第38話 セレスティアル・フィル
楽器が鳴り始めた
その日の夕方。
アルダからの緊急書簡が届いた。
ウィークが封を開いた。全員に向けて読み始めた。
「帝国の音界破断機——試験起動が確認された。場所は帝国首都ヨグ・ソートスの地下施設だ。精霊石から抽出した魔力を使い、音界の層に直接干渉する装置が完成した、とアルダは書いている」
「音界の層に直接——」ラベルは言った。
「それって、どういう意味がある?」
「音界が破断されれば——精霊との接続が断たれる」ウィークは静かに言った。
「ラベルの音系創造魔法も、カルテットのボイスプレイも、ドノヴァンのスペリングネイルも——全ての音楽系スキルが機能しなくなる」
「俺の音楽が——使えなくなる?」
「最終的にはそうなる。しかしまだ試験段階だ。本格起動まで——時間がある」
「どのくらい?」
「アルダの情報では——二週間から三週間だ。帝国が全面侵攻を決断した時が、本格起動のタイミングだ」
静寂が落ちた。
「それから——」ウィークは続けた。
「書簡にもう一つの情報がある。大陸各地で——楽器が、勝手に鳴り始めているという報告が複数来ている」
「勝手に鳴っている?」ラベルが聞く。
「弾いていないのに。触れていないのに——各国の楽器が、断続的に音を出し始めている。アルメアの竪琴が。レプラカンの管楽器が。ミミールの打楽器が。ファフニールでは——フレイムが、空から突然咆哮を上げたという報告もある」
「精霊が——反応している?」セシルが言った。
「おそらく」ウィークは頷いた。
「音界が揺らぎ始めたことを、精霊が感じ取っている。そして——各国の伝承楽器が、それに応えている」
「どういう意味?」ラベルは前に乗り出した。
「伝承楽器には、精霊との深い縁がある。精霊が不安定になれば、楽器が反応する」ウィークは言った。
「そして——これが重要だ。書が示している」
ウィークは書物のページを全員に向けた。
各国の伝承楽器——覚醒の兆候を示している。
条件が揃えば、セレスティアル・フィルの結成が可能となる。
音界破断機の完全起動前に、世界楽団を結成せよ。
「セレスティアル・フィル——世界楽団」ラベルは読んだ。
「書が、結成を示している」
「そうだ」ウィークは書物を閉じた。
「今から動く。二週間で——世界楽団を作る」




