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恋の始まりは身体から?  作者: 暦海


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18/34

視線

「……うん、これは何というか……うん、思った以上に苦手なんだね」

「……その、申し訳ありません」



 それから、ほどなくして。

 プールの縁の辺りにて、控え目な口調でそう口にする更科さん。……うん、本当に申し訳ない。


 さて、経緯を説明すると――水の中に胸の辺りまで沈めた辺りで、ジタバタともがきすぐさまプールの縁へと掴まる僕。その後も、手を離してはジタバタして縁へと掴まるという繰り返しの有り様でして……いや、溺れるような深さじゃ全然ないんだけどね。



「はい」

「……ん?」

「ほら、あたしが手取り足取り教えてあげるから。セックスみたいに」

「……あの、最後の一言は不要かと」


 すると、手を差し出し笑顔で告げる更科さん。……いや、最後の一言は不要かと。まあ、実際セックスも教えてもらってばかりだったけど。……うん、色々と申し訳ないです。だけど――



「……ありがとうございます。それでは、よろしくお願いします、更科さん」

「うん、任せて」


 そう伝え、そっと更科さんの手を取る。すると、嬉しそうに微笑み答える更科さん。色々と申し訳ないとは思うけれど、それなら尚のこと僕のすべきは彼女の優しさにお応えすることしかなくて。……うん、ありがとうございま――



「それじゃあ、まずはバタフライからね?」

「難易度高くないですか!?」






「うん、だいぶ上手くなってきたね、ようくん。教えた甲斐があったよ」

「……本当に、ありがとうございます。全て、更科さんのお陰です」

「……いや、それは流石に大袈裟だけど……まあ、遥くんらしいか」



 それから、二時間ほど経て。

 柔らかな微笑で褒めてくださる更科さんへ、心からの感謝を口にする僕。もちろん、まだまだ人並みにも到底達していないことは自分でも分かってるけど……それでも、更科さんのお陰で少しは泳げるようになったのは確かで。……本当に、ありがとうございます、更科さん。



「それじゃあ、そろそろ上がろっか。この後、甘い物でも食べながらのんびりしない? 琴乃音ことのねで」

「……その、更科さん。甘い物を食べに行く、ということ自体にはもちろん異論などないのですが……その、流石に琴乃音そちらはちょっと……」

「あははっ、冗談だよ。半分は」



 ニコッと微笑みご提案をなさる更科さんへ、何ともたどたどしく答える僕。もちろん、甘い物を食べに行くこと自体には異論などないのだけども……だけども、流石に琴乃音そちらはちょっと控えたいなあと。もちろん、愛してやまない大切な場所ではあるけれど……その、僕がお客さんとして来店するのは、流石にちょっと気まずいかなあと。……あと、半分ってことは残り半分は本気なのかな?


 ともあれ、お食事の話はいったん措きプールサイドへと上がる僕ら。そして、隣に並び出入り口へと歩いていき――



「…………遥くん?」


 ふと、小さく尋ねる更科さん。先ほどまでいた隣ではなく、すぐ後ろから。だけど、そんな彼女に答えることなく出入り口へと歩いていく。……うん、我ながら感じ悪いよね。でも、何と答えていいかも分からなかったのと……それに、なるべく早くこの場を後にしたかったから。だけど……自分のことなのに、その理由はどうしてかよく分からなくて。






 

「――ねえ、遥くん。正直に言ってほしいんだけど、ほんとは嫌じゃなかった?」

「…………へっ?」

「ほら、遥くん泳ぐのは苦手って言ってたし、今日ので改めて分かったから。それで、実際のところ遥くんはどうだったのかなって」

「あっ、いえ! 確かに泳ぐのは苦手ですし、みっともないところをお見せしてしまいましたが……ですが、とても楽しかったです。更科さんが、一緒にいてくださったお陰で」

「……そっか、それならよかった」



 それから、数時間ほど経過して。

 鮮やかな黄昏に染まる空の下、ほのぼのと会話を交わしつつ歩いていく。ちなみに、プールの後は琴乃音ではなく、プールからほど近くの和風喫茶でのんびりと過ごして。……ふぅ、よかった。お客さんとして来るとなると、一人でも相当に気まずいのに、更科さんと一緒となるとデ、デートみたいでいっそう気まずいわけで。



「……ところでさ、遥くん。ずっと聞きたかったんだけど……プールから上がった後、あたしを隠すように歩いてたよね? ……もしかして、そんなに他の人に見られたくなかったの? あたしのこと」

「…………それは」


 すると、ふと僕の顔を覗き込みそう問いかける更科さん。そして、そんな彼女に思わず言葉が詰まる僕。自分のことなのに、理由がよく分からない――なんて、あの時はそう言ったけど……でも、きっとほんとは分かってて。そして、それは今、更科さんの仰った通りで。……うん、本当に申し訳ない。いったい何をしていたのだろうと、我ながら自分が嫌に――



「……ふふっ」

「……更科さん?」

「……もう、独占的が強いなあ。全く、しょうがないなあ遥くんは……ふふっ、ふふふっ」


 自己嫌悪の最中、ふと隣から笑い声が。驚きつつ視線を向けると、そこには声音に違わぬ楽しそうな笑顔の更科さん。そんなに可笑しかったのか、この後の帰り道も笑い声が何度も届いて。……いや、そんなに面白いこともなかったと思うんだけど……でも、少なくとも不快に思われていないなら僕としては何よりで。




 

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