ドキドキのご接客?
「……あの、更科さん。どうして、こちらに?」
「いや〜、そりゃ来るでしょ。なにせ、遥くんが働いてるんだから。それに、遥くんも言ってたじゃん。すごく素敵なお店だから、是非とも来てほしいって」
「……まあ、それはそうなのですが」
困惑しつつ問いかける僕に、あっけらかんとお答えになる更科さん。……いや、もちろん来ちゃいけないわけじゃない。こんなにも素敵なこのお店の魅力を知っていただきたかったので、むしろ来てくださって嬉しいくらいで。ただ、ちょっと……いや、かなり驚いただけでして。
「――ほらほら、お客さまが来たんだからポカンとしてないでお席にご案内してよ、店員さん?」
「……あっ、はい! その……それでは、こちらへどうぞ、お客さま」
すると、ポツリとする僕へからかうように話す更科さん。……うん、そうだ。今、僕は琴乃音の店員さん――なので、ご来店くださったお客さまに心地の好い時間を過ごしていただけるようしっかり努めなければ。
「――それで、店員さんのオススメは?」
「あっ、えっと……そうですね、更科さんは抹茶はお好きでしょうか?」
「うん、大好き!」
「そうですか、良かったです。でしたら、こちらの抹茶のお団子などがオススメですね」
「そっか、それなら団子で。あとは、ブレンドコーヒーを一つお願いね、店員さん」
「はい、畏まりましたお客さま」
「ふふっ、なんか変な感じだね。こんなふうに呼び合うの」
それから、ほどなくして。
更科さんのご希望にてカウンターのお席にご案内をした後、ほのぼのとそんなやり取りを交わす。うん、更科さんが抹茶を好きで良かった。なにせ、琴乃音の看板メニューだからね。
「……うわぁ、美味しい」
「……そっか、良かった」
「おや? 店員さん。今、ひょっとしてタメ口だった? おやおや、お客さまに対してその態度はいただけないなあ」
「……へっ? あっ、申し訳ありませんお客さま!」
「ふふっ、冗談だよ。そもそも、あたしとしてはいつでもタメ口でいいんだし」
「……いえ、それは……その、やはり僕としては、敬語の方が自然ですので」
「ふふっ、そうみたいだね」
それから、10分ほど経て。
お団子を一つ口にした後、ほどなく頬を緩ませつつ呟く更科さん。……うん、良かった。このご様子だと、本当に気に入ってくださったようで。
その後も少し会話をした後、お仕事に戻るべくお席を離れることに。それから他のお客さまのご注文をお伺いした後、ほどなく柔らかな風鈴の音が響き扉の方へと向かっていく。そして、
「いらっしゃいませ、お客さ――」
「――あっ、遥く〜ん。今日も来ちゃったっ」
いつもの通りご挨拶をする僕に、挨拶に被さる形でお話しになる若い女性。琴乃音によくご来店くださる、いわゆる常連の大学生のお客さまで。
「……いつもありがとうございます、お客さま。どうぞこちらへ」
「もう、遥くんってば。いつも言ってるでしょ? お客さまじゃなくて、真姫って呼んでって」
「……はい、かしこまりました、真姫さま」
「ふふっ、真姫でいいのに。ほんと可愛いなあ、遥くんは」
ややあって、引き続き笑顔でご案内をする僕。……うまく、笑えてるかな? それならいいんだけど。……ただ、それはそれとして――
「……あの、真姫さま。恐れ入りますが……その、できれば離していただけますと……」
「え〜? そんなつれないこと言わないでよ。私と遥くんの仲じゃない」
おずおずとお願いするも、僕と腕を絡めたまま離してくださるご様子のない真姫さま。いや、それは非情に困るのだけれど……でも、迂闊に抵抗してお客さまのご機嫌を損ねるわけにはいかない。……うん、ここはどうにか耐え――
「――すみませんが、ちょっかいかけないでいただけませんか? あたしの彼氏に」
「「…………へっ?」」
ふと、後方から届く鋭い声。驚き見ると、そこには声音に違わぬ鋭い視線を真姫さまへと向ける可憐な少女の姿があって。




