射的
「それじゃあ、まずはどうする? 遥くん」
「……そう、ですね。やはり、まずはスカイダイビングから――」
「いや無いでしょ。どこにダイビングするつもり?」
その後も、和やかに会話を交わしつつ賑わう道を歩いていく僕ら。まあ、スカイダイビングは冗談として……さて、まずはどこから――
「……あっ、遥くん。あれなんてどう?」
「……射的、ですか。はい、いいですね更科さん。かつて、葎黎の狙撃手と称されていた僕の実力をご覧に入れて差し上げましょう」
「……いや、聞いたことないけど。そもそも、二つ名がつくほど有名じゃないでしょ、遥くん」
そんな他愛もない会話に花を咲かせつつ、射的のお店へと向かう僕ら。……うん、ご尤も。全く以て有名じゃない……どころか、クラスの中ですら、僕のことをご存じの方が果たして何人くらいいるのかというお話なわけでして。
「……わぁ、あれちょっとほしいかも。ほら、可愛くない? あれ」
「はい、確かに可愛いですね。とりわけ、あのトゲトゲのお耳が愛らし――」
「いやそっちじゃないよ。まあ、あれもあれで可愛いけどさ」
ともあれ、射的のお店へ到着。そして、控え目に景品の方を指差しつつ楽しそうに話す更科さん。そんな彼女が示しているのは、可愛らしい小さなウサギのぬいぐるみで。ちなみに、僕が勘違いしたのはその隣の小さな鬼のぬいぐるみで……あっ、あれ角だよね。お耳じゃなくて。
「ねえ、遥くん。せっかくだし、ここは一つ勝負といこうよ。それで、負けた方は勝った方に……あっ、さっきのフランクフルトを一本おごること。どう?」
「……勝負、ですか。はい、もちろんいいですよ。勝負とくれば、何が何でも負けるわけにはいきませんね」
「あれ、そんな好戦的だったっけ?」
すると、楽しそうにご提案をなさる更科さん。そんな彼女に、もちろん僕も笑顔で応じる。まあ、負けるわけにはいかない、っていうのは冗談だし、正直のところ負けても全然いいんだけど、ともあれお断りする理由もないわけでして。
そして、更科さんも勝つこと自体、フランクフルト自体が目的ではないのだろう。きっと、ここに来るまでに目にした食べ物系の屋台の中で一番安かったから選んだんだと思う。そして、一番安いだけあって、勝った方が気を遣うほどの金額でもない。つまりは、勝負にちょっとしたスパイスを入れようという更科さんの遊び心と考えて差し支えないと思う。
「――さあ、見ててよ遥くん。あたしが、景品という景品全部かっさらっちゃうから!」
ほどなく、僕の方へと銃を構えつつ笑顔で告げる可憐な少女。……いや、決して僕に向けるものではないけれども……でも、楽しそうで何よりです。




