第43話 最初のリハーサル
最初のリハーサル
翌日から——リハーサルが始まった。
各国の楽器は、精霊の接続を通じて、その国の場所にいながら演奏する。その音楽がアナンダ峰の空間に届く。そしてラベルの指揮に従って、全員が同じ目的に向かって奏でる。
しかし——最初のリハーサルは、混乱だった。
バラバラだった。
各国の音楽の様式が違いすぎた。
アルメアの竪琴は旋律重視。
レプラカンの管楽器はリズム重視。
ミミールの打楽器は間の取り方が独特。
ファフニールの弦楽器は竜の影響で音が荒い。
ソラスの音叉は純音すぎて他と合いにくい。
ラエールの楽器群は豊かすぎて他を圧倒する。
シルベルトの民族楽器は独自の音階を使っている。
「……難しいな」ラベルは頭を掻いた。
「当然だ」ウィークは静かに言った。
「百年以上、別々に発展してきた音楽が、一度に合わさるのだから」
「どうすれば合わせられる?」
「一つの旋律に合わせようとするのが間違いだ」ウィークは言った。
「それぞれが——自分の音楽を保ちながら、同じ目的に向かう。その共通の目的が、全体を一つにする」
「目的——建国宣言の言葉だな」ラベルは言った。
「音楽は人と人を、人と精霊を、世界と世界を結ぶ——それがセレスティアル・フィルの目的だ」
「そうだ」ウィークは続けた。
「技術的に合わせるのではなく、その目的に向かって、それぞれが全力で弾く。全力で弾けば——精霊が繋ぐ。それがセレスティアル・フィルの仕組みだ」
「精霊が統合する——演奏者が合わせるのではなく」セシルが理解した。
「だからこそ、言語も文化も音楽様式も違う者たちが、同じ楽団として機能できる」
「正確だ」ウィークは頷いた。
「やってみる」ラベルはノエルを構えた。
二日目のリハーサルで——一瞬だけ、合った。
ほんの一瞬。
しかしその一瞬に——アナンダ峰の周囲の精霊が、全員一斉に応えた。
「……今の!」ラベルが叫んだ。
「感じた」カイが静かに言った。
「精霊の声が——全方向から来た」
「音界の内側に——支柱が一本、立った」ウィークは書物を確認した。
「一瞬だったが、確かに。音界を支える柱が、一本だけ立った」
「一本だけ?」
「本番では——全ての演奏が最大に達した時、複数の柱が立つ。それが音界破断機に対抗する。今日の一瞬は——その予告だ」
「できる——ということだな」ドノヴァンが言った。
「できる」ウィークは言った。
「本番でなければできない部分も、まだある。しかし——できる」




