相性?
思いも寄らない更科さんのお言葉に、ただただ呆気に取られる僕。……いや、うん、聞き間違いだよね? もしかしたら、耳鼻科で診てもらって方がいいのかも――
「……あれ、もしかして聞こえなかった? まずはセックスからね、って言ったんだけど」
耳の状態を懸念する僕に、キョトンと首を傾げそう口にする更科さん。それも、僕が聞き取れるよう、さっきよりもはっきりとしたご口調で。……いや、さっきも十分はっきりしてたんだけども。ただ、きっと僕の意識が聞き間違いだと思いたかっただけで。……まあ、それはともあれ――
「……あの、更科さん。その、いったい、どうして、その……セッ、セッ……」
「ふふっ、言葉くらいでそんな照れなくても。可愛いなあ、藤谷くん」
そう、おずおずと尋ねてみる。……いや、尋ねられてないけども。そして、そんな僕に更科さんは可笑しそうに……うん、すっごい恥ずかしい。
……まあ、それはともあれ……正直、全く以て予想になかった展開で。いや、そもそも振られる一択だと思っていたので、よもやオッケイだったらそれもそれで意外どころではないけれども……ともあれ、そもそも告白の返事として成立していない気が――
「それで、まずセックスから入る理由だけど――これから恋人になる可能性があるのなら、その前にちゃんと確かめときたいから。あたし達の、身体の相性を」
「……身体の相性、でしょうか……?」
「うん、大事でしょ?」
再び、衝撃の言葉が届く。だけど、茫然とする僕とは対照的にニッコリと微笑む更科さん。……うん、否定はしない。恋人関係になるとなれば、恐らく大半の場合では《《そういう関係》》を持つことにも繋がっていくものだろうから。だから、身体の相性が大事、というのはもちろん理解できるのだけども――
「……ですが、何と言いますか……それって、順序がおかしくないですか?」
そう、控え目に尋ねてみる。……いや、そもそも僕ごときに恋愛の何が分かるのかというお話ではあるのだけども、それでも……こう、そういった行為は、まずお付き合いが始まって、それからある程度の月日が経ってからの最終的な段階ではないかなあと――
「なんで?」
「……へっ?」
「いや、順序とか別にないでしょ。むしろ、あたしからすれば断然身体が先なんだけど。だって、付き合うってなったら遅かれ早かれ当然そこに行き着くわけでしょ? だったら、付き合ってから身体の相性が悪かった、ってなるより、そもそも付き合う前から分かってた方がいいに決まってるじゃん。だったら、相性が悪いと分かったその時点でお互い付き合うって選択肢がなくなるわけだし、その方がお互いのためでしょ?」
僕の疑問に対し、滔々とご自身の考えをお話になる更科さん。そして、そのお考えも決して理解できないものではなく……うん、やっぱりすごいなぁ、更科さん。固定観念に囚われず、しっかりとご自身で確固たる価値観を持っていらして。




