第八十七話 モエの実力。
「あ、来たみたいですね!」
モエがにこやかに笑いながらドアを開けると、そこには料理を持った男達が並んでいた。
なんだなんだ、出前か。それにしては量が多すぎやしないか。
「モエ殿、彼らは一体……?」
訝しげに尋ねるシェリー。そりゃそうだ。シェリーとしても状況がちょっと飲み込めないのだろう。
モエは少しドヤ顔になって彼らを紹介した。
「この人達は、私のお友達の方々です! いつもご飯の時間になると食事を作ってきてくれるの!
……あ、心配しないで下さい、みなさん料理人の方なので!」
マジか。さすがは村一番の美人、といったところ……なのかな?
村中の男性料理人が彼女のためにご飯を作って届けてくれているらしい。彼女は毎食、彼らの料理の中から気分で選んで食べているという。いいご身分だなおい。
「みなさん、今日は三人もお客様がいらっしゃっているので、いつもより採用されやすいです! そうですね、六人分ほど頂きますので、並んでください!」
おいちょっとそんな言い方、好意で料理を作ってきてくれている料理人に失礼じゃないか?
しかし、料理人達は素直におとなしく並んだ。おいおいそれでいいんかい。
こうして、俺たちの前に六人前の料理が並べられた。なんかちょっと食べづらいなぁ。
モエは最後に料理を持ってきた男に何か耳打ちすると、並んでいる料理人達に笑顔を向けた。
「皆さん、今日もありがとうございました! 私、この後、カイさん達と一緒に王都まで行く事になりました。数日は戻らないと思いますので、また帰ってきたらよろしくお願いします!」
モエはそう言って、ドアを閉めた。なんだろ、こいつすげえな。
俺たちは、見せ付けられた「村一番の美人」の威力に正直ドン引きしながら、かなり本格的に美味いその料理で腹を満たした。
食後のお茶も飲み、俺はそろそろ町へ行きたくなってきていた。まぁ正直、こんなところにいたって得るものがあるわけではないし、王都への直行便が明日だとしても、町でサヤの情報を得られるかも知れないじゃないか。
俺がそわそわしだしたのを察知したのか、セレンがボソッと言った。
「……そろそろ町へ行きたいわ。どっちの方向?」
どうやって切り出そうか迷っていた俺としては、とてもありがたい一言だった。こうやってずばっと口に出せるって、うらやましい。
モエは特に気分を害した様子も見せず、セレンに笑顔を見せた。
「ご心配なさらないで下さい。車を用意していますから。夕方までには町へ出られると思いますわ」
何!? 車!? まぁ、浮遊島同士を結ぶ船があるくらいだから、車があってもおかしくはないか。
「助かります。何から何まで……」
シェリーが丁重にお礼を言いかけた時、またもやドアがノックされた。
モエがドアを開けると、今度はガタイのいい筋肉系男子が二人立っていた。
「モエさん、車用意してきました! 四人乗りですよね?」
「ええそうよ、ありがとう」
モエの笑顔にめろめろになっている男達。
そうか、さっき料理人に何か耳打ちしてたのは、車の手配を頼んでいたのか。
「では、参りましょうか」
モエに続いて彼女の家を出た俺達の目に飛び込んできたのは……。
四人がたっぷりリラックスして座れる、広々とした座席。振動を吸収して快適な移動時間を満喫させてくれそうな車輪。そして夢のようにゴージャスな内装。
車の前部にはつやつやと黒光りするゴージャスな持ち手。二人の屈強なタフガイが配置についてその持ち手を握った。
……ん?
「では乗りましょう。
……二人とも、町までお願いね」
モエはそう言うと、さっさと車内におさまった。
そう、用意された車とは、とんでもなく豪勢な、人力車だったのである。
人力車での移動は思いの外快適だった。もうね、むしろお昼寝出来るレベル。てゆうか、モエの隣に座ったセレンは完全に眠っていた。
車内はボックスシート型になっていて、俺は進行方向を向いた後ろ側の席の右側。隣にはシェリー。
俺の向かいにモエが座り、その隣にセレン。普段ほとんど喋らないセレンなだけに、眠った事に全く気付かなかった。ずるいぞセレン。
「それにしても、先ほどの食事は大変結構なものでした。さすがは料理人の方々ですね」
シェリーがそつなく、当たり障りもなく、モエに賛辞を送った。
「そうなんですよ。私がお料理できないので、優しいお友達がああやって心配して作ってくれるんです」
どう? 私モテるでしょ。なんたって、村一番の美人なんだから。そんな意識がチラチラ見えて、俺としてはどうも居心地が悪い。
もちろん、前にいた世界で、ちょっと気になる女の子にやたら貢いだのに手も握らせてもらえなかった的な経験が死ぬほどあるからではない。断じてない。
「今私達が探している仲間も、とても料理が上手な子でした。私も料理の腕には自信がありましたがどうにもかなわなかった」
シェリーは少し目を伏せて言った。そうだ。サヤの料理。料理人達の料理はもちろん美味しかったが、サヤの料理には、それを上回る「暖かさ」があった。
俺は胸にきゅうっと締め付けられるような痛みに似た感覚を味わっていた。
「先ほどいただいた『炎のスープ焼きう』は、私も大変好きな料理の一つなのですが、それも彼女が作ってくれた『冷やし炎のスープ焼きう丼』がきっかけでしたしね」
「うわぁ、私も食べてみたいです!」
モエのテンプレリアクションを聞き流しながら、俺ははっきりと思い出していた。
そう。サヤの『冷やし炎のスープ焼きう丼』は絶品だった。あの料理はきっちり下味をつけた食材を……。
「モエさーん、そろそろ着きますよ! ステイションホテル前につけますか?」
俺が『冷やし炎のスープ焼きう丼』について詳細に描写しようとした瞬間、人力車を引いていた男が声をかけてきた。仕方ない。『冷やし炎のスープ焼きう丼』についてはまた今度描写する事にしよう。
「あ、町の入り口までで大丈夫です! 本当にありがとう!」
前方を振り返って、モエは男達に声をかけた。
「ステイションホテルは町の中心部にあるんですよ。町へ着いたら別の車で行きましょう」
モエが俺達に言った。ほう。別の車。今度はどんなヤツが引っ張るんだ?
そんな事を考えているうちに、人力車は止まった。
そう。王都への直通便がある、この浮遊島最大の町に到着したのだ。
モエに続いて人力車を降りると、町の入り口である事が一目でわかる、大きな門がそびえていた。
次回予告。
……セレン。
モエの力で町に着いた私達。
まずは部屋を取りにホテルへ。
私達はここでも彼女の力を目の当たりにする。
次回、Take It All! 第八十八話
「モエの実力、その2。」
……なかなかめんどくさいのね。人間って。




