第四十九話 お城とノーパンと謎の地雷。
考えてみれば当然なのだが、ドラゴンパレスキャッスルのほとんど全てのエリアは水で満たされていた。まぁ、水の中に作られたお城なのだから当たり前すぎるほど当たり前なんだけど、なんとなくカルチャーショックだった。
だってさ、お城の中を、例えば大広間や大きな通路を、潜水艇に乗ったまま進むんだぜ? ちょっとやそっとの違和感ではない。でもこの方が、空間を立体的に使えて効率がいいよな。
お城の奥まったところに、地上からの来客をもてなすためのエリアがあって、そこには空気が充填されていた。通路を通ってそのエリアの入り口へ浮上すると、大き目の銭湯のような空間だった(もちろん洗い場とかはない)。
【プッティ・トルチュ】が浮上して床に上がり、ハッチが開いた。俺たち三人は、うーん、と身体を伸ばして【プッティ・トルチュ】から降りた。
出入り口となっているそのプールに、人魚達の顔が次々と浮かんできた。ディーノが上がってくると、続いてさっきのお嬢様風人魚がプールのふちに手をかけた。
あれ? あの子、上がってくるつもりか? 下半身魚でしょうに!
水の民って男は人間の姿、女は人魚なんじゃないの? かの天才手塚○虫の名作【海のトリ○ン】のト○トン族もそうだったはずだ。
……あれ? でも、あの巨乳美人はロングスカートで隠していたが、確実に足があったぞ。
とすると、あの巨乳美人は男なのか? それとも、やたら素潜りが超人的な人間なのか?
一瞬にしてぐるぐると色々考えた俺の疑問は、これまた一瞬にしてケリがつけられてしまった。
よいしょっ、と言う感じで水から上がろうとしたお嬢様風人魚の下半身が光り、魚状の下半身が人間の脚に変わったのだ。
なぁんだ。可変式か。
どうやら水の民の女性は、水中モードと陸上モードで下半身だけ変身できるらしい。男の方は水中でも足のままだったから、人魚形態になれるのは女子だけと言うことか。男が人魚形態になれないのは本当に良かった。見たくないし。
しかし、あの巨乳美女はさっき逃げ出す時も魚の下半身じゃなかった気がする。尾びれとか一切見てないし。ってことは、やっぱり男なのか……?
いや、そんなわけない。あんなにすばらしいおっぱいを持っているのが男だったらもう俺はどうすればいいのかわからない。それに、どう考えてもあのおっぱいは天然物だ。俺が知る限り唯一の巨乳人魚が男だとか悪夢でしかないよマジで。
そんな事をぐるぐると考えて一人でパニクっている間に、お嬢様人魚は下半身を人間に変えて上がってきていた。
「早速、我が総帥にお会いいただきましょう。私と、こちらのニミュエがご案内します」
「ニミュエと申します。よろしくお願いします」
ディーノに紹介され、お嬢様人魚ニミュエがエレガントに挨拶をした。
そうか。なんで人魚達が腰にパレオみたいに布を巻いていたのかわかったぞ。
そりゃあ、ほら、腰になんか巻いてないと、ねえ。人間態に変形した時に、ほら、丸見えになっちゃうわけで。
まてよ。でも、魚状になった時の事を考えると、パンツははけないよなぁ。
ってことは。
ニミュエのパレオの中は……。
俺はごくりとつばを飲み込んだ。ニミュエのパレオにそっと視線を……。
「では、行きましょうか」
俺の視線の前にディーノが割って入った。お前じゃねえよ。
階段を上ると、そこは賓客をもてなすための部屋だった。周囲と天井はガラス張りになっていて完全に海中の様子が伺える。鯛や平目が舞い踊るのを見るのにもうってつけだ。
視線を遮る壁なんかは作りたくなかったんだろう。この部屋の出入り口は床に作られていて、階段で上ってくるようになっていた。
俺はニミュエの後に続いて階段を上がりたかったのだが、先頭を導くのがディーノ、そして殿を務めるのがニミュエの役割だといって聞かなかったので、泣く泣く先に階段を上がるはめになった。ちっ。
部屋の中央には丸いテーブルがしつらえられており、既にきらびやかな和装の女性が席についていた。これが乙姫様か。昔からあのじいさんと交流がある割にはすげえ若いな。どう見ても二十代だ。
変なところに感心していると、乙姫様と思しき女性はすっと優雅に立ち上がり、しなやかに一礼した。
「ようこそお越しくださいました、【完全なる奏唱者】カイ様。
私が水の民を治める総帥にございます」
もうね、優雅この上ないですよ。【総帥】という役職名がほんとそぐわない感じ。
でも、長老といい総帥といい、こんな偉い人たちがへりくだるなんて、伝説の英雄ってのはほんと崇められた存在なんだなぁ。
「お招きいただきありがとうございます。私が……」
「【ピクシーオーナー】の……」
「【閃光の魔術師】でいらっしゃる、カイ様ですっ!」
俺の挨拶を食うようにして二人が口を挟んだ。おいおい、失礼だぞ。
しかし乙姫様は怒ることもなく優雅な微笑を浮かべた。おお、さすが大人の女性だ。
「そうでしたわね。ディーノから伺っておりますわ。
さぁお食事にしましょう。ディーノ、ニミュエも同席してくださるわね?
それから……カイ様のお連れ様も、お名前を伺えるかしら?」
乙姫様のあくまで公平で優しい言葉に、シェリーもサヤも感動しているようだった。
「あ、あのっ、私はサヤっていいますっ!」
「私は大地の民、長老直属、ピクシーオーナ付きの特別兵長、シェライアと申します。長老より書簡をお預かりしてまいりました」
二人は少々上ずった声で自己紹介した。特にサヤの上ずり方はハンパない。なんかね、理想の女性像を見つけた! って感じ。憧れが声に出まくっている。
ニミュエに誘導されて俺が乙姫様の向かいの席に座ると、全員が席に着いた。位置関係としては、俺の向かいに乙姫様、俺から見て左側奥にシェリー、手前にサヤ。右側奥がディーノで手前がニミュエという配置。
サヤやシェリーは緊張の面持ちだったが、ニミュエの表情も緊張しているように見えた。もっとも、彼女の場合は総帥と同席している緊張感ではなく、俺に対する緊張らしい。時折ちらちらと俺の方を見たり、俺が喋るとそれだけで身体を震わせたりしている。そうか、これが声フェチと言うヤツか。
そうこうしているうちに料理が運ばれてきて、会食が始まった。
やっぱり、魚介類中心のフルコースというのはすっごく高級感がある。こんなに刺身を食ったのは初めての経験かも。
人魚が魚を食べるって、なんか最初違和感バリバリで信じられなかったんだけど、よく考えてみたら俺達も陸上の動物を食ってるわけだし、当たり前だよな。
メニューのほとんどが魚介類と海藻類でやたらヘルシーなんだけど、もちろんそればかりではなく哺乳類の肉やパンまであった。まぁ鯨やイルカみたいな哺乳類もいるわけだし、穀類はところどころにある島に自生しているものを収穫しているらしい。パンなんかは水中で食べられるものじゃないし、ここでは完全に珍味の部類だ。
陸上生活者をもてなすプロトコルが定められているのか、きっちりと食後のお茶まで供された。普段水中で食事をしているのだから、食後のお茶は習慣として成立していないだろうに。
「とてもおいしいお料理でした。ご馳走になりました」
シェリーが改まった口調でそう言って、よいしょ、と椅子をおりた。
「先ほど申し上げた、我が長老よりお預かりした書簡でございます。是非お目通しくださいますよう」
うやうやしく一礼し、書簡を渡すと、乙姫様はにっこりと笑って受け取った。
あの内容を、この上品優雅な乙姫様がどう受け取るのだろう。俺は、真剣な顔で書簡を読み進めている乙姫様をまじまじと見つめた。いや、あれをその真面目な表情で読めると言うのはすごい精神力だぞ。
「その書簡に記載されております通り、俺達はかなり困ってるんです。
是非、乙姫様のご協力をいただけませんか?」
乙姫様が目を通し終わるのを見計らって、俺はそう切り出した。
「何……? 奏唱者様、今、なんとおっしゃられた……?」
乙姫様はキッとなって顔を上げた。え、俺なんかまずい事言った?
「……私は乙姫などではない。訂正していただこう」
エレガントさは崩さないが、口調が変わっていた。
水の民総帥の目は、怒りにふるえていた。
次回予告。
サヤです。
突然怒り出した水の民の総帥。
険悪な空気の中、カイ様は交渉を成功させる事が出来るのか!?
私達の命運を握るこの交渉に、カイ様は……。
次回、Take It All! 第五十話
「我が名は……。」お楽しみに!
うぅ……私、なんかフクザツな気分……。




