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第1話 熱帯のダンジョン「ブランガ」——師匠と弟子の始まり

幕間 三ヶ月前のこと

 廃村に、少年が一人でいた。

 どのくらいそこにいたのか、覚えていない。

 記憶が、ある時点から——ぷつりと、切れている。

 気づいた時には、廃屋の隅に座っていた。膝を抱えて、ただそこにいた。腹が減っていた。喉が渇いていた。しかしそれ以上に——何も感じなかった。

 空が、灰色だった。

 少年の名前は、ラベルといった。

 それだけがあった。名前だけが。

 他には——何もなかった。

 そこへ、白い外套の人物が来た。

 馬車から降りて、廃村を歩いて、まっすぐラベルの方へ来た。迷いのない足取りで。まるで、ここにいることを最初から知っていたように。


「お前は——ラベル、というのか」

 低い、静かな声だった。


「……うん」


「ついてくるか。旅の途中だが」


「どこへ」


「南から北へ。いくつかのダンジョンを攻略しながら」

 理由を聞かなかった。

 断る理由も、なかった。

 ラベルは立ち上がって、その人物の後をついて歩いた。

 その人物の名前が、ウィークだと知ったのは、馬車に乗ってからだった。

一 熱帯の空の下

 それから三ヶ月。


「……あれが、ブランガか」


 ラベルは幌馬車の荷台から身を乗り出し、前方を見た。

 地平線の果てまで続く赤土の道。その先に、濃密な緑が壁のように聳えている。空が高く、太陽が近く、地面から蒸気が立ち上るような熱気だった。

 額の汗を手の甲で拭う。南の国は暑い。生まれてこの方、こんなに暑い場所に来たことがなかった——もっとも、生まれてこの方の記憶が、ラベルにはほとんどないのだが。


「正確には、ブランガに続く精霊林だね」

 御者台から涼しげな声が降ってきた。


 ウィークだ。


 白い外套に身を包んだその人物は、炎天下だというのに汗ひとつかいていない。当然だ——彼の肉体は、もはや人間のそれではないのだから。

 アーティファクトボディ:ルー・クシャスラ。

 機工士——魔術と機械を融合させる職人——の最高傑作と呼ばれる、人工の身体だ。ウィークの本来の肉体はその内側で眠っており、外側の精巧な機械仕掛けが彼の意思に従って動いている。

 

ラベルがこの旅でウィークについて知ったことは、多くない。

 聖者であること。レベル五十から九十九まで維持可能なアーティファクトボディを纏っていること。書物を持ち歩いていること。そして——何かを目的として、旅をしていること。

 その目的が何かを、ウィークはまだ教えてくれていない。


「師匠って、暑くないの?」


「感じないね。体温センサーが四十二度を記録しているが、不快感という概念が今の私にはない」


「……それ、羨ましいんだか怖いんだかわからない」

 ウィークは振り返り、薄く微笑んだ。白い面の下、義眼のような青い瞳が穏やかに光っている。

(この人は笑うのか、と初めて見た時は驚いた)

(機械なのか人間なのか、今でもよくわからない)


「ラベル、地図を」


「はい」

 ラベルは革鞄から羊皮紙を取り出した。墨で描かれた粗い地図の中央に、緑に塗られた楕円形。その傍らに、古い文字で記されている。


——熱帯精霊ダンジョン、ブランガ。推奨ランク:B級以上。

「B級……」ラベルは地図を見ながら呟いた。「俺、戦えるのかな」


「戦わなくていい場面は、戦わない」ウィークは答えた。

「それがまず覚えることだ」


「戦っていい場面は?」


「その時に言う」

 ラベルは地図を畳んだ。

(相変わらず、最低限のことしか言わない師匠だ)

(でも不思議と——信頼できる)



二 召喚の儀

 精霊林の入口に馬車を停めたのは、日が中天を過ぎた頃だった。

 キャラバンの護衛たちが馬の世話をする傍ら、ウィークはダンジョン前の開けた場所に立ち、静かに目を閉じた。


「ラベル、少し下がっていて」


「——また召喚するの?」


「英雄を呼ぶ。今回の攻略には、彼が必要だ」


 ラベルは素直に五歩退いた。

 ギフト召喚——ウィークが持つ特殊な能力の一つだ。

「縁のある魂を、必要な時に引き寄せる術だ」と説明してくれたが、それ以上は教えてもらっていない。どういう仕組みなのか、ラベルにはまだ理解できていない。

 ウィークの手のひらが空中に向けられる。機械の指先に、淡い光が灯る。

 光が、弾けた。

 そこに、男が立っていた。

 長身で、日に焼けた腕。年は三十前後だろうか。無精髭の顔に、困惑の色が滲んでいた。

 そしてその指先——よく見ると、爪の一本一本が微かに光を帯びていた。まるで墨を吸い込んだ筆のように、魔力が淡く滲んでいた。


「——また来ちまったか」


 男は頭を掻いて、ウィークを見た。


「よう、師匠。今度は何をやらかす気だ」


「ドノヴァン。久しぶりだね」


「俺にとっちゃ一瞬だけどな。召喚される度に言ってるが、せめて飯食ってる最中は勘弁してくれ」

 男——ドノヴァンはそう言いながら、視線をラベルに向けた。


「……こっちの小僧は?」


「弟子だ。ラベルという」


「ラベル」ドノヴァンはしゃがみ込んで、ラベルと目線を合わせた。「いくつだ?」


「十四」


「ふうん」値踏みするような目。

「まだ覚醒してないな。それで師匠のキャラバンに乗ってるのか。変わった師弟関係だ」


「うるさいな」ラベルはむっとした。「覚醒のタイミングは人それぞれだろ」


「そりゃそうだ」ドノヴァンはあっさり頷いた。

「俺だって遅かった口だ。気にすんな」

 立ち上がったドノヴァンが、何気なく右手の指を広げてみせた。五本の指。その爪の一本一本が、まるで生きているように微かに脈打っている。


「……その爪、なに?」ラベルは思わず聞いた。


「固有スキルだ。スペリングネイル」

 ドノヴァンは親指の爪を、人差し指の腹でさっと撫でた。その軌跡に、金色の光の線が一瞬浮かんで消えた。


「爪に魔力を込めると、筆みたいに魔法の紋様を描ける。召喚から攻撃から結界まで——何でも来い」


「筆って……紙に描くの?」


「空中に描く。あるいは直接対象に」ドノヴァンは五本の指をゆっくり曲げ、また開いた。

「最大の売りは——片手で、五本同時に別々の魔法を走らせられることだ。しかも重ねれば重ねるほど威力が倍になる」


 ラベルは目を丸くした。


「……五種類同時に?」


「あくまで最大だけどな。三種類でも結構ヘビーだ」ドノヴァンは肩を竦めた。

「まぁ、見てりゃわかる」


「師匠の知り合いなの?」


「昔からの縁だ」ドノヴァンはウィークを見た。

「で、今日はどんなダンジョンだ」


「B級。熱帯精霊ダンジョン、ブランガ」


「精霊石と素材系か。美味い飯の素材も出るって聞いたことがあるな」ドノヴァンは口端を持ち上げた。

「悪くない」



三 ブランガの胎内へ

 ダンジョンの入口は、巨大な樹の根と根の間に口を開けていた。

 中に踏み込んだ瞬間、空気が変わる。外の熱気とは質の違う、湿った蒸し暑さ。密林の呼吸のような、深い緑の匂い。天井は遥か高く、発光する苔が壁を淡く照らしている。


「——綺麗だ」


 思わずラベルが呟いた。


「この階層は比較的安全だ」ウィークが前を歩きながら言う。

「問題は第三層から」


「何が出る?」ドノヴァンが問う。


「精霊蜥蜴の群れと、上位水精霊。そして——」ウィークは一瞬足を止めた。

「おそらく、今回は予定外の客も来る」

 ラベルはその言葉の意味を問い返そうとした。


 だが、その前に——

 ドノヴァンの五指が、静かに開かれた。


「師匠」


「わかってる」

 ウィークの外套の内側で、何かが低く唸る音がした。精巧な機械仕掛けの中で、何かが起動している。

 暗がりの奥から、足音が近づいてくる。

 人間の足音だ。しかし——その動き方が、おかしい。獣のような低い姿勢。整然とした間隔。訓練された、精鋭の動き。


「〈ダンジョン内偵察〉か」ドノヴァンは低く言った。

「帝国の犬どもだ」


 ラベルの背筋が冷えた。


 アビス帝国。


 その名前は、キャラバンの道中で何度か耳にしていた。大陸東部を掌握する巨大国家。優秀な冒険者を国家の兵器として組み込み、有用なダンジョンを支配下に置いていく——そういう帝国だ、とウィークは教えてくれた。


「偵察部隊だね」ウィークは静かに言った。

「七人。全員レベル四十台。……やや厄介な構成だ」


「見えてんの?」ラベルが小声で聞く。


「センサーに引っかかってる」


 ウィークの青い義眼が、暗闇を見据えていた。暗視、熱源探知、魔力感知——アーティファクトボディには、生身の人間には持ち得ない知覚が備わっている。


「ラベル」


「……なに」


「下がって。柱の影に」


「でも——」


「いいから」

 ウィークの声音は穏やかなままだった。しかしその穏やかさの奥に、有無を言わさぬ何かがある。ラベルは黙って、太い石柱の陰に身を滑り込ませた。



四 五指の嵐

 アビス帝国の偵察部隊が姿を現したのは、それから数秒後のことだった。

 漆黒の軽鎧に身を包んだ七人の男女。全員が帝国式の短剣と魔術式銃を携えている。先頭の男が——隊長格だろう、胸に金の徽章を付けた大柄な男が——ウィークを見て目を細めた。


「白外套の機工士……ルー・クシャスラか」


「知ってるじゃないか」ウィークは外套の前を払った。

「名指しで来るとは光栄だね」


「帝国はこのダンジョンに目をつけている。今すぐ立ち去れば、見逃してやる」


「断る」

 ウィークはあっさり言った。


 隊長の顎が動いた。無言の合図。七人が左右に散開し、包囲を形成しようとする——

 その瞬間、ドノヴァンが右手を持ち上げた。

 五本の指が、空中に向かって滑らかに動く。まるで見えない紙の上に絵を描くように——

 親指が弧を引く——炎召喚の紋様。

 人差し指が直線を走る——雷落としの紋様。

 中指が渦を巻く——風の檻の紋様。

 薬指が格子を刻む——重力縛りの紋様。

 小指が、点を打つ——土精霊召喚の紋様。

 五つが同時に、空中に金色の光の軌跡として浮かび上がった。


「スペリングネイル——五指同時展開」

 世界が、書き換わった。

 帝国兵の右翼に炎の壁が立ち上がり退路を断つ。左翼に雷柱が落ち、二人が吹き飛ぶ。中央の四人が風の檻に縫い止められ、動けなくなる。足元に重力の格子が展開し、踏み込もうとした兵士が膝をつく——

 そして天井から、拳大の岩塊が無数に降ってきた。土精霊が召喚され、砲弾と化したのだ。


「ぐッ——!」「なんだこれは——!」「魔法の同時展開が——!」

 悲鳴と怒号が入り混じる。


 しかしドノヴァンは止まらなかった。

 右手の指を重ねる。炎の紋様の上に——雷の紋様を重ねた。


 ゴォォォン——!!


 炎が雷を飲み込んだ瞬間、熱量が倍加した。壁だったものが、爆発的な閃光の柱へと変貌する。石壁にひびが走り、粉塵が舞い上がる。


「二重重ね……!」帝国兵の一人が叫んだ。


「今のは二重だ」ドノヴァンは肩を竦めた。

「三重になったら、さすがにダンジョンごと吹き飛ぶから自重してる」

 乱戦の中、ウィークは正面から突進してきた帝国兵士の剣を、素手で受け止めた。


刃がアーティファクトの外装に触れ——そのまま弾き返される。


 物理攻撃無効化。


 刃は通らない。どんな剣でも、どんな拳でも。そして外套の内側から、細長い銃身が二本、滑り出した。精巧な機械仕掛けの腕の先に据えられたそれが、迷いなく二点を同時に狙う。


                 ズドォン——!

 

光の筋が走り、残る兵士二人が吹き飛ばされた。


「レールガン……!」誰かが叫んだ。


「魔術式じゃない——純粋な電磁加速だ——!」

(……すごい)


 石柱の影でラベルは息を殺して見つめていた。

 ドノヴァンの五本の指が、まるで踊るように動くたびに、世界の法則が塗り替えられていく。炎、雷、風、重力、召喚——それらが同時に、しかも互いを打ち消すことなく戦場を制圧していく。


 そしてウィークは、剣も魔法も寄せ付けずに立っている。

(俺には、何もできない)

 覚醒していない。スキルもない。武器もろくに扱えない。ただ隠れているだけ。それが今のラベルにできる全てだった。


 歯を食いしばる。


 その時。


 ふと——背後に気配を感じた。


五 迂回した一人

 振り返ると、暗がりから一人の兵士が這い出してくるところだった。

 部隊から離れ、迂回して背後を取ろうとしていたのだ。

 男の目がラベルを捉えた。

——ガキが一人。

 その瞳に浮かぶ色を、ラベルは読んだ。

 人質にしようとしている。


「ッ——」


 ラベルは飛び退いた。背後の壁に背中をぶつける。男が一歩、また一歩と近づいてくる。

 叫べばいい。助けを呼べばいい。

 でも——なぜか、声が出なかった。

(怖い、という感情より先に、もっと別の何かが胸の中で燃えていた)

 ラベルは腰の短刀に手をかけた。ウィークに持たされた、護身用の一本。


「いい度胸だ、小僧」男が口端を歪めた。

「でもそいつを抜く前に——」

 ふわり、と。

 男の眼前に、金色の光の紋様が浮かんだ。ほんの小さな、親指の爪先で空中に描いたような——点ひとつ。

 

 パァンッ。


 爆発というより、はじける音だった。男は短く叫んで後方に吹き飛び、壁に激突してずるずると崩れ落ちた。


「危なかったな」


 ドノヴァンがぶらりと歩み寄ってくる。右手の小指だけを軽く振って、紋様の残滓を払った。


「な、なんで——向こうで戦ってたんじゃ」


「爪で描くのに、場所は関係ない。視界に入ってれば空中のどこにでも描ける」

ドノヴァンは右手の指を、ラベルの前でひらひらと動かしてみせた。

「目の前でも、背後の壁際でも、天井でも。描ける場所が戦場だ」


 彼はラベルの頭をぐりぐりと撫でた。荒っぽい、しかし不思議と腹の立たない撫で方だった。


「震えてるか?」


「……震えてない」


「そうか」ドノヴァンは薄く笑った。「ならいい」




六 宴の後

 戦いは十分と経たず終わった。

 七人の帝国兵は全員、戦闘不能か逃走。ウィークはその一人を捕縛し、簡単な尋問を行った後、解放した。

「情報収集が目的なら、殺す必要はない」と彼は言った。

「逃げ帰ることで、彼らは帝国に報告する。今回ここにいたのが誰かを」


「それでいいの?」ラベルは問う。


「抑止力になる。下手に動けば手痛い反撃を受けると学習させることが、時に最良の平和だ」


 ドノヴァンは「相変わらず師匠は回りくどい」と言い、周囲を歩きながら右手を何気なく動かしていた。戦闘が終わっても、その爪は微かに光を帯びたままだ——まるで、筆を持つ手が次の一筆を待ち侘びているように。


「なあ、ドノヴァンさん」

 片付けをしながら、ラベルは問いかけた。


「さっきの五種類同時って……あれを覚えるのにどのくらいかかったの」


「十七年」

 あっさりと返ってきた答えに、ラベルは目を丸くした。


「じゅ、十七年……?」


「最初の一本を自在に動かせるようになるまで三年。二本同時が使えるまでさらに五年。三本で九年。四本で十五年」ドノヴァンは右手を広げ、五本の指を順番に眺めた。


「五本同時はつい二年前だ。しかも今でも失敗することがある」


「……それって、才能じゃなくて練習なの?」


「才能は入口だ。スペリングネイルが使えるのは俺だけだが——五本同時は、誰がやっても時間がかかる。そういうもんだ」ドノヴァンはラベルを横目で見た。


「覚醒してからが本番だぞ、小僧。焦るな」


「ラベルです」


「知ってる」



七 ブランガの記録

 その後、三人はブランガの攻略を再開した。

 精霊石の採取、素材の確保、そして第三層での上位水精霊との戦闘——

 それは別の話だが、簡単に記しておく。


 第一層では、風精霊と土精霊を発見した。ウィークが書物を取り出すと、精霊たちは抵抗することなく書物の中に吸い込まれていった。

カタログ化完了——風精霊・初級。

カタログ化完了——土精霊・初級。

 第二層では、上位の火精霊と出会った。ウィークが静かにその前に立ち、数秒動かずにいると——火精霊もまた、書物に吸い込まれた。


「相変わらず、動物の慣らし方が上手いな、師匠は」ドノヴァンが言った。


「精霊は動物じゃない」ウィークが返した。


「どっちでもいいけど」

 第三層では、精霊蜥蜴の群れと激突した。ドノヴァンの五指が踊り、ウィークのレールガンが火を噴き——三十分後、第三層は静まり返っていた。

 そして上位水精霊のカタログ化を行い——

カタログ化完了——水精霊・上位。

聖ラジエルの書初級——達成度、三十五パーセント。


「三十五パーセント」ウィークは書物を確認しながら言った。

「B級ダンジョン一つで、これだけ埋まった。まずまずだ」


「聖ラジエルの書って——なんの本なの?」ラベルが問う。


「後で話す」ウィークは書物を閉じた。

「今日は疲れただろう。戻ろう」

(また後で、か)

(師匠はいつも、肝心なことを後回しにする)

 ラベルは溜め息をつきながら、ダンジョンの出口へ向かった。


八 焚き火の夜

 夜、ダンジョンを出た後、ウィークは焚き火の傍らで薄い書物を開いた。

 表紙に刻まれた文字——聖ラジエルの書・初級。

 彼は静かにページを繰り、何かを書き記した。


「……三十五パーセント」

 呟きはラベルには届かなかった。少年は焚き火を前に、膝を抱えて眠り込んでいた。今日、何かを乗り越えたような、穏やかな顔で。

 ウィークは書物を閉じ、その寝顔を眺めた。

(まだ芽は出ていない。でも——根は、確かに育っている)

 ドノヴァンは少し離れた場所で、暗闇に向かって静かに右手を動かしていた。空中に金色の光の紋様がいくつも浮かんでは消える。五本の指が、それぞれ別の軌跡を描いている。

 練習だ——とウィークは思った。

 十七年かけて、まだ続けている。

 風が吹いた。精霊林の葉が揺れた。

 ドノヴァンの指先に描かれた五つの紋様が、風に揺れる葉のように、それぞれに光って消えた。


エピローグ・第一話

 次の町まで、あと二日の旅程だった。

 ラベルは眠りながら、夢を見た。

 何の夢かは、覚えていない。

 でも目覚めた時——胸の中に、何か温かいものが残っていた。

(師匠と、ドノヴァンさんがいる)

(まだ何もできないけど——俺は、この旅の中にいる)

 それだけで、今は——十分だった。


第1話 了

次話予告

 第2話「聖者の代償と、南の依頼人——コメット辺境伯との契約」

 ウィークが、なぜアーティファクトボディを纏わなければならなかったのか。

 その理由が、ラベルに語られる夜。

 そしてキャラバンが辿り着いた防衛都市パレスノアで——

 一人の辺境伯が、一行を待ち受けていた。

 彼はウィークに言う。「あなた方のような人間が動いてくれていることを、心強く思っている」と。

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