相違
……ただ、そうは言っても――
「……ですが、更科さん。身体の相性、というのが恋愛において一つの重要な要素であることは多少なりとも理解しているつもりです。……ですが、大切なのはそれだけでしょうか? 例えその相性が良くなくとも、他にも大切なことがあるのではないでしょうか?」
そう、なおも食い下がる僕。……うん、自分でもしつこいなと思う。彼女には彼女自身の価値観があるのだから、当然のこと僕がどうこう言うことじゃない。今、僕がすべきは、きっと彼女の価値観を理解し尊重することだけ。……なのに、どうして僕は余計なことを――
「……ああ、容姿とか性格ってこと? うん、もちろんそういうのも大事だよね。ちなみに、そういう点で言うなら、藤谷くんは可愛い顔してるし容姿はけっこう好みかな。性格は……うーん、今までほとんど……っていうか、全然話したこともないはずだから、性格に関してはまだあんまり分からないけど……でも、ここまで話してた中で、いい人だとは思ってる」
「……へっ? あっ、ありがとうございます……」
「でも、それとこれとは話が別。友達ならともかく、恋人となると身体も絶対に大事でしょ? まあ、付き合った上でお互い誰とでも寝てもいい――なんて取り決めにする、って方法もあるし、実際にそういう人達もいると思うけど……でも、個人的にはそれはちょっとね。だって、付き合ってるってことは、あたしだってその男性のことを好きになってるはず。だったら、その男性が他の女性と、って思うと流石に嫌だと思うし。もちろん、あたしだってもし誰かと付き合ったらその男性としかセックスしない。だから、そのためにも事前に確認しておくことはマストなの」
更科さんのお言葉に、思わず口を結ぶ僕。その瞳や口調から、揺るぎない彼女の意思が改めてひしひしと伝って……うん、そうだよね。だけど、僕の方にも価値観はあって――
「……ですが、更科さん。その、僕は……その、身体の関係などは、そもそもなくていいんですよ」
「………………はい?」
おどおどしつつ口にした僕の言葉に、ポカンとしたお表情になる更科さん。それは、さながら信じられないものを見るようなお表情で……あれ、なにか変なこと言ったかな? ……あっ、でも、だとしても――
「確か、更科さんは先ほど、変なところがある方がいいと仰ってくだ――」
「いやそんな変なところは求めてなかったよ!!」
安堵と共にそう言うも、目を見開きつつ反論をなさる更科さん。……あれ、違ったのかな?
……とはいえ、これは紛れもなく本心で。僕なんかが誰かとお付き合いできるだなんて、そもそも微塵も思ってはいないけど……もしも、本当に仮に誰かとお付き合いできたとしても、そもそも身体の関係は求めていなくて。その人と一緒にいられたら、僕はきっとそれだけで幸せで――
「……でもまあ、いいんじゃない? あたしにはあたしの価値観があるように、藤谷くんには藤谷くんの価値観があるわけだし。だから、そういう……いわゆる、清く正しい恋愛ってやつ? うん、それもいいんじゃない? でも、そういうのを求めてるんならあたしじゃなく他を当たって? そういうのがいいって子も、きっといっぱいいると思うし」
ややあって、ニコッと微笑みつつそう告げ去って行く更科さん。笑ってくれてはいたものの、それはブルッと背筋が凍るほど冷めきった笑顔で。
しばし、茫然と立ち尽くす僕。そして、ゆっくりと遠ざかる彼女の背中をただただ見送――
「――ちょっと待って!」
思わず、叫んでいた。すると、ピタと立ち止まり振り返ってくれる更科さん。そんな彼女の瞳をどうにか見つめつつ、おどおどと言葉を口にする。
「……その、先ほどのお話ですが……その、僕でよければ……」




