第九十五話 どきっ☆男だらけの脱獄計画。
「サヤは……あの子は行方不明なんだ。火の領域に来る時に大きな事故に巻き込まれてはぐれちまったんだよ」
俺の心に焦燥感が湧きあがってきていた。そうだ。俺はこんなところに捕まってる場合じゃない。
「そうっすかぁ……。それは心配っすね……」
俺の空気を察して、四人組は鎮痛な面持ちで黙り込んだ。
……脱獄。
突然、俺の頭にその二文字が浮かんだ。それは俺の、当然の権利だと思えた。そりゃそうだ。こんな理不尽な投獄なんぞ認められるか。
脱獄自体はそれ程難しいとは思えなかった。スマホはないけど、俺の能力は健在だ。そう。【鍵】の力である。
だが、この建物の地図は欲しいところだった。それから脱獄した後の事も考えると、やっぱりもっと情報が欲しい。
「なぁ、お前達、俺に協力してくれないか?」
俺は檻の中の四人に言った。そうだ。こいつらなら少なくとも俺よりはこの国の事を知ってるし、裏社会の情報にも通じているかも知れない。
「ええ、そりゃあアニキのためなら何でもしますぜ。檻ん中じゃあたいした事はできませんけど」
リーダー格がそう言うと、残りの三人もうんうんとうなずいた。
「あれ? そういやアニキ、どうやって檻出て来たんすか?」
いや、気がつくの遅すぎるだろ。
「誰にも、俺を閉じ込めておくなんて出来ないんだよ」
俺は少しかっこつけてそう言った。四人は感心したように俺を見つめている。
「お前達も、俺に協力してくれるんなら出してやる。ってゆうか、一緒に脱獄して、俺を手伝ってくれないか?」
俺は真剣にそう言った。こいつらはもうクズなんかじゃない。俺は既にそう思い始めていたのだ。もちろんこいつらが前にサヤにした事は許せない。だけど、それはこいつらだけのせいとは言えないだろう。そう。この国そのものがおかしいんだ。
「でもアニキ、脱獄ってのは重罪ですぜ?」
リーダー格が言った。にやりと笑っていた。この言葉の意味は「おもしれえ、やりましょう」だ。他の三人も同じく笑っている。
「まぁ今まで俺達がやってきた罪に比べりゃあ、屁みたいなもんだがな」
「どっちにしろ死ぬまでここに入れられてるんなら、罪重ねたって別に変わりゃしねえしな」
男達はうきうきした様子で笑いあっていた。なんか頼もしいぞ、こいつら。
と、その時、突然恐ろしい危機が到来した。
「あ、アニキ……すまねえ……」
急に真っ青な顔になって、片目が言った。なんだなんだ。一体どうしたんだ。
「うぉ、マジか。もう少し我慢できねえか?」
三白眼が片目の顔を覗き込む。
「だめだ……もれそうだ……」
片目が腹に手を当ててうめいた。
マジか。そうか。トイレか。
前回書いたように、この牢は人権的配慮が一切なされていない。トイレはないのだ。
つまり、部屋の片隅にやっちゃって、それを定期的に洗い流すというシステムなんだろう。それまではみんなで香りを堪能しなければならないのだ。
「だから、さっきの床洗浄前にしとけって言ったろうが……!」
リーダー格が片目の頭を小突いた。
いや、それはもう大変なピンチですよ。このままではこの牢獄は地獄絵図と化してしまう。
俺はこの牢獄を見回した。
いろんな広さの檻が四つ並んでいた。二つは空室だ。つまり投獄されているのは俺たちだけだ。
そして、ガラス窓で仕切られた、見張り役のための小部屋があった。ここで罪人を見張るんだろう。ここから罪人への食事を運んだり、床洗浄をさせたりという仕事をするようだ。牢獄の臭いは小部屋まで届かないように配慮されているんだろうな。今は誰もいない。
「よし、もう少し待てるな? 俺がなんとかする」
俺は片目に言うと、見張り役の小部屋に入った。
あったあった。見張り役用のトイレ。
俺は慌てて四人組の所へ戻ると、檻を開けてやった。
「ほら、あの部屋の奥にトイレがある。行って来い!」
片目はとても険しい真剣な表情でうなずき、その表情のまま檻を出た。本当は走りたいんだろうが衝撃によるダム決壊を警戒し、軽く爪先立ちで、歩幅は狭く急ぎ足でトイレに向かった。
トイレのドアを開いた瞬間、片目は鬼の形相になり、荒々しくバタンと扉が閉められ、中からうめき声のような大声が響いてきた。
最初は大波にさらわれるような、制御不能の湧き上がる声。そしてだんだんと人心地を取り戻していくかのように変化し……、最後は安心と安らぎと無償の愛を感じさせるような暖かいため息へ。そして水洗の音が天上の音楽のように響いてきた。
っていうか、何で俺はこんな事を詳しく描写しているんだ。
片目が完全に成仏したかのような、観音様の表情でトイレから出て来た時、俺達は見張り部屋で脱獄計画を練っていた。いや、だってね、片目のやつトイレ長いんだもん。水を流す音が聞こえてもなかなか出てこなくて、俺達もしびれを切らして会議を始めたわけだ。
結局片目は三回も水を流してから出てきた。
まぁトイレの話はさておき。
脱獄するには、やはりこの王宮騎士団側の協力者が必要だろうという事で、俺達の意見は一致した。力づくにも限度がある。それに、どちらにしても内部情報があるのとないのでは大きな違いがあるからだ。
となると問題は、どうやって味方を作るかだ。
俺達が接触できる相手は決まっている。見張り役だ。
どう考えても下っ端だろうから核心を突くような情報を得る事は期待できないが、でもここから出るための情報に限れば、充分有用な情報源になり得る。下っ端の方が篭絡しやすいしね。
まぁ完全に寝返らせる事は無理でも、情報を得るだけで充分だし。この辺は俺の営業マンとしての力が試されるところだな。一番自信ないとこだけど。
さぁどうするか。
男達によると、見張り役は下記のような奴らしい。
①かなり屈強な、小麦色のタフガイ。
②腰に鞭と銃を下げている。
③床洗浄の時、わざと人にも水をあびせてくる意地の悪い奴。
④常に肉を持ち込んで、こっちに見せ付けて食っている。
⑤暇な時は筋トレをしている。
力づくで言う事を聞かせるなんてのはやりたくないが、そもそも力づくは通用しないだろうなぁ、などと考えていると、廊下からワゴンの車輪の音、そしてコツコツという足音が近づいて来た。
「あ、アニキ、来ましたぜ!」
不安げにそう囁く三白眼。俺は連中にとりあえずの作戦を耳打ちすると、ドア脇の壁に背中をつけて、息を殺した。
ワゴンと足音が、ドアの外で止まった。片目が唾を飲み込む音が聞こえた。
ガチャガチャ、と乱暴に鍵を開ける音。続いてドアが開いた。
ドアを押し開いて、ワゴンが入ってきた。
「い~~~~~らっしゃいませぇ~~~!」
俺の歓迎の言葉に合わせて四人がワゴンをぐいっと部屋に引っ張り込んだ。
次回予告!
やっほー!ミュウだよ!
ちょっとちょっとちょっとぉ~!
あたし達、出番なさすぎじゃない!?
サヤもシェライアもセレンも、一体どうなっちゃってるの~?
次回、Take It All! 第九十六話
「カイの交渉術その1。」
読まなかったら鼻に飛び蹴りだからねっ!
まさか、三話連続で男だけしか出ない、とかあるわけないよね?
……な・い・よ・ね?




