夏祭り
「――うん、やっぱいいよね、こういうの。毎年来てるけど、全然飽きる気がしないし」
「そうですね、更科さん。僕はわりと久しぶりに来ましたが、やっぱり落ち着きますね。……あっ、でもやっぱり落ち着かないかも」
「ふふっ、どっちなの?」
二週間ほど経た、八月上旬の土曜日のこと。
一貫しない僕の言葉に、可笑しそうに微笑み尋ねる可憐な少女。今、僕らがいるのは、黄昏の光に照らされ輝く透き通った川の畔。そして、僕らの右側には鮮やかな朱色に光る数多の提灯――そして、提灯に照らされ輝く個性豊かなで魅力的な屋台がびっしりと並んでいて。
さて、本日は京都を代表する夏祭りの一つ、鴨川納涼の日。そして、そこになんと更科さんと二人で訪れていて。……うん、やっぱり落ち着かないかな? ドキドキしすぎて。
『――あっ、遥くん。ちょっと急だけど、次の土曜日って空いてる?』
数日前の夜のこと。
自室にて、夏休みの宿題が一段落した辺りでスマホを見ると、画面には一通の着信履歴。お相手は、なんとあの更科さんで。……いや、僕の場合、他に連絡をくれるようなお相手がほとんどいないので、更科さんでなければいっそうびっくりなんだけども。
ともあれ、未だドキドキしつつかけ直すと、さっそく上記のお言葉が耳に届いて。土曜日はバイトはあるけれど午後の二時までとお伝えすると、それじゃあお祭りに行こうと弾けるようなお声が耳に……うん、夢じゃないかな?
そういうわけで、未だ夢見心地のまま賑わう道を歩いているわけだけれど――
「……それにしても、ほんといいよね、こういうの。人の多いとことかあんまり好きじゃないけど……でも、こういうのは好きなんだ。こう、なんて言うのかな。上手く言えないけど……こう、みんなが幸せそうだから」
「……はい、僕も分かる気がします、更科さん」
隣から、沁み沁みとお話しなさる更科さん。そんな彼女の言葉に、僕も沁み沁みと共感を示す。……うん、分かる気がする。お店の人達も、お客さん達も、今ここにいる全ての人達が弾けるような笑顔を浮かべていて、みんながこの熱気に満ちた温かな時間を心から楽しんでいるのがひしひしと伝わってきて。
……もちろん、分かってる。悩みが全くない人も、辛いことが全くない人も、きっとこの世に一人としていない。それでも……せめて、今くらいはみんなにとって幸せな時間であってほしいと心から思う。……いや、もちろん今以外も幸せであってほしいけれども。
「――さて、あたし達も存分に楽しむよ、遥くん!」
刹那、パッと僕の手を取りそう口にする更科さん。そんな彼女の弾けるような笑顔に、今日もすっごく素敵な日になると改めて確信できて。




