帰り道
「……あの、更科さん。今更ではありますが、本当によかったのですか? 随分と長い時間を待つことになってしまったのでは……」
「うん、もちろん。居心地が良かったから、夏休みの宿題もすごく捗ったし」
「……それなら、良いのですが」
それから、数分経て。
鮮やかに染まる閑散とした住宅街を、和やかな雰囲気で話しながら歩いていく。いつもと違うアルバイトからの帰り道がなんだかとても新鮮で、そしてすごく心地が良くて。
【――仕事の後、一緒に帰ろ? 待ってるから】
数時間前のこと。
あの驚くべき一件の後、お客さまのご注文をお伺いすべく向かおうとした僕の背中に、ふと軽く叩く柔らかな手の感触が。振り返ると、上記の文を記したスマホの画面を見せる更科さんの姿があって。そしてそのお言葉の通り、本当に僕の仕事が終わるこの時間まで待っていてくださって。もちろん、それも感謝すべきことなのだけど――
「……その、更科さん。その、本当にありがとうございます。お陰さまで、本当に助かりました」
そう、申し訳なさと共に口にする。もちろん、今日のあの件――真姫さまとの件に関してで。更科さんが止めてくれなかったら、きっとあの後もずっと――
「……ううん、気にしないで。確かに、困ってた遥くんを助けるためではあったけど……でも、それ以上にあたしが嫌だったの。他の女性が遥くんにベタベタしてるのが、すっごく嫌だったの。まだ付き合ってるわけでもない……っていうか、遥くんの告白を保留してるような状態でこんなこと言う資格なんてないんだろうけど……それでも、思っちゃったの。あたしの遥くんに触るな、って」
「……更科さん」
すると、仄かに微笑みそう口にする更科さん。そんな彼女の言葉に、じわりと胸が熱くなるのを感じる。……そっか、そんなふうに思ってくださっ――
「……更科さん?」
ふと、感慨が止まる。というのも……今度は、打って変わって不服そうに僕をじっと見つめていたから。……あれ、急にどうなさっ――
「……いや、今日ので改めて分かったけど……やっぱりモテるんだね、遥くん」
「…………へっ?」
「……いや、おかしいでしょそのリアクション。流石に自覚なさすぎだよ。えっと……真姫さん、だっけ? ほんとにちょっとだけ、あの人のこと気の毒になってきたよ」
思いがけない更科さんのお言葉に、ただただ呆気に取られる僕。……えっと、僕がモテる? いやいや、そんなことは全く以てあり得な――
「……まあでも、デレデレしてなかったのはよかったけど。遥くんがあたしのことを好き、って思ってくれてるのはもちろん疑ってないけど……でも、偏見かもしれないけど、あんな綺麗な女の人にあんなふうにくっつかれたら、男の子だったらだいたい誰でもドキドキしちゃうんじゃないかなって。だから、ちょっとくらいデレデレしてても怒るつもりはなかったけど……でも、全然そうじゃなかったから……その、嬉しかった」
「……更科さん」
だけど、ややあってお言葉の通り嬉しそうにそう口になさる更科さん。そんな彼女の仰る通りデレデレしてなかったし、困っていたくらいなんだけど……そっか、そんなふうに思ってくださっ――
「……その、さっきのやっぱりなし!」
「……へっ?」
「……ちょっとくらいデレデレしてもいい、みたいなこと言ったけど、やっぱりなし! ……遥くんは、あたし以外にデレデレしちゃダメなんだから!」
「……あっ、はい、もちろんです」
再び感慨に浸っていると、強い口調でそう言い放つ更科さん。あっ、やっぱりダメなんだね。まあ、言われずとも更科さん以外にデレデレする気もないけども。……ところで、それはそれとして――
「……ふふっ」
「……なんで、笑うの?」
「……あっ、いえ……」
思わず声をこぼした僕を、不服そうに見つめ尋ねる更科さん。……いや、なんと言いますか……その、更科さんがあまりにも可愛くって、つい……まあ、流石に言えないけども。




