第四十八話 心理戦(?)。
なんだったんだ、一体。
ディーノ達が【プッティ・トルチュ】に集まって来た時、まだ俺は状況が把握できずにいた。
いや、確かに初対面でいきなりおっぱいに顔をうずめたのは問題ありだ。でもあれは不可抗力じゃん。仕方ないじゃん。単なるラッキースケベじゃん。それで命まで狙う?
でもまぁ化け物じゃないって事ははっきりした。生きている超巨乳美人だ。こんな海の中まで追って来られるという事は、多分彼女も水の民なんだろうな。
「サヤ、シェリー、もう大丈夫だ。化け物の正体がわかったよ」
優しいイケボで前の二人に声をかけると、二人は恐る恐る後部座席へ顔を向けた。
二人とも、俺の歌声の効果なのか、だいぶ落ち着いてはいるようだった。が、やっぱり振り向く勇気はなかったのだろう。俺が声をかけたのでようやくこわごわ振り向ける、という雰囲気だ。
「カイ様、正体って……」
「ディーノに、確かめなきゃならないな」
俺はまだ不安の残る表情のサヤにウインクして見せた。
「そうか……あのディーノと言う男、何かあるとは思っていたが……」
シェリーは顔をしかめ、納得したようにつぶやいた。まぁね、確かにあいつが何かを企んでいたという可能性は捨てられないわけだけど、まだ疑うには材料が少なすぎる。でもまぁシェリーはあいつにいい印象を持っていないようだから仕方がないか。
それにしても不可解ではあった。あの巨乳美人が水の民だったとは。あんな巨乳が、貧にゅ……いや、微乳集団の中にいたら目立つし俺が気付かないはずはないんだが。
「何かありましたか? 素晴らしい演奏の前に、ただならぬお声が聞こえましたが……」
ディーノが近づいてきた。さすがに大声で話すべき事ではないということは察しているようだ。
さて、どこまで話すか。
正直俺もこのディーノという男を完全に信じきる事ができずにいた。どうも俺は男に厳しくなってしまう傾向にある。というか、女に甘いのだ。
経験則から言って……えーと、俺、正直女子にだまされた事の方が圧倒的に多いなぁ。それは女性を信じやすいこの甘さが原因か。
あ、いや、だからといって男を簡単に信じていい理由にはならないぞ。うん。女性もちゃんと疑えばいいだけで、女性にだまされているから男を信じていいってわけじゃあるまい。うん。俺間違ってない。うん。
それにさ、この世界に来てから、人をだます女性にはあっていないが男にはろくなやつがいない。
最初の四人組といい、いけすかない男ズといい。うん。やっぱり俺間違ってない。うん。
ここへ転生するきっかけとなったのが水沢優姫という巨乳女性の色仕掛けに乗せられたからだ、ということはすっかり忘れて、俺はそう結論付けた。
「いや、昨日話した例の怪物がまた現れたんだよ。何とか追い払う事ができたけど。こんな海の中まで追いかけて来るんだから、海の中に生息していると思うんだけど、ディーノは本当に何も知らないのか?」
俺は敢えてディーノに対して疑念を抱いている事が伝わるように言った。
わざわざ角が立つような言い方をしたのには理由がある。カマをかけて反応を見る、という意味ももちろん大きいが、それ以上に、相手の判断を撹乱するのが大きな目的だった。
具体的に言えば、例えば現状。
今俺たちは深い海の中で、水の民が用意した小型潜水艇に乗っている。彼らとしては俺たちを完全に確保している状態なわけで、生かすも殺すも思い通りなわけだ。
圧倒的に不利な立場のはずの俺が、そんな事は気にせず敵対することも辞さないとなれば相手はどう思うか。
俺にはまだ何か隠している奥の手があって、いくらでも逆転できるのだと思うだろう。しかも俺は彼らにとっては【完全なる奏唱者】なのだ。未知の力を持っていると考えるだろうし、実際ログハウスを消して見せたりしているから、俺の手の内を計算する事はできないはずだ。
実際はもう完全に俺たちの死命を握られている状態なんだけど、相手にそう教える必要はないからね。
と、営業マン(無能)時代のノウハウを応用したカンペキな作戦を頭の中で解説し、心の中でドヤ顔になる俺。
「そうですねぇ……」
ディーノはひとしきり考えた。
「……やはり、聞いたことはないです。化け物に見えてしまう外観の生物もこの近辺にはいませんしね。深海の方には少しグロテスクな風貌の生物もいますが、このあたりまで上がってくることはできませんし、ましてや島の陸地に上がるなんて事は不可能です」
ディーノは本気で言っているようだった。言っている事にも矛盾はない。そりゃそうだ。【怪物】なんていなかったんだから。この場を適当に切り抜けるために、こちらの話にあわせて嘘をついたりはしない、という事は確認できた。
あとは、水の民の一員だったらしいあの巨乳美人について、どう確認するか。
サヤもシェリーも、俺がディーノに探りを入れている事がわかっているのか、余計な事は言うまいと黙っていた。ミュウを呼び出していなかったのは正解だな。
「そうか……海の中の事はディーノの方が専門家だしな。信用しよう」
俺が少し厳しい表情で言うと、ディーノは少しほっとしたような笑顔になった。
「でも、見間違いとはちょっと思えないし、目的地に着くまで一緒に行ってもらえないか? 昨夜は君たちが見張っていてくれたおかげで怪物が出なかったわけだし。あぁそれから、お世話になっている水の民のみんなにもお礼がてら挨拶したいんだけど」
「わかりました。みんな一人残らずご挨拶に来るように伝えます。実はみんな奏唱者様に興味津々なのですが、いかんせん引っ込み思案なので……。奏唱者様からのお声かけなので、みんな喜んで伺うと思います!」
ディーノは言った。
ふうむ。という事は、あの巨乳美人はこの群のメンバーじゃないって事かな。まぁ、見た限りではみんな微乳だったしなぁ。
とりあえずディーノは、今何かを隠そうとしてはいないという事だろう。何もやましい事がないのか、それとも俺の目に触れさせない自信があるのか、どっちかだ。まぁ、どちらにしろなんとかなるだろう。
俺はそう楽観的に考えて、次々と挨拶に来る水の民達に手を振って応えた。
「こらー! 仲間はずれにするなぁぁ!」
と、突然ミュウの声。なんだ、起きたのかよ。
ミュウはスマホの画面から顔を出して周囲を見回した。
「え? え? なにここ! 海の中? 水は?」
外を泳ぐ魚の群れや人魚達。その幻想的な光景にすっかりミュウのテンションは上がっているが、水が苦手なため飛び出せないようだ。
「あ、ミュウちゃん、おはよぉ! あのね、ここは潜水艇の中だから水は入ってこないよ!」
サヤが笑顔でミュウに挨拶する。サヤもシェリーも、イケメンや美女ぞろいの人魚達に手を振って、すっかりご機嫌だ。
「あ、そうなんだ! きゃっほー!!」
ミュウがざっくりと背中の開いたネグリジェのまま飛び出してきた。天蓋つきのベッドに合わせて寝間着を変えたのだろう。スケスケの生地のようだが色気を全く感じないのは、ええと、まぁミュウの人徳というところか。
……ごっ。
突然響く鈍い音。
言わんこっちゃない。狭い潜水艇の中で思いっきり飛び回ろうとして、ミュウは思いっきりガラスに顔をぶつけていた。こんな狭い所で飛び回るからだ。ったく。
「うう~~~~~~~……」
そのままふらふらと落ちて来たミュウをつかんでスマホの中に押し込む。
「お前はそこでおとなしくしてろ。まったく」
「……ふぁい」
ミュウはふらふらとベッドまで歩いていき、ぼふっ、と倒れこんでおとなしくなった。
「ミュウちゃん、だいじょぶかなぁ」
「結構な音がしていた。確実にあれは、痛いパターンのやつだ」
サヤとシェリーが心配そうに画面を覗き込む。
「あの……大丈夫ですか……? 何かありましたか……?」
外からお嬢様風の上品な美しさを持った人魚が心配そうに覗き込んでいた。うん、この子も貧……微乳です。
「あぁ、大丈夫。ちょっと勢いよくぶつけただけだから。それより、あとどれくらいで着きそうかな?」
俺が超絶イケボで応えると、その人魚は他愛もなく耳まで真っ赤になった。かわいい。
人魚ってのは歌や音楽をこよなく愛する民らしいから、声とか音の刺激に弱いのかも知れないぞ。うへへ。
「あ、あのっ、もうすぐ、つ、着きますっ!」
かわいそうなくらいしどろもどろになって彼女が指差した方向を見ると、前方に光り輝くお城が見えていた。
そうか。あれがドラゴンパレスキャッスルか。随分和風だな。
その城は、小さい頃に絵本で読んだイメージのままの、まさに【竜宮城】だった。
次回予告!
やっほー!ミュウだよ!
いよいよ竜宮城にとうちゃーく!
そして乙姫さまとの会食!
タイやヒラメの舞踊りが見られるのか!?
次回、Take It All! 第四十九話
「お城とノーパンと謎の地雷。」
読まなかったら鼻に飛び蹴りだからねっ!
うまく行ってる時って、絶対何かトラブルが起きるよねー!
と、フラグを立ててみる!




