第九十四話 牢獄の中。
薄暗いなぁ。それに、尻が痛い。
ごつごつした石の床。俺は何もない牢獄で、ただ座っていた。
せめて木の机や椅子とかはあってもいいんじゃないかなぁ。ベッドとかも。いやもうほんと何もないんですけど。
あきれた事に、トイレすらなかった。マジか。最近じゃ、ちょっと気の利いたRPGなら絶対牢屋にもトイレ描きこんであるぞ。
それにしても。それにしてもだ。
一体どうしてこうなった。
謁見の間で自己紹介したら捕まったんだよなぁ。なんでだろ。
シェリーやセレンは大丈夫だろうか。
俺が騎士団のタフガイ達に引っ張られて謁見の間から連れ出される時、シェリー達については投獄する命令は出されていなかったようだから大丈夫だと思うんだけど。大丈夫だといいんだけど。
モエは、しれっと「私はこの一行を王宮まで連行してきました、フルマラ村のモエです!」と自己紹介してたから大丈夫だろう。しっかりしてやがる。
牢に入れられてる事自体はそれ程問題はなかったが、とにかく情報が欲しかった。
まずはシェリーとセレンの状況。そして、俺が置かれている立場。そしてサヤの行方。
何もわからないし一人になっちゃったしスマホもない。これって結構やばくね?
さぁて、どうしようかなぁ。
俺がシリアスに考えながら、手足に付けられた枷を外していると、隣の牢からガチャガチャという金属音と、ザリザリした聞き苦しい声が聞こえてきた。
「おい、新入り。おめえ何やってぶち込まれたんだぁ?」
そして野卑な笑い声。どうやらお隣さんは四人同室のようですな。
「さぁ、俺にもさっぱりわかんねえんだ」
四人の笑い声がまた響いた。自分のやった事も理解できない馬鹿なのかと、嘲っているようだ。俺は少しいらっとした。
「うっせえな。響くんだから大声で笑うんじゃねえよ」
俺は苛立ちを込めてそう怒鳴った。つうか怒鳴りでもしないと聞こえないくらい馬鹿笑いしてやがったのだ。
「何だとてめえ……」
やっぱりかなり単純なおつむの構造らしく、すぐに頭に血が上ったようだった。だが。
「お、おいちょっと待て。この声どっかで聞いた事ねえか……?」
一人が少し警戒したように言った。ん? 俺の声を聞いた事がある?
俺はふと興味を覚えて牢の檻を開け、隣の牢を覗きに行った。そりゃそうだ。【鍵】の能力だ。
隣の四人組は……三白眼、片目……。そう、以前サヤを追って来て、俺に返り討ちにされた連中だった。
おー、懐かしいな。あれってこの世界に来てすぐの事だったからなぁ。約90話ぶりの再会だ。
「ああああああああああ! こいつは! いや、このお方は!」
「せ、閃光の魔術師……様!」
四人は一斉に俺に向かって土下座の姿勢を取った。
「あの時は、失礼しました! そして、見逃してくださって、ありがとうございましたあ!」
口々に礼を言いながら床に頭をこすりつける。おいおい、痛いだろ、やめとけやめとけ。
「なんだよ、お前達、まだ人買いとかやってたのか?」
俺は呆れて言った。人買いなんてクズだ。もちろんそうなんだが、俺はその「人買い」だけをクズ呼ばわりする気は失せていた。買う奴がいるって事は、売る奴がいるって事なんだ。一人のクズでできる事じゃない。
「いえいえいえいえ滅相もございません! あなた様のお言葉を良く考えまして、俺達も人を売り買いするなんてクズだと思うようになった次第でして。もちろん、組織も抜けました!」
リーダー格が真顔で言った。え、マジ? まさかこいつら、改心したの?
「へー。じゃあ、今はどうやって食ってんだ?」
人買い組織を抜けるのも一苦労だっただろうなぁ、と俺は思った。組織だって、内部事情を知っている者を外に出してほっておくわけにも行くまい。それでもなお組織を抜けてきたというこの四人組に、俺は不覚にも目頭が熱くなってきた。
「俺達は俺達で組織っつうかグループを作ろうとしてたんすよ。誰も来れねえ島に家立てて、人買いに売られてた連中を集めて、畑作ったり、なんか売れるもん作って金稼いで……みたいなさ」
「みんなで楽しくやっていこうって思ったんすよ」
今度は三白眼が真剣な顔で言った。やべえ、俺泣くかも。
「みんな改心したんだな……」
しみじみと俺は言った。
「全部、あなた様のおかげです」
片目がまた頭を下げた。
「あなた様はよしてくれ。俺の名前はカイ。それに、そんな座り方してちゃ痛いだろ? もう普通に話そうぜ」
俺がそう言うと、四人はほっとしたいい笑顔になった。
「やっぱカイのアニキは優しいな」
「厳しい時はビシッと一本筋が通ってるしな」
おいおいいつからアニキだ。俺は苦笑気味に、足を崩す四人を眺めた。
……ん? でも、じゃあなんでこいつら捕まってんの?
俺は四人にその事を尋ねた。
「それがよぉ、アニキ。おかしいんだよ」
無口だった奴がいきなり身を乗り出してきた。なんだいきなりなれなれしいな。
「俺達、グループの最初の資金を作る為に王都に来たんだけどさ。やっぱなかなかうまく行かなくて。それで、申し訳ねえけど、俺達『閃光の魔術師の舎弟』って名乗っちゃったんだよな」
おいおいマジか。まぁでも、俺と会った事で改心したんだったら、そう言いたくなる気持ちはわからんでもない。それに、そういうバックがあれば商売もうまく行くだろうしね。
すんません! すんません! と謝る四人を、俺は怒る気になれなかった。
「いや、そんなの謝らなくていいけど、それでどうなった?」
聞いていると至極真っ当に商売を始めようとしてるように見えるけど。
「……捕まったんす」
リーダー格が言った。え? なにそれ?
「それが良くわかんねえんだよ。俺達アニキが光の魔法を使うとこ、この目で見てるしさ。なのに『人心を惑わすデマを流した』とかなんとかで」
どういう事だ? まぁ確かに俺が間違いなく閃光の魔術師かと言われれば違うんだろうけど。でもデマでこんな牢屋に入れられるか?
それに、こいつらの言った事が嘘だって頭から決め付けてるのもおかしい。
「変な話だな……。でもまぁお前達が人買いで捕まったんじゃなくて良かったよ」
俺は本気でそう言った。なんか、嬉しかった。
「いやぁ、人買いじゃこんな所に入れられませんよ」
片目が言った。
「人買いなんて表向きは犯罪だって事になってますけどね、裏じゃ公然と行われてます。捕まってもそのまま釈放。ただその時に売ろうとしてた人は没収されちゃうんで、見つからないようにしてるだけで」
「没収された人達だって、結局人買いどもが売ろうとしてた所に売られるんですよ。代金の支払先が王宮騎士団に変わるだけでね」
三白眼が吐き捨てるように言った。
俺は、頭の芯までくらくらするような怒りを感じていた。
何だったんだ。
俺が連絡船でやった事は。
騎士団の奴は俺にお礼を言った。あれは団に臨時収入をもたらしたからという事か。
……そうか。こんな国だからか。
こんな国だから、サヤは。
はらわたがねじくれ返るような感覚。くそ、こんな国、ぶっ潰してやる。
その時、リーダー格が心配そうに口を開いた。
「アニキ……そう言えばあのお嬢さん、どうしました……?」
そうだ。サヤはこんな国の中に一人でいるのだ。どうやって探せばいい。どうやって救い出せばいい。
俺の心に、また暗雲が立ち込めてきていた。
次回予告。
カイのアニキの舎弟、片目だ!
カイのアニキと共に脱獄計画を立て始める俺達。
だが、突然、想像を絶する、空前絶後のピンチが俺達を襲う!
その時、アニキが……! 俺にはアニキが神に見えたぜ!
次回、Take It All! 第九十五話
「どきっ☆男だらけの脱獄計画。」
王宮地下牢で、俺と握手!
つうかこの小説、こんな女っ気なくて大丈夫なんか?




