第八十六話 王都への道。
わあああマジか。女子が全部同じ顔とか……ブキミすぎる。
しかもご丁寧に服装までほぼ同じだ。
俺は怖気を震ってモエに視線を移した。
いやもちろん、おんなじ顔ですよ。これってもう悪夢レベル。
俺はシェリーやセレンの顔を見るのが怖くなっていた。だってさ、これでもし彼女たちまで同じ顔になってたらと思うとぞっとしません? 絶望しません?
蛮勇を振り絞ってシェリーの顔を見る。
「ん? どうしたの? おにいちゃん」
おお良かった、いつもの可愛いシェリーだ。
少しほっとして、セレンの顔を見る。
「……何?」
相変わらずの超美人|(丸メガネ付き)。良いねえ。
「と、とりあえず、ここにはサヤの目撃者はいないようだから、モエさんのお言葉に甘えるとするか。
……お願いできますか? モエさん」
俺が他の女性を目に入れないように苦労しながらモエに視線を向けると、少し鋭い目つきになっていたモエはとたんに満面の笑顔になった。なんだろう、やっぱ怖い。
「もちろんですわ。さぁ、では参りましょう」
モエはくるりと踵を返し、俺たちを先導するように歩き出した。
たいしたもんだ。多分相当むかついてたと思うんだよね。最初に俺たちを招待した時、俺がスルーしちゃったから。あれは完全に恥をかかせてしまったわけだ。反省。
でもそのムカつきを微塵も見せない克己心はさすがだった。衆目のある場所では「村一番の美人」というアイドル像を演じ切るという訳だ。
それにしても。
俺の疑問は次から次へと浮かんできた。
いくらなんでも女性が全部同じ顔と言うのはおかしいよなぁ。だって男性はもうやたらバラエティに富んだ顔してたし。それに、同じ顔なのに「村一番の美人」って何が基準なんだ?
サヤが彼女達と同じ顔じゃなくて良かったと、俺は心底思った。好みとかの問題じゃない。どんなにきれいだったとしても、みんなと同じ無個性な顔なのはちょっとねえ。
もしかして。
俺ははっと気付いた。もしかすると、サヤが「醜い」と言われていたのは「みんなと同じ顔じゃないから」ではないだろうか。
もし火の民の女性がみんな同じ顔に生まれてくるのだとしたら、それと全然違う顔を持って生まれてきたサヤは、ある種「生まれつきの障がい」を持つ者として……。
俺は慌ててそれ以上考えるのを止めた。そんなバカな。いくらなんでもそれはひどすぎる。
だがこのままだとどうしてもその事が頭から離れない。
俺は頭を振って、周囲の景色を観察してみた。
いわゆる普通の田舎町だった。【火の領域】なんていうからあたりに轟々と火が燃えているような感じをイメージしてしまっていたが、ホント普通。そうね。昔話に出てくる農村みたいな感じかな。住民の服装は今風でかなりおしゃれだけど。
こうして一緒に歩いていると、モエが本当に村中から羨望のまなざしで見られている事が感じられた。すれ違う男性達はシェリーやセレンそっちのけでモエばっかり目で追ってるし、女性達は憧れや嫉妬の光を帯びた熱っぽい目をモエに向けている。
この村の女性を見慣れてくるにつれて、全くおんなじに見えていた顔が少しずつ違う事がわかってきた。最初は見分けられなかった双子が、仲良くなるに従ってだんだん見分けがつくようになってくるような感じ。
しかし、髪型やスタイルまで同じにしているから、相当見分けづらい。顔が似てるのは仕方ないと思うが、ファッションまで同じにする事はないのに。わざと見分けがつかないようにしてるのか?
とは言えここの女性達が個人を特定されまいとしているわけでもないようだった。普通にお互いを見分けて呼び合っているし、男性も女性一人一人を当たり前に識別している。まぁそうだよね。じゃないと「村一番の美人」って何だよって話だし。
やっぱり、何度考えても、どう考えても謎だった。
モエの家は若い女の子の一人暮らし感満載で、内装はもうピンク、ピンク、ピンクだった。そして、なんか甘い香りがした。
「何もないところですけど、くつろいでいってくださいね。今お茶を淹れますので」
そう言ってキッチンへ消えるモエ。周りに同じ顔がいないせいか、普通に美人に見えるね。うん。
「いえ、お構いなく」
そつなく声をかけるシェリー。モエが淹れてきたお茶は、これまた甘いフレーバー漂うピンク色のお茶だった。徹底してるな。
「早速で申し訳ないが、ここから王都へ行くにはどれくらいの日数がかかるものだろうか」
シェリーが尋ねる。俺もそれが気にかかっていた。同じ浮遊島に王都があればいいけど、もし別の浮遊島だったら水の道とか光の道を何度も昇ったり降りたりしなきゃいけないだろうし、滝と滝の間の距離を歩かなければならなくなる。もし遠かったら相当厄介だぞ。
「そうですね。王都のある浮遊島に行くには……」
モエはそこまで言って、何かを思い出すように考え込んだ。むぅ、やはり別の島だったか。王都に行くのも大変そうだが、その後ガイオウとか取りに戻るのも大変だぞこりゃ。
「多分、今日の便には間に合わないでしょうから、明日になってしまうと思います」
へ? 明日? ってか「今日の便」って何? もしかして飛行機とか? まさかぁ。
「あぁ、おにいちゃんは以前の記憶がないんだっけ。
あのね、火の民は魔法と技術力に優れた人達なの。滝でつながっていない浮遊島同士でも、直接行き来できる船を作ってるんだって」
事情が良く飲み込めていない俺に、シェリーが説明してくれた。
「ええ。この島からは王都への直行便が出ていますから、それに乗ればすぐですよ」
「おお、それは楽しみ……いや、助かります」
シェリーが目をキラキラ輝かせながら言った。プッティ・トルチュの時といい、シェリーは乗り物好きなんだなぁ。
「今日のうちに町に出れば、ステイションホテルに泊まって、朝の直通便に乗れますね」
モエはさらっと言った。え、ステイションホテルって、結構お高いんじゃないの?
「まぁ、ホテルに泊まらなくても、朝まで時間つぶせればいいかな……」
ネットカフェとかあればねえ。ってか、ネカフェ代すらないけど。くそー、スマホの充電さえあれば、空き地に新しいログハウス出せるのに。
「大丈夫ですよ。私の定宿ですから、何とかなります」
モエが笑顔で請合った。
「シェリーも、ファミルエリシャに頼んで長老から経費出してもらえると思うから、おにいちゃん、安心して?」
おお、そうだった。シェリーは大地の民の高級公務員みたいなもんだ。このくらいの経費は持ってくれるだろ。今までなんも経費かかってないし。
「じゃあ、まぁそうさせてもらうとするか」
俺はほっとしてうなずいた。
「では……そうですね。お昼ごはんを食べて一休みしたら出発しましょう。皆さん、お腹は空いてませんか?」
モエはそう言うと立ち上がった。なんだなんだ。手料理を出そうと言うのか? これはまた、読者の皆さんはさておき、この村に住む男性陣の嫉妬を買いそうだ。
俺がどう答えようか迷っている時、家のドアがノックされた。
次回予告。
シェライアだ。
モエ殿の家に招かれた私達。
食事、そして町への移動。頼りはモエ殿だけだ。
私達が目の当たりにした、モエ殿の力とは……!?
次回、Take It All! 第八十七話
「モエの実力。」お楽しみに!
おお、久しぶりにあの料理が食べられるのか! 楽しみ!




