勉強会?
「――ねえ、遥くん。この問題なんだけど、ここからどう考えればいいの?」
「……ああ、これはですね、こうして因数分解をしてから――」
「……ああ、なるほど。それにしても、ほんと教え方上手いよね、遥くん。将来は学校の先生とか?」
「……へっ? あっ、いえそんな!」
「あっ、でも女子校はダメだからね? あたしのメンタルが保たなくなるから」
それから、一週間ほど経た九月の末頃。
可愛らしいピンクの円卓の前にて、ペンを片手にそんなやり取りを交わす僕ら。……いや、ダメ以前に僕は男子なのでそもそも女子校には入れな……あっ、でも先生としてならあり得るんだっけ? ……いや、そもそも先生になる予定は今のところないんだけども。
さて、今いるのは更科さんのお部屋。来週の中間テストに向け、隣同士で勉強をしているわけで……うん、未だに緊張するね。
「……はあ、疲れたあ。うん、今日の勉強は終わり!」
「ふふっ、お疲れさまです。更科さん」
それから、二時間ほど経た夕暮れ時。
両手を上げぐっと身体を伸ばしつつ、明るく締めのお言葉を放つ更科さん。ふふっ、お疲れさまです、更科さん。
「さて、さっそくだけど何しよっか? あっ、もちろん休憩してからでいいけどね」
「……そう、ですね更科さんは、なにかなさりたいことはありますか?」
「……うーん、じゃあセッ――」
「他のことでお願いします」
「まだ言ってないけど!? あと、そっちが聞いといてその対応はひどくない!?」
すると、ありありと不服を放つ更科さん。まあ、確かにこちらが聞いておいてこの対応はよろしくないと我ながら思うけども……うん、できれば他のことでお願いいただけたらなあと。いや、決して嫌なわけではないのですけども。
「……はぁ、しょうがないなぁ。それじゃあ……これくらいなら、いいでしょ?」
「……はい、もちろんです更科さん」
ややあって、少し呆れたように微笑む更科さん。そして、言葉と共に僕の肩へそっと頭を乗せ凭れかかる。そんな彼女に、僕も微笑み身を寄せる。
しばし、静寂が包み込む。だけど、決して気まずいような静寂ではなく……ただただ、心地が好い。愛して止まない大切な人が、こんなにも近くにいてくれる……それは、誇張でなくこれ以上に何もいらないくらいに幸せで――
「……すぅ、すぅ……」
「……ん?」
ふと、鼓膜を揺らす吐息の音。隣を見ると、果たして柔らかな微笑で寝息を立てる可憐な少女のお姿が。……ふふっ、お疲れさまです。
山吹色の綺麗な髪が、少しだけ空いた窓からの風にふわりと靡き僕の耳へと優しくかかる。彼女の匂いに、感触に、寝顔に、僕の鼓動は否が応でも高鳴っていく。そして――
「……好きです、唯菜さん」
そう、ポツリと口にする。もう何度目かの、なのに一向に慣れない言葉を。……だけど、足りない。言葉だけじゃ、全然足りない。どうすれば、この想いを残さず全て伝え切――
「「…………あ」」
ふと、声が重なる。更科さんと、ではなく……いつの間にか開いていた扉の向こうでこちらを見つめる、更科さんのお母さまと。ちなみに、お母さまの右の掌には丸いトレイ――そこに、それぞれカステラが載ったお皿が二枚。なので、お越しになった理由は流石に分かるのだけども……うん、これは何とも気まず――
「――あらあら、いっけな〜い。お母さん、ちょっと用事を思い出しちゃっ――」
「ベッタベタなおとぼけ!?」




