不思議なこと?
『――あっ、藤谷。今、大丈夫?』
「……はい、大丈夫ですよ。古里くん」
その日の夜のこと。
自室にて小説を読んでいると、ふとかかってきた一本の電話。……更科さんかな? だとしたらとても嬉しい一方、いつも以上の緊張を胸にスマホの画面を確認すると、なんとお相手は古里くんで。うん、これはこれでとても嬉しいけれど……でも、一方で不安もあって。やっぱり、今日のことで僕にご不満を――
『……ありがとう、藤谷』
「……へっ?」
『……今日、藤谷が来てくれたのって、僕のためなんでしょ? 藤谷が来なかったら、里中が別の男子に声をかけるかもしれないから、それを避けるために里中の相手として来てくれたんでしょ?』
だけど、僕の不安とは反対に感謝を告げてくれる古里くん。……そっか、バレてたんだ。鋭いね、古里くん。
……正直、申し訳ないとは思っていた。古里くんの想いを知っていて、協力の約束までした僕が、よもや彼の意中の人である里中さんのパートナーとしてダブルデートに参加していたのだから。……いや、パートナーとは言っても、決してお付き合いをしているわけじゃないんだけども。
『……あっ、そう言えばさ……実は今日、更科と会ったんだ。あのカラオケで』
「……へっ? あっ、そっ、そうなのですねっ。うわ〜びっくり〜」
『……あの、なんか変じゃない? 藤谷』
「へっ、あっ、いえ僕は大概いつも変ですし!」
『自分で言っちゃった!?』
僕の返答に、珍しく大きな声を放つ古里くん。……うん、自分で言うことじゃないよね。あと、変というか普通に怪しいよね、我ながら。
『……まあでも、そりゃびっくりするよね。自分の好きな人が、偶然同じ場所に遊びにきてたってなったら。それでさ、変と言えば、不思議なことがあって』
「……不思議な、ことですか?」
『……うん。折角の機械だし、更科に藤谷のいいところを言いたかったんだけど……でも、そもそも更科と話したこともない僕がいきなり話しかけたらおかしいかなって……まあ、正直ビビっちゃって。それで、結局は何も言わずに通り過ぎようとしたんだけど……すれ違った時に、ありがと、って言われたんだ。でも、さっきも言った通り話したことすらないのに、感謝される理由なんて全然覚えがないから、それがずっと不思議で……』
すると、戸惑った口調で話す古里くん。……うん、それはそうなるよね。話したこともないのに、いきなり感謝の言葉なんて告げられたら。
……だけど、流石に僕は理解できて。僕と仲良くしてくれてありがとう――更科さんが、そういう思いを込めて古里くんに伝えた言葉だということが。……でも、申し訳ないけれど、僕の口から古里くんに伝えるわけにもいかなくて。なので――
「……僕からも、ありがとうございます、古里くん」
『……なんで、藤谷まで?』
そう言うと、いっそう困惑の伝わる口調で尋ねる古里くん。まあ、そうなるよね。でも……うん、友達になってくれてありがとう、なんて言うのも流石にちょっと恥ずかしくって。




