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第九話 お泊り会、開催?

「で、伝説のピクシーオーナー? 俺が?」


 思わず俺は聞き返した。また伝説級の二つ名だ。


「あたし、ピクサリーだよ? ピクシーじゃないけど」


 ミュウもピンと来てないようだったが、シェライアは完全に確信しているようだった。


「太古に繁栄したピクシーには様々な種族があったと聞いている。ミュウ、お前は間違いなくピクシーの末裔だろう。

 大昔に絶滅したと言われているピクシーの生き残りを、こんなところで見る事ができるとは……」


 シェライアは、言葉こそ冷静だが、明らかにテンションが上がっていた。

 だが、ミュウはスマホから出てきた妖精だ。その絶滅したピクシーの末裔ではあるまい。


「絶滅……したのお前?」

「あたしは生きてるもん!」


 ミュウは俺の鼻の頭を蹴飛ばした。


「痛って! お前、すぐ手が出んのな!」

「へーんだ。手じゃなくて足だよー!」


 捕まえようとする俺の手をひょいっとかわし、思いっきり舌を出す。ムカつく。ほんとムカつく。


 まぁでも、ミュウはよく見るとなかなかの美人、いや美妖精? だった。

 思い切ったミニスカートから伸びる長い脚にニーハイを履き、羽の邪魔にならないようざっくりと背中を出したトップス、七分丈の袖は腕にぴったりとフィットして、そのラインを際立たせている。全体的に薄いオレンジの色合いは、ミュウの水色のロングヘアとよくマッチしていた。くびれたウェストと存在感のある胸のメリハリがきいている。フィギュアだとしたら最高だろう。フィギュアなら喋らないし。


「でも、カイ様は閃光の魔術師様なんです! ピクシーオーナー? とかじゃなくて!」


 サヤがシェライアに抗議の声をあげた。サヤにしてみれば、俺が閃光の魔術師でないなんて事は考えたくないのだろう。だが、シェライアは確信を持って反論した。


「いや、間違いない。確かに連れているべきピクシーが絶滅しているのだから、ピクシーオーナーとは架空の存在なのではないかとも言われている。がしかしこうして本物のピクシーを連れている方がいらっしゃるのだから、間違いないのだ」


 いや、ミュウが本物のピクシーかと言われると、そうとも言い切れないのだが。


 しかし、閃光の魔術師といい、ピクシーオーナーといい、【架空の存在だと思われていた伝説の存在】を二つも襲名するなんて。いやもうピンとこない事おびただしい。


「そうなのか? ピンと来ないなぁ」


 俺は素直に口に出した。そりゃそうだ。今日の昼過ぎまで俺はお客さんからコーヒーをぶっかけられる冴えない営業マンだったのだ。この世界に来てまだ半日だと言うのに、ちょっとこれはお腹いっぱい過ぎる。


「カイ様の記憶が戻れば……閃光の魔術師様だってわかるのになぁ……」


 サヤが悔しそうに言った。


「確かにな。記憶を取り戻していただければ、人間の迷信などではなく、ピクシーオーナーであることを自覚していただけるのだが」


 シェライアは腕組みをして複雑な表情で俺を見上げた。いつの間にか俺に対する言葉が敬語になっている。とは言えサヤのように様付けで呼ぶのははばかられるらしく、俺をなんと呼ぶかで悩んでいるようだ。


 閃光の魔術師だろうがピクシーオーナーだろうが、俺からみればどっちも眉唾度では大差ないんだけど、シェライアの自信はどこから来るのか。


「カイ……殿。申し訳ないのだが、明日、大地の神殿までご足労願えないだろうか。長老にお会いいただきたいのだ」


 散々迷った末、【殿】でいく事にしたらしい。しかし、長老に会うとかなかなか大事になってきた。


「サヤも一緒でいいなら行くよ。これからどうするか、あてがあるわけじゃないし」


 俺はサヤの頭にそっと手を置いて言った。


「……わかった。詳しい事は明日話すから、今日はもう休もう」


 シェライアは俺が使うはずだったシュラフを取り上げた。


「……そうだな。サヤは私の部屋を使ってくれ。カイ殿はこちらの部屋のベッドを」


「いやいや、俺が寝袋使うよ。さっきの部屋割りでいい」


 俺はシュラフにもぐりこもうとするシェライアからシュラフを取り上げた。


「いえ。ピクシーオーナーに床でお休みいただく事などできません」


 シェライアは俺からシュラフを取り戻した。ホント堅いなぁ、もう。


「あの……、シェラちゃんは私と一緒にベッドで寝たらいいんじゃないかな……?」


 お、サヤ、ナイス提案! でも、シェラちゃん……?


「シェライアだ」


 シェライアがキッとした目をサヤに向けた。まぁサヤの気持ちはわからないでもない。口調はこんなだが、見た目はあどけない小学生なのだ。


「私は一緒に寝るのかまわないし、そうしよ? 床で寝るのは大変だよ」


 名前の件はスルーしてさらに押す。


「私がかまうのだ!」

「じゃあ、私が床で寝ます!」


 サヤが手を上げた。いや、俺と一緒に……という手もあるんだぞ、サヤ?


「いや、サヤ。お前は病み上がりだ。床で眠らせるわけにはいかない。

 ……仕方ない。二人で寝るしかないようだな」


 シェライアは少しまんざらでもなさげな表情でそう言った。ちぇっ。


「あの、あたしは?」


 ミュウが手を上げた。そうだ、忘れてた。ってゆうか、こいつも眠るのか。スマホに戻っておとなしくしてりゃいいのに。


「あぁ、お前も来い。その代わり、騒ぐなよ?」


「やった! お泊り会! お泊り会!」


 ミュウははしゃいで二人の周囲を飛び回る。


「だから騒ぐなと言っているだろう!」

「ミュウちゃん、しーっ!」


 シェライアとサヤが同時に声をあげた。ミュウは「ちぇー」という雰囲気で、サヤの肩に座った。


「じゃあねー、マスター」


 ミュウがサヤの肩から俺に手を振った。


「じゃあ、カイ様、おやすみなさい」


 最後に、サヤが振り返って俺をみつめた。その視線が意味ありげに見えたのは気のせいだろうか。

 三人は、シェライアの部屋に消えた。




 サヤが寝ていたベッドに身を横たえると、甘酸っぱいサヤの香りが俺を包んだ。

 異世界での最初の一日が終わろうとしていた。


 いやー、いろいろな事があったなぁ。


 俺は今日の事を色々思い出そうとしたが、出てくるのはサヤの事ばかりだった。サヤの香りに包まれているせいかもしれない。


 背中で感じた胸の感触。頬を染めて俺を見つめる切なげな顔。未遂に終わってしまったキス……。

 そんなことばかりが頭に浮かんで、もう俺は叫び出しそうなくらい悶々としていた。こんな事、中学高校の頃以来だ。

 俺は気分を切り替えるために力いっぱい伸びをしたが、そんなことでおさまるものではない。


 ついさっき、別れ際に見せたサヤの意味ありげな表情が気になっていた。あれはどういう意味なんだ?

 ああああもう!

 やべえ。これは眠れないぞ。




 一時間くらいたっただろうか。


 俺が、沸きあがるこの悶々を緩和する唯一の方法を検討しはじめた時、コンコン、とドアがノックされた。

次回予告!


はぁーい!あたし、ピクサリーのミュウ!


深夜にエロマスターの部屋をノックしたのは……?

そして、とうとう転生の経緯とその能力が明かされる!

エロマスターの能力とは一体!?


次回、Take It All! 第十話

「逆夜這い。そして……」

読まなかったら鼻に飛び蹴りだからねっ!



ちょ、なにこれ!

こんなの聞いた事ないんだけど!!!

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