第八十話 水! 水! 水!
な、なんだなんだ。この揺れ。この水位の上昇。いやな予感しかしないんですけど。
「こ……これは……! ニミュエ、急ぎなさい!」
総帥ゼットの声は金切り声に近かった。相当やばい状況のようだ。
だが振動が激しすぎてニミュエの魔操鎧は歩く事すらままならない。水位の上昇も加速度的に早くなってきた。っていうより大津波がこの神殿の中に流れ込んできているような勢いだ。
「な、何が起きてるんです!」
俺は声を限りに怒鳴った。いやもうホントわけがわからない状態だ。しかもかなりおっかない。
「クジラ神殿が動き始めています。神の水柱が起きるのかも知れません。早く脱出しなければ……!」
総帥ゼットの言葉に呼応してか、グランデ・トルチュも動き始めていた。首に俺達、背中にドラゴン・トルチュを乗せたまま反転し、クジラ神殿の出口へ向かう。しかし遅々として進まなかった。入り口から大量に流れ込んでくる水がグランデ・トルチュを押し流しているのだ。
でもちょっと待て。クジラ神殿から出たらそこは深海だ。ティティやセレンはともかく、俺やサヤ、シェリーはひとたまりもなく死んでしまうぞ。
「とにかく、ドラゴン・トルチュまで行かなければ……っ!」
ニミュエが必死で鎧を操るが、俺達を落とさないようにするので精一杯の状況だ。俺達は少しでもニミュエの負担にならないよう、魔操鎧の指にしがみついた。
せめて俺達の魔操鎧が使えれば、と考えたがそれは無理だろう。この状態では乗り込むことなど不可能だ。
ドラゴン・トルチュもこちらへ近づいて来てくれているのが見えた。もう少しだ。
その時、一段と大きな振動が起こり、水流が激しくなった。今までは入ってくるだけだった水が、逆側に吸い込まれていっている。まるで、クジラ神殿が大量に水を飲んでいるようだ。
その水流の勢いに、ニミュエの魔操鎧が滑った。
地獄のような一瞬が始まった。
ニミュエ機が滑りながら倒れて水没し、俺達をその衝撃と激流が襲った。引き剥がされまいと必死でしがみつくが、腕が千切れそうだ。
ニミュエ機が腕を水面へ上げ、俺達が一息ついた時、大変な事が起きていた。
サヤがいない。
シェリーはなんとか振り落とされず、けほけほとむせこんでいたが、サヤの姿はなかった。
セレンやティティもサヤの姿が見えない事に気付き、血相を変えて周囲を見回している。
こんな激流に飲み込まれたら、命はない。
俺の頭から血が引いていくようだった。
助けなきゃ。絶対に。しかし、どうやって。
悠長に考えている暇はなかった。
「ニミュエ! シェリーを頼む!」
俺はただ一言そう叫ぶと、激流に飛び込んだ。
「おにいちゃん!」
シェリーが叫ぶのが聞こえたが、俺の身体はもう激流に飲み込まれ、すぐに自分の位置も、水面の方向もわからなくなった。
やばいぞ、これ。死ぬやつだ。さすがに考えなしが過ぎたよな。
でも、サヤは今頃もっと苦しいに違いない。手遅れにならないうちに見つけなきゃ。でもどうやって。
このままじゃ、俺も……。
その時、光る泡のようなものが俺の身体を包み込んだ。
「おにいちゃん!」
シェリーの声。
振り返ると、シェリーも俺と同じような泡の中にいた。直径2mほどの球形の泡。この中には空気がある。推進力はないが、水圧に耐え、呼吸を確保してくれる潜水服のようなものなのだろう。
「シェリー、これは……?」
「ゼット様がドラゴン・トルチュから撃ち出してくれた、緊急救命気泡だって……」
シェリーはやっとそれだけ答えた。サヤの事が気にかかっているのだろう。俺たちはまだ近くにいたから間に合ったが、サヤにも同じようにこの泡が届いているとは考えにくい。今どこを流されているかもわからないのだ。
「くそ、これじゃサヤを探すのも……」
俺達の気泡はなす術もなく激流を流されていた。
既にグランデ・トルチュもどこにいるのかわからない。この激流はどこに続いているのか。そしてサヤはどこまで先を流されているのか。
これだけ長い間水の中にいるとすれば、既に意識はないに違いない。だけど、絶対に死なせたくない。死なせるわけにはいかない。
「……私が助ける」
小さな、しかし力強い声が聞こえた。
俺達のよりふたまわり程小さい気泡を抱えて俺達を追って来たセレンだ。
「セレン!」
「セレン殿、頼みます! もう時間が!」
俺達の声に、セレンは力強くうなずいた。
しかし、この広い激流の中で、どうやってサヤを探すんだ?
「……絶対に見つけるから」
セレンが決意を込めてそうつぶやくと、シェリーとセレンの宝玉が輝きを放った。
「そうか、宝玉同士が共鳴して……。これならサヤも……!」
シェリーが強くうなずいた。セレンは前方に視線を戻した。
遥か先に、微かに赤い光が見えた。
「あそこだ!」
思わず叫ぶ俺。セレンは力いっぱい加速しようとするが、気泡を抱えているせいで思うように加速できない。
赤い光が見えたさらに向こうには巨大な壁、そして激流を飲み込んでいるらしい大きな穴があった。俺達も、サヤもその穴に向かって吸い寄せられていた。なんかやばそうな気がする。
壁の大穴がゆっくりと閉じられていくのが見え、俺のいやな予感はさらに強くなった。
「セレン!」
必死で足を動かし、加速しようとしていたセレンが、突然動きを止め、俺を振り返った。
「……サヤを助けるわ。水の民として」
セレンが再び前を向くと、セレンの傷ついた両足が輝き、鮮やかな青色の鱗を持つ美しい魚の尻尾に変化した。
セレンはあっという間に俺達の気泡を置き去りにして、サヤの下へ泳ぎ去った。
一方向に流れていた激流が突如乱れた。前方の穴が閉じたのだ。突然行く手をせき止められた流れは渦を巻き、俺とシェリーの気泡を巻き込んだ。あっという間に離れていく俺達。だが、どうする事もできない。
こんな激しい渦に巻き込まれながらも、その衝撃を受け流すようにして破壊を免れている気泡の強さにただ感心し、感謝した。セレンが間に合っていれば、サヤだって無事なはずだ。
だがそれよりもこの先俺たちはどうなってしまうんだろうか。【神の水柱】とやらが起きようとしているせいでこうなっているとしたら、その【神の水柱】って一体何なんだ。
その時、再び流れが一方向に向かいだした。前方の穴が開き、水を吸い込みだしたのだ。
あっという間に吸い込まれていく俺の気泡。ええいもうどうにでもなれ。
吸い込まれた先の真っ暗なエリアをとんでもないスピードで押し流されていくのがなんとなくわかる。色んな方向に方向転換しているのも体感でわかる。なんかね、こういうジェットコースターがあったような。
暗闇の中で、突然気泡の動きが止まった。
なんだろう、静かだ。いやー、いやな予感しかしないよね。
なんとなく、気泡が小さくなっている気がした。だとすると、深海の水圧に耐えられる気泡を縮めてしまうくらいの超圧力がこの周囲にかかっていることになる。やだなぁ。トライドライのPコンほしいなぁ。
そうだ。この不安な気分から現実逃避するためにも!
俺がスマホを取り出し【蒼翼の獣戦機トライセイバー OPフル】の動画を再生した瞬間、俺の乗った気泡はとてつもない勢いで上昇をはじめ、周囲の水ごと明るい世界へと射出された。
そう。【神の水柱】とは、クジラ神殿による、壮大な潮吹きだったのだ。
俺は【蒼翼の獣戦機トライセイバー OPフル】を大音量で流しながら、大量の水と共に遥か上空へと噴き上げられていった。
気がついた時、俺の目の前はおっぱい……じゃなかった。
次回予告!
ミュウだよ!
いよいよ新章スタート!
エロマスター達が吹き飛ばされてきたのは、一体どんなところでしょー!
え、ちょっと、エロマスターがおかしくなってる!!
次回、Take It All! 第八十一話
「波乱の幕開け。」
読まなかったら鼻に飛び蹴りだからねっ!
ミュウちゃんも大活躍するよー!
……しばらく出番なかったけどねっ(怒)




