第33話 シンフォニックキングの誕生
老人との出会い
翌朝。
ラベルが一人で歩いていた時——老人に声をかけられた。
小柄で、白髪で、穏やかな目をした老人だった。
「あなたが——創音王のラベル様ですか」
「そうです」
「少し——話せますか」
二人は岩に腰かけた。
「私は——帝国の精霊石採掘場で長年働いていました」老人は言った。
「四十年近く」
「四十年……」
「最初は仕事だと思っていた。しかし——年を取るにつれて、わかってきた。精霊たちが苦しんでいることが」老人は続けた。
「毎日毎日、精霊石を削り取られる精霊たちの声が——聞こえるようになってきた」
「聞こえるようになった?」
「最初は気のせいだと思った。しかし——ここに来て、あなたの音楽を聴いた時」老人は言った。
「確信した。私は四十年間、精霊の苦しみを聞き続けていた。そして何もできなかった」
「老人は——苦しんでいたんですね」ラベルは静かに言った。
「その苦しみを——あなたの音楽が、初めて言葉にしてくれた気がした」老人は続けた。
「あなたの音楽は——精霊の声を、人間に届けてくれる」
「……ありがとうございます」
「いや」老人は首を振った。「礼を言いたいのは私の方です」老人はラベルをまっすぐに見た。
「一つ——お願いがあります」
「なんでしょう」
「あなたのことを——シンフォニックキングと呼ばせてほしい。音楽王と」
ラベルは少し驚いた。
「創音王という言葉は——高貴すぎて、私には近く感じられない」老人は言った。
「しかしシンフォニックキングという言葉なら——音楽が好きな誰もが、その意味を感じられる。
あなたは音楽で王になった人だから」
「俺が——音楽で王になった、か」
「あなたは国の王である前に——音楽の人だ」老人は穏やかに言った。
「私には、そう見える」
ラベルはノエルを見た。
「……好きに呼んでくれて構いません」ラベルは言った。
「ただ——シンフォニックキングと呼ばれるからには、もっとうまく弾けるようにならないといけないな」
「今でも十分です」老人は言った。「うまい音楽より——誠実な音楽の方が、心に届く。テレーズという音楽師が言ったことだと、どこかで聞きました」
「テレーズさんを——知ってるんですか?」ラベルが驚いた。
「噂で。帝国の宮廷を飛び出した音楽師の話は、各地に広まっていますよ」
「テレーズさんが聞いたら、鼻で笑いそうだ」ラベルは言った。
「でも——その人が育てた弟子が、シンフォニックキングになった。それはきっと、誇らしいはずです」




