもさっと立ち上がってくれる更科さん。そして、お互いにペースを合わせつつ3位のまま一緒にゴールへと駆け抜ける。……まあ、流石に手は繋いでないけども。
「――いや〜、ほんとびっくりだよ。まさか、あたしを借りにくるなんて」
「……すみません、更科さん。その、校内で話しかけるべきでないのは分かっていたのですが……」
「……まあ、それはあたしの都合だし、こっちこそごめんなんだけどね。それに、今回はしょうがないよ。あたしを借りにくるくらいだから、お題に当てはまる人が他にいなかったんだろうし……それに、正直嬉しかった」
「……更科さん」
競技を終え、E組のエリアへ戻りながらそんなやり取りを交わす僕ら。本来であれば、こうして校内でお話しすることはないんだけども……でも、恐らく今は心配ないとのことで。……まあ、あの流れからの今だしね。こうして一緒に話していても、さほど不自然な光景ではないのかも。なので、業務連絡的なものとあの告白の時を除けば、これが更科さんと校内でお話しする最初で最後の機会になるかも……うん、よく考えたらめっちゃ貴重だよね。めっちゃ噛み締めなきゃ。
「……ところでさ、遥くん。なんて書かれてたの? お題」
ややあって、僕をじっと見つめそう問いかける更科さん。……うん、そうなるよね。流石にいつか訊かれるとは思ったし。……でも、本当のことを言うのはちょっと恥ずかしいと言いますか……うん、ここはやっぱり――
「……えっと、一年E組に所属する、苗字が『さ』から始まる山吹色の髪の女子生――」
「そんなピンポイントな借り物ある!?」




