告白
――京都府内の公立校、葎黎高校――その校舎の四階に在する、一年E組の教室にて。
「――おっはよ〜、唯菜」
「おっす、唯菜」
「うん、おはよう佳子、翔」
ある平日の朝のこと。
開いた扉の前で、クラスメイトに迎えられ笑顔を見せる可憐な少女。彼女は更科唯菜さん――ここ一年E組のクラスメイトで、いつも明るくコミュ力も高く、なので当然のことたくさんの生徒から好かれている眩いほどにキラキラした女子生徒で。つまりは、地味で陰キャラでコミュ障の僕とはそもそも住む世界の違う御方でして。
なので、入学からおよそ三ヶ月が経過した今でもまだ会話すらしていない。文字通り、一言も言葉を――それこそ、挨拶すらも交わしていないわけで。……うん、流石に交わさなさすぎだよね。クラスメイトなのに、三ヶ月も挨拶すらも一度も交わさないって、むしろ相当難しいんじゃないかな?
ともあれ、分かっているのは――きっと、これからもずっとこの状況が続くということ。もしかしたら、挨拶の一つくらいは交わす機会に恵まれるのかもしれないけれど、せいぜいその程度――きっと、雑談の一つも交わせずに一年……いや、きっと三年を終え卒業していくのだろう。そう、このままではきっと――
「……は、初めまして。ぼ、僕は、一年E組の藤谷遥と申します。その、大変申し訳ありません、更科さん。わざわざ、貴重なお時間を割いていただいて……」
「……いや、おかしいよね? その挨拶。クラスメイトだよね? あたし達。……まあ、それはさて措き、気にしないで藤谷くん。それより、お話って何かな?」
ある放課後のこと。
体育館の裏側にて、おずおずと口を開く僕。そんな僕に、ニコッと微笑み答えてくれる可憐な少女。クラスメイトの女子生徒、更科唯菜さんで。
さて、改めて更科さんについてだけれど……鮮やかな山吹色の髪、透き通ったつぶらな瞳、そして肌理細やかな肌の美少女で、こうして目の前にするといっそう鼓動が止まらな――
「……ふふっ」
「……? あの、どうかなさいましたか? 更科さん」
「あっ、ごめんね? ただ、藤谷くんっていっつも敬語だなぁ、って思って」
「……変、でしょうか?」
「……うーん、変かどうかは分からないけど……少なくともあたしの周りの子では見たことないかな、同い年を相手に敬語で話してる子は。でも、変だとしてもいいと思うよ? そもそも、変なところが一つもない人なんてきっといないし、仮にいたとしたらつまらないよ、そんな人」
「……そ、そうですね」
更科さんのお言葉に、少し戸惑いつつも納得感を覚える。僕が変かどうかは、結局のところ分からなかったけれど……でも、確かにそうかも。人間、誰しも変わったところがあるから魅力的なのかもしれない。まあ、僕の変さが魅力に繋がるかは甚だ懐疑的ではあるけども。
「ああ、ごめんね、遮っちゃって。それで、話って何かな? 藤谷くん」
ほどなく、再びニコッとそう問いかける更科さん。そんな彼女に、少し頷き深く呼吸を整える。そして――
「……そ、その……僕は、更科さんが好きです!」
たどたどしい僕の告白に、特に驚いた様子もなく微笑む更科さん。雑談どころか、挨拶すらもついさっきまで交わしたことのない相手から、よもや告白されるなんて本来なら相当に驚愕ものだと思うけれど……まあ、この状況だし察していたのだろう。そもそも、告白を受けるなんてこと、彼女ならもう数え切れないほど経験してるだろうし。ともあれ――
「……改めてですが、お時間を取らせて申し訳ありません。それでは、僕はこれで――」
「いやちょっと待って? どこに行くつもり?」
「……へっ? あっ、その、お伝えすべきことはお伝えしたので――」
「いやおかしいでしょ。そっちから告白しておいて、返事も聞かずに普通に去って行こうとしないで?」
「……えっと、ですが返事なんてお聞きせずともお断りなさると分かっているので」
「いや決めつけないで? それは、あたしが決めることだから」
どうにか気持ちを伝えたことへの満足と共に去って行こうとした僕に、ふと引き留めのお声がかかる。驚きつつ振り返ると、そこにはありありと呆れた表情の更科さんが……まあ、よくよく考えればそれもそっか。聞くまでもなく分かってると言っても、返事を決めるのは彼女であって僕じゃないわけだし。
なので、再び彼女と向き合う僕。すると、おどおどする僕にニッコリと笑う更科さん。そして――
「ありがと、藤谷くん。それで、返事なんだけど――その前に、まずはセックスからね?」
「……………………はい?」




