最終章 第64話 帰還の時
帰還の時 音楽が——止んだ。
八大守護龍伎楽大隊の音楽が、静かに収まっていった。
各艦のコンサートマスターたちが、静かに頭を垂れた。
「師父よ、安らかに——」
フレイムが翼を折った。
精霊たちが、静かに散っていった。
ソニック・バスターが降りてきた。
ゆっくりと。
その体が——透けていた。
光だけになっていた。
宇宙の始まりの光が、全身から溢れていた。
「——師匠!」 ラベルが走った。
「来た、、、」ウィークは静かに言った。
「帰る時が」
「……うん」ラベルは言った。声が震えた。
「わかってた。わかってたけどっ、…」
「わかっていても——辛いのか」「辛い」ラベルは正直に言った。
「すごく辛い。でも——止めない。
師匠の使命が、別の宇宙を完成させることなら——止める資格がない」
ウィークは——全員を見た。
「ドノヴァン」ウィークは言った。
「なんだ」ドノヴァンは答えた。
その声が、珍しく——かすれていた。
「最初に召喚した時から、ずっと信頼してくれた。その信頼に——私は何度も救われた」
「……俺の方が、救われていた」ドノヴァンは言った。
「カイ」
「……なんだ」カイは静かに言った。
目から、一筋の涙が流れた。
「お前の剣は——水のように形を変えながら、決して本質を失わなかった。
それが、お前の強さだ。父親の誇りだ」
「師匠の言葉を——覚えておく」
「カルテット」
「はい」セシルが答えた。四人全員の目が、潤んでいた。
「お前たちの声は——この世界で最も美しいものの一つだ。歌い続けてくれ。その声で、精霊を呼び続けてくれ」
「続けます。誓います」
「ロロ」
「……なんだ」ロロは珍しく、静かな声で言った。
「凍光の門番として、この世界を守り続けてくれ。北の大気と共に、この土地を」
「任せろ」ロロは言った。しかしその目から——大粒の涙が、音を立てて落ちた。「任せ……ろ……!」
「テレーズ」
「なんだ」テレーズは言った。杯を持っていた手が、震えていた。
「ラベルを——引き続き怒鳴ってやってくれ。甘やかすと、下手になる」
「……当然だ。それが私の役割だ。あなたがいなくなっても——変わらない」
「ヴァッソ」
「……なんだ」ヴァッソは言った。
「六年間の沈黙を破って、今日全力で弾いてくれた。その音楽が——底から全員を支えた。ありがとう」
「……礼を言われるのは、初めてだ」ヴァッソは静かに言った。
「続ける。精霊と向き合い続ける。あなたが教えてくれたことを——次の世代に伝える」
「ルーナ」
「……はい」ルーナは言った。
「ラベルを産んでくれて——ありがとう。お前がいなければ、私はこの世界で最も大切なものに出会えなかった」
「私こそ」ルーナは言った。
「あなたがラベルを拾ってくれて——ありがとう。あなたがいなければ、私はラベルに再会できなかった」
「ヴォルガ」
ヴォルガが一歩、前に出た。
「……今夜だけ、同じ側に立った男に、何か言うことがあるか」
「今夜だけではなかった」ウィークは言った。
「お前が変わった理由は——音楽だ。これからも、その音楽を聴き続けてくれ。
そして——帝国を、内側から変えてくれ」
「……受けた」ヴォルガは深く頭を下げた。
そして——ウィークはラベルを見た。
最後に。
「ラベル」
「……うん」
「お前に一つだけ——頼んでいいか」
「なんでも」
「私が帰った後——タクトを持って、弾き続けてくれ、これがその証だ」ウィークは言った。
「タクトを通じて、私はいつでも聴ける。お前の音楽の続きを。別の次元から——聴ける」
「……聴いてくれるのか」
「聴いている。必ず」
「じゃあ——弾き続ける」ラベルは言った。
「師匠が聴いてくれるなら、止める理由がない」
「それが——お前への最後の言葉だ」
ウィークは——証としたオーラ・タクトを、ラベルの手に渡した。
―――――― 初代マエストロから、次代のマエストロへ。――――――
その瞬間——タクトが温かくなった。ウィークの鼓動が、タクトを通じて届くような感覚。
「音楽を——止めるな。」
「お前の音楽が続く限り、私はここにいる。」
「音楽は——消えない。」
ウィークの体が——完全に透けた。
光だけになった。それが——空に向かって、上昇し始めた。
精霊たちが、その光を見送るように集まった。
フレイムが、翼を広げて空に上がった。
八峰の守護龍たちが——各峰から、光を上げた。
レゾナントたちが——声で、別れを告げた。
セレスティアル・フィルの全ての楽器が——自発的に、旋律を奏で始めた。
それは——見送りの音楽だった。
セレスティアル・フィルが、自然に——初代マエストロへの送別曲を奏でた。
各艦のコンサートマスターたちが——もう一度、頭を垂れた。
この瞬間を、彼らは竜神核の深層記憶として、永遠に刻むだろう。
ラベルは——タクトを握ったまま、空を見上げた。
光が昇っていく。
(師匠が——帰る)
(別の宇宙へ。根源力が統合される場所へ)
(でも——タクトがある)
ラベルは、ノエルを構えた。
光が消える前に——最後の旋律を。
師匠に届ける、最後の音楽を。
弦を、鳴らした。
旋律が——空に上がった。
ウィークの光が——その旋律を受け取った。
光が、一瞬だけ——揺れた。
まるで、応えるように。
まるで——ありがとうと言うように。
光は——空の果てに消えた。
次元の境界を越えて。
別の宇宙へ。
根源力の魂が統合される場所へ。




