お祭りを終えて
「……ふぅ、びっくりしたあ。ごめんね、遥くん。急に引っ張っちゃって」
「いえ、お気になさらず。それより、お気付きでなかったらいいのですが……」
「うん、それは大丈夫だと思う。見えた瞬間、すぐに逃げてきたはずだから」
それから、少し経過して。
それぞれ息を整えた後、隣で安堵の様子を見せる更科さん。僕としては少し不安はあるものの、彼女のこの様子を見るに心配はないかな、と思う。
さて、何が起こったのかというと――先ほど、クラスメイトの女子生徒が数人いたとのこと。なので、彼女らにいち早く気が付いた更科さんが瞬時に僕の手を引いて駆け出したというわけで。まあ、駆け出したといってもこの人混みなので当然のこと思うようには動けなかったけれど……でも、この人混みだからこそ気付かれにくいとも言えそうで。
「それじゃあ、気を取り直して……次は、どこ行く?」
ややあって、さっと僕の手を取り尋ねる更科さん。そんな彼女の花のような笑顔に、思わず僕も微笑がこぼれる。そして――
「……そう、ですね。それでは、スキューバ――」
「どこに潜るんだよ」
「あ〜あ、もう終わりかあ。楽しい時間はあっという間だね」
「そうですね、更科さん。僕も、すごく楽しかったです」
それから、一時間ほど経過して。
混雑もほとんどなくなり、それでも温かな余韻の残る川沿いの道を歩きながら沁み沁みと話す更科さん。ほどなく、お祭りが閉幕を迎える時間で。そして、そんな彼女に僕も心からの同意を示す。……うん、本当にあっという間だった。もう随分と以前だけれど、お祭りに来たことは何度かある。だけど、これほどあっという間だったことは一度もなかった。そして、理由なんて考えるまでもなく――
「……ごめんね、遥くん。その、遥くんと見られること自体が嫌なわけじゃないんだけど……」
感慨の最中、ふとそう話す更科さん。どうやら、クラスメイトの女子生徒達に気付かれないよう逃げたことを仰っているようで。そして、そんな彼女に僕は――
「…………へっ?」
ややあって、驚きのお声が。突如、僕が更科さんの手を取ったからで。……まあ、そうなるよね。臆病者の僕の方から手を取るなんて、そんなこと初めてだし。だけど――
「……どうか、謝らないでください。そもそも、僕は誰に知ってほしいとも思ってないですし。こうして更科さんと一緒にいられるだけで、僕は本当に幸せなんですから」
「……遥くん」
そう、微笑み告げる。僕らの関係を、誰に知ってほしいとも思わない。それは、仮に……本当に仮に、更科さんとお付き合いできたとしても同じで。僕はただ、更科さんと一緒にいたいだけ。誰かに認めてもらいたいだなんて、全く以て思っていないから。
ややあって、僕の手をぎゅっと握り返してくれる更科さん。そして、柔らかに微笑み言葉を紡ぐ。
「……うん、ありがとう遥くん。あたしも、幸せだよ」




