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最終章 第55話 ラベルとセレスティアル・フィル

ラベルとセレスティアル・フィル


 ラベルはアナンダ峰の頂上に立っていた。

 テレーズが隣にいた。ルーナが後ろにいた。タクトを握った。


「始める」ラベルはノエルを構えた。


「支えるよ」テレーズは緋炎のアルデを構えた。


「一緒に歌う」ルーナは言った。


(師匠に向けて弾く。ヴァッソさんが教えてくれた。一番届けたい相手に向けて弾く時、旋律は揺れなくなる)

(師匠——聴いてくれるか。今日の音楽を) ラベルが弦を鳴らした。


最初の音が——音界に入っていった。アルメアの古代竪琴が応えた。


カリンが百年間守ってきた旋律が、大地から立ち上がった。


レプラカンの管楽器が続いた。港の精霊を経由して、力強い風の音が届いた。


ミミールの打楽器が刻んだ。


霧精霊たちが旋律を大陸全体に運んだ。


ファフニールの弦楽器が轟いた。


ヴァルド王の玉座の前から、竜鉱石の音が響いた。


フレイムが——空から咆哮を加えた。


大陸が生まれた時の音と、似た響きで。ソラスの音叉が輝いた。


光精霊と影精霊が同時に媒体となり、虹色の音が広がった。


ラエールの楽器群が咲いた。


音精霊が踊り出した。そしてその中心で——ヴァッソが、六年ぶりに誰かのために全力で弾いた。


シルベルトの民族楽器が吹いた。


ゼインが見届けると言った、北の国からの旋律が、嵐のように来た。


レゾナントたちが——声で応えた。言語を持たない存在が、音楽で世界に語りかけた。


 カルテットの四声が重なった。テレーズの緋炎のアルデが——ノエルと螺旋を描いた。


  ーーーーー深緑と緋炎が、空中で交差した。ーーーーー


ルーナの声が——百年間守り続けてきた旋律を歌った。


創音の始まりの音が、この場に戻ってきた。


ウィークのナノ・ワールドが——大陸全体の空間を整え、音楽が通る道を確保した。


そして——ラベルが歌った。 


楽器と声が、同時に。廃村から始まった道。

師匠に出会った朝。

ノエルが目覚めた時。

カイと並んで歩いた日。

母の声と重なった瞬間。

フレイムが空に飛んだ夜。

老人が「シンフォニックキング」と呼んだ朝。

八峰の守護龍が「共に在ることを選んだ」と言った夜。

ヴァッソが六年ぶりに精霊と向き合った瞬間。

テレーズが二日間怒鳴り続けてくれた夜。

カイが父の型を受け取った日——全部が、今この旋律の中にあった。


             音界に——柱が立った。


 一本。二本。三本—— 七カ国の伝承楽器が、それぞれ音界を支える柱となった。


 音界破断機の干渉波が——柱にぶつかった。通らなかった。


「……何が起きている」帝国の音楽魔術師が叫んだ。


「音界が——内側から支えられている!破断できない!」


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