第七十六話 掛け持ち確定。
目も眩む青い光がおさまった時、ガイオウは青の鎧と合体していた。
ってことは、俺は【完全なる奏唱者】としての力を発揮した事になる。伝説の掛け持ちが確定してしまった。
セレンのシートは俺のすぐ左後ろにあった。距離感としては……俺が左のレバーを思いっきり引くと、ひじが胸に当たっちゃいそうな感じ。ラッキースケベに期待大だ。
セレンはシートにぐったりともたれて、上気した顔で息を弾ませていた。これはね、やばいですよ。セレンの息に呼応して、そのたわわな胸が揺れて……。いやいや、今はそんな事考えてる場合じゃない。
「やっと声が聞けた。ありがとう、セレン」
俺はお礼とばかりにイケボを響かせて、セレンの乱れた髪をそっと直した。
「ぅんん……っ」
セレンはまた色っぽい声を出して身を震わせた。最初に会った時もそうだったが、やはり逸材だ。
ガイオウと合体した鎧がどんな形状になっているのかわからなかったが、水の中では最強だろうという自信があった。
マスク野郎達は警戒して距離を取っていた。だが生憎、お前らなんぞに構っている暇はない。
俺は一気に海底付近まで潜航し、高速で移動しながら緑の鎧を探していた。
「シェリー! シェリー! 聞こえたら返事をしろ! アイビー・ウィップを真上に伸ばせ!」
叫びながら周囲を見回す。
遠くに二本、ツタが上に伸びていくのが見えた。あそこだ!
俺は最大加速でツタの根元に、ええと、青の鎧feat.ガイオウを向かわせた。むー。この呼び方も考えなきゃな。
「シェリー! シェリー、大丈夫か!?」
緑の鎧がぐったりと沈んでいるのを確認して急行する。
「お……にぃちゃ……ん……」
シェリーの声は弱々しかった。酸素が足りなくなってきているんだ。俺は緑の鎧を抱えると、一気にまっすぐ浮上した。
岸に緑の鎧を押し上げると、緑の鎧はシェリーを排出した。少しむせながら、ぜいぜいと荒い息をつくシェリー。うんうん、苦しかったんだろうなぁ。安心しろ。おにいちゃんがあいつらをきつくお仕置きしてやるからな。
俺はすぐさま海中に戻り、やっと追いついてきたマスク野郎達と対峙した。あっちは六機、こっちは一機。だが負ける気はしない。
「いくよ、セレン」
まだぐったりしたままぽーっとしているセレンに声をかけると、セレンはこくりとうなずいた。
……だが、どうしよう。
つうか青の鎧の武器ってなんなんだ?
俺が軽くパニクっていると、マスク野郎どもはどんどん近づいてきて、モリを発射してきた。避けるのは簡単なんだが、このままじゃ埒が明かない。グランデ・トルチュも傷ついてるし、ニミュエも相当やばいはずだ。とっとと撃退しないといけないのに現状武装が拳だけとは。
あ、そうだ! 宝玉の武器!
緑の鎧の武装はアイビー・ウィップだった。って事は、青の鎧の武器は、ええと……琵琶?
「よぉしいくぞセレン! 琵琶!」
俺の声は、むなしく響き渡った。
いや、わかってます。琵琶は楽器だよね。武器じゃないよね。わかってるんだけど。
サヤとシェリーが宝玉の武器を使う時は……そうだ。武器の名前!
青の宝玉はデフォルトの状態で琵琶の形状をしているからセレンは演奏に使っていたけど、そのどこかに武器名が書いてあるはずなんだ。
「セレン、頼む、武器名を……あれ?」
振り向くと、セレンは琵琶を構えていた。
『琵琶の演奏をご希望でしょうか?』
セレンはメモ帳に書いた文字を俺に見せた。いや、喋れし。
俺はセレンからメモ帳を取り上げた。
「セレン、君は声が出せるんだ。喋れるんだ。俺は君の声が聞きたい。だから、もうこんな筆談はやめて話してくれないか?」
まだ上気しているセレンは一瞬体を震わせてうつむいた。
「どうして話してくれないんだ? なぁセレン!」
禁呪がまやかしだとわかった今、セレンにはもう声を出さない理由はないはずだ。なのに何故なんだ。
「……恥ずかしいから」
か細い声でセレンが答えた。俺が初めて聞いたセレンの言葉だった。その声は可憐だったが、どうも感情のこもらない喋り方だった。
いやいやそんな事はどうでもいい。まずは武器だ武器。
「セレン、その琵琶のどこかに、その武器の名前が書いてあるはずなんだ。見つけてくれ!」
俺は必死でセレンに頼んだ。結構ね、敵さんの攻撃激しくなってきてるし、ニミュエ達も心配だし、あんま余裕ないんですよ。頼むよセレン。
セレンは小さくうなずくと、琵琶をくるくると回しながら武器名の表記を探した。
「……これ。……ワダツミ・ストリングス」
相変わらずか細く感情のこもらぬ声でセレンが言うと、青い琵琶が変形し、かなり変わった形のクロスボウ(?)になった。そうか、これが青の鎧の武器か!
「ワダツミ・ストリングス!」
俺達を攻撃してくるマスク野郎どもを見据えてそう叫ぶ。
「んぅ……っ」
後ろでセレンが反応する声が聞こえた。こっちは感情がこもっているなぁ。
青の鎧feat.ガイオウの左手に、セレンが持っているのと同じクロスボウのようなものが現れた。弓なんだろうけど矢がない。でもまぁ、なんとかなんだろ!
俺は敵の中央にいるマスク野郎の鎧に照準を定めた。
「いくぞセレン! 一気にあいつらを吹っ飛ばす!」
「……うん」
青の鎧feat.ガイオウの周囲で水が振動し始めていた。高圧のエネルギーが収束してくるのがわかる。
「シュートっ!」
ワダツミ・ストリングスの弦が水を切ると同時に、無数の何かが水中を疾走っていくのがわかった。水の弾丸、いや、水の矢だ。
それは矢のような貫通力と刃のような斬撃力を併せ持って、やつらに襲い掛かった。
マスク野郎達の鎧は散々な状態だった。腕がもげ、胴体のいたるところに傷が付き、完全に戦闘力を失っている。ディーノ達の水の魔操鎧も動くのが精一杯という感じだ。
でもね、ここは水の中。それだけで済むはずがない。
「ま、マスク様! コクピットに、み、水が!」
気色悪いAが半泣きで悲鳴をあげていた。ザマミロ。
「と、とにかく浮上だ! 水面を移動して、撤退する!」
慌てて浮上していく三組。こんなんじゃお仕置きとしては全っっっっっっっ然足りないが、今は先にやらなきゃいけない事があった。
俺は青の鎧feat.ガイオウを浮上させ、シェリーの様子を確認した。どうやら呼吸も整って落ち着いたようだった。あとはニミュエとグランデ・トルチュだ。
青の鎧feat.ガイオウが接近すると、グランデ・トルチュは力なく口を開け、サヤ達とニミュエの鎧を吐き出した。
グランデ・トルチュの口の中では水に浸されていたらしく、鎧の表面は大分滑らかになっていた。が、急激に大量の水を使用したせいか、回復するにはまだまだ程遠い状況だ。ただ水につけているだけじゃダメなのかも知れない。
「……開けて」
セレンが言った。俺にじゃない。ニミュエにだ。だがこんな小さな声で聞こえてるのか?
「ニミュエ! コクピットを開けろ!」
俺がスピーカー代わりに大声を出すと、ニミュエの鎧の胸が開いた。中でぐったりしているニミュエ。良く見えないが、おばあさんになってたりはしないだろうな?
「……力を貸して。カイ君」
セレンがまた感情のこもらぬ声で言った。いいとも。いいけど、どうやって?
どうすればいいかわからずセレンの方を振り向くと、セレンは元の形に戻った琵琶を構えて弾き始めた。この曲は……!
【蒼翼の獣戦機トライセイバー】のEDじゃないか!
俺はセレンの演奏に合わせて歌い始めた。途中からセレンが即興のハモリで合わせてくる。その歌声は美しかった。
俺達の歌声が溶け合い、響き渡った時、青の鎧feat.ガイオウから大量の水が溢れ出し、ニミュエの鎧を包み込んだ。
次回予告。
……セレン。
戦いは終わった。
戦いの傷を癒したカイ達。
だが、彼らにはもう一つの戦いが待っていた。
次回、Take It All! 第七十七話
「戦いの後の戦い。」
こんな事やらされるなら、喋らなければよかった。




