第三十六話 見られている……?
すでに日は傾き始めていた。夕焼け時も近そうだ。窓から見えるオーシャンビュー。なかなか悪くない。
脱ぎ捨てたスーツはかなり痛んでぼろぼろだった。そりゃそうだろう。階段から転げ落ちたり、メカに乗ったり、メカに襲われたり、とてつもない距離を吹っ飛ばされたり。ほんと『異世界での冒険は、動きやすい格好で』というのは、【ぼうけんのしおり】に書いておいてくれないと。
シャワーも浴びたかったが、まずは着替えが先決だった。俺はまず、短パンとTシャツを【R-DL】して着替えると、次にサヤとシェリーの衣装を選んだ。
海だよ。うん。海。だったらそりゃもう水着でしょう!
サヤには赤のビキニにパレオ。シェリーには、明るい緑色のスク水。残りの充電はこれで5%。
俺が彼女らの水着を抱えてリビングに出ると、二人はテーブルについたまま、何故か半端ない緊迫感を漂わせていた。
「サヤ、シェリー。着替えを……」
思わず俺も息を飲む。
サヤは真剣な表情で、グラスの中をストローでかき回していた。シュワシュワ湧き出る泡が痛みの元凶だと察知したのだろう。一生懸命かき回して、泡の発生を食い止めようとしているようだ。
シェリーは、自分はそんなの平気だもん、という顔をして、グラスを口に当てていた。いや、相当顔こわばってるから。こくこくと少量飲んでは、けふ、と小さなげっぷが出てしまうその感じ。
サヤのグラスで氷がぶつかる涼しげな音と、こくこく、けふ、というシェリーのリズム。なんかシュール。
「ごめんごめん、炭酸入ってないジュース用意しとくから、二人ともシャワー浴びてこれに着替えといで」
俺が改めて声をかけると、二人はやっと反応を見せた。
「あ、カイ様、ありがとうございます!」
早速それぞれの水着を受け取る二人。お着替え後が楽しみすぎる。
「ありがとうおにいちゃん! でも……」
シェリーが、テーブルの上のグラスをもう一度ちらっと見た。
「でも、あの飲み物、ちゃんと最後まで飲みますから!」
「捨てちゃダメだからね! おにいちゃん!」
サヤとシェリーは真剣な表情で念を押すと、二人で浴室へ入っていった。
二人の入浴中、暇になった俺は外をぶらついてみた。本当に何もない島なのか、ぐるっと回ってみようと思ったのだ。
さっきまでと違ってスーツじゃないからかなり快適だ。俺は海岸線に沿って歩き始めた。
日が傾いて空がだんだん紅く染まり始めている。波も穏やかで、いわゆる夕凪ってのに近い状態なんだろうか。地面は砂浜という感じでも、磯という感じでもない。岩場ではなく、波打ち際もあるなだらかな海岸線なのだが、肝心の砂がない。滑らかな大岩って風情だ。
見る限りでは、俺達のログハウス以外の建物は見当たらなかった。無人島ということだろう。
いや、待てよ。
ここが無人島なら、あのおっぱいは。いや、あの巨乳眼鏡美人は。
島の周りには水平線が広がっている。人の住むような島や大陸があるとしても、かなり遠くのはずだ。
あの美人は一人でここまで泳いできて、泳いで帰ったと言うのだろうか。
まさか、幽れ……。
そこまで考えた時、俺はどこからか見られているような視線を感じ、はっと身を固くした。
周囲を注意深く探ってみたが、やはり人の気配はなかった。うーん、気のせいか。
俺は気を取り直して島の周回を再開した。島のどこにも人工物はなかったし、木や草といった自然物もなかった。そして、水平線のどの方角にも、島や大陸らしいものは見つからなかった。
あ、いや、あるにはあった。島から数十メートルほど離れた海面に突き出た二つのオブジェ。
ガイオウと緑の鎧だった。俺達と一緒に飛ばされてきたのだろう。
さすがに暗くなり始めている事だし、鎧の回収は明日にする事にして、俺はログハウスに戻った。
ログハウスに戻ると、二人は既にシャワーを終えていた。
「カイ様、おかえりなさい!」
「おにいちゃん、おかえり!」
同時に声をあげ、駆け寄ってくる。サヤのビキニ姿がまぶしい。シェリーのスク水姿は、何というか、背徳感すら感じるレベル。これはまずい。とにかくTシャツかなんか上に着させなければ。充電やばいなぁ。
そんな俺の気苦労などそっちのけで、二人はテーブルからすっかり気の抜けたサイダーのグラスを取り上げ、一気に飲み干した。
「ほら、もう大丈夫ですカイ様! とてもおいしいです!」
「シェリーもちゃんと飲んだよ、おにいちゃん!」
ちょっと待て。これからこんな三人の生活が始まるのか? なんかこのままハッピーエンドでいいくらい幸せ感満載なんですけど。
「二人とも、よく頑張ったね。今度は炭酸入ってないやつ飲もうか」
俺がにこやかに言うと、二人は笑顔でうなずいた。
「カイ様もシャワー浴びて下さい。その間に、私お夕食作ります!」
サヤが手を上げた。
「しかしサヤ、先ほど確認した限りでは、見たこともない食材ばかりだったが」
シェリーが深刻そうな顔で言った。やっぱりサヤに対してはその口調なのね。
「うん……。でも、なんとかなるよ!」
言っては見たものの自信がないという顔のサヤ。そっか。あっちの世界の食材だから、サヤ達にはわからないわけか。
だとすれば話は簡単だ。
「サヤ、シェリー、ちょっとこれ見て」
俺はスマホを取り出し、某有名レシピサイトを開いた。これを見て作れば間違いない。二人が見やすいように【Ex-ピンチ】でスマホを拡大した。
「多分どの料理でも食材や調味料は揃ってると思うから、簡単そうなやつでいいよ。二人で協力して作ってくれ。
じゃ、悪いけど、俺は風呂入って来るから、よろしく」
真剣な表情で画面を見ているサヤとシェリー。
俺は二人の頭をぽんぽんっと撫でると、浴室に入った。
このログハウスは相当金持ちが買うもんなんだろうなー。
俺はバスタブに湯を張って、ゆっくりと浸かっていた。いやー、広い。このバスルームだけで、あっちの世界で俺が住んでいた部屋全体分くらいの広さがある。
それにしても、この水の領域に飛ばされて来て、これから何をすればいいんだろう。
そもそも、この島から脱出する事は出来るのだろうか。【R-DL】で船とか出せばなんとかなるか。そうなるとしばらくは船旅、海洋ロマンとなるわけだな。
そんな事を考えていると、ふと誰かの視線を感じた。の、のぞきか!?
サヤか? シェリーか? どっちでもどんとこーい!
しかし耳を澄ますと、キッチンの方から二人が料理している声が聞こえてくる。
え、じゃあ、今の誰?
俺は思わず立ち上がった。ザバーッと湯音を立てて洗い場に出る。周囲の気配に耳をそばだてた。
……気配はもう消えていた。
なんだなんだ、この島、気味悪いぞ。
なーんかいやな予感がするなぁ。この展開。
俺はちょっと脳裏をよぎったその不吉な予感を振り捨てて、浴室を出た。
「おにいちゃん! ごはん出来てるよ!」
シェリーがテンションMAXで俺を呼んだ。
「お、何作ってくれたのかな」
と言いつつ、実は香りで結構わかっている。
テーブルに並んでいたのは、オムライスとオニオンスープ。
そしてテーブルのそばには、それぞれ水着の上にエプロンをつけたサヤとシェリーが、俺をにこやかに迎えていた。
次回予告。
シェライアだ。
無人島で、初めての夜。
静寂を破る少女の悲鳴。
私達に、信じられない恐怖体験が襲い掛かる!
次回、Take It All! 第三十七話
「まさかのホラー展開?」お楽しみに!
おにいちゃん……おにいちゃん……助けて……!




